第二十七話 僕は凡人
「そこだ、そこを右!」
ウィンプの指示のまま、とにかく走り続ける俺。
「そろそろ、聞いても良いの?」
正直言って目的はよく分かっていない。
ウィンプへの信頼と、その焦った顔に何かがあるとそう感じたから走っているだけだ。
流石に聞いておきたい。
「……この場所、オイラが来たのは初めてじゃ無い。
ずっと昔、本当にこの世界が出来るルーツになった頃に来たことがあった」
ウィンプは大精霊、相当昔から生きている。
その事実は知っていたけれど、イサナホルンに関わっていたとは勿論考えもしなかった。
「オイラは、多分お前の祖先も知っている。
だから、あの場所に案内しなくちゃいけない。
オイラから説明するのは多分間違っているから」
何を言っているのか分からない。
……俺の祖先?つまりこの世界が出来た時にいた人物の一人ということか?
俺の能力にも関係がある?
能力が覚醒したあの日、抱いた疑問が急に紐解かれていく感じは、少し怖い。
「とにかく、行けば分かる。
今回オイラたちと敵対してる、ボスってやつがどれくらい強いかは知らないが、あんな扉を出してくる奴だ。
少なくとも……とにかく、一生のお願いだ!
俺のいう通りに行動してくれ!」
大妖精の一生を賭けるほどだ、それだけの何かがある。
俺のやりたいことは全員五体満足で帰ること。
それが出来そうなら、今この行動を続けることを迷いはしない。
遂に壁の前、ウィンプの指示が無くて立ち止まる。
だが、ウィンプがそこを触れば文字が現れる。
よく分からない文字、アルデハインで見た文字ともまた違う不思議な雰囲気を感じさせる、そんな文字。
「ウィンプがやったの?」
「いや、誰でも出来たはずだ。
昔の文字で書かれているものだから、伝承されていなければ気づけるはずもないけどな」
文字、少し眺めて昔の記憶と繋がる。
そういえば、お父さんのコレクションの中にこれと同じ文字で書かれた本があったかもしれない。
俺の祖先、つまりお父さんにとっても祖先……少なくともその仲間となる人が書いたこの壁一面の文字。
もしかしたら、物心ついた頃からいなかったそんなお父さんのことも分かるのかも。
ウィンプは文字の前で何かを操作するように作業を続けている。
俺の世界のことだ、ドキドキと胸が鳴り続けているのはずっと変わらない。
「とにかく、壁が開いたらそのまま飛び込んで真ん中にある石碑に触れろ」
「ウィンプは?」
「そのボス、とかいう奴が気がかりだ。
すぐに壁を閉めて誰も入れなくする。
……勿論、昔の俺たちは対策済み。
ワープ出来る能力者だとしてもある程度は通さないようになってるさ」
「そうなんだ、じゃあプラン変更しないとね」
先に攻撃をしかれられたのは俺の方。
突如現れたそいつの逃げ先に、扉が出現しそのまま吸い込まれていく。
「ウィンプ、閉めるのってどれくらいで行ける?」
「そっちはあんまり掛からない。
掛かってもせいぜい十秒くらいだろ」
「分かりました、ワンチャン倒すね」
「悪い、俺も見てないが状況はよく分かる。
ちょっとこっち集中したいから頼むわ」
「了解!」
空中に扉が現れる、だが次の瞬間には俺の真下にも扉が現れて足を掴まれた。
「フェイクかよ!」
そのまま空中に身体を投げ出される。
さっきの扉から出されてそのまま地面に墜落した。
「あ、どっかもっと遠くに送れば良かったのか。
やばいやばい、冷静さを欠いてたな」
ようやくじっくり姿を見ることができたそいつの姿。
俺よりは一回り小さいくらいの身体のサイズ。
でも、それでも隠し切れないほどのオーラがある。
一言で本能が告げる、こいつはヤバいと。
「よう、俺がいわゆるボスってやつさ。
お前らの後を追っていれば探しものを見つけられそうだと思ってな、少し泳がせた」
実際、こいつの目的には大きく近づいたことだろう。
どうやら扉を使って、この壁の奥には行けないらしいため、最悪のケースは俺の瀕死。
俺を人質に取られた時、優しくて仲間想いのウィンプがこの壁を開いて倒してしまう可能性は高い。
この先に何があるかは相変わらず分からないが、少なくともこいつの手に渡るのはまずい……気がする。
だから、もっと集中しろ。
何でもありのワープ能力を一つのミスもないくらい捌ききれるように。
自分の真下に扉が現れる。
さっき見た戦法、次引っかかったらゲームオーバー間違いなしの攻撃。
すぐに横にそれる。
と、その瞬間。
俺の逃げ先にも扉が現れて、もう開かれていた。
「ヤバい!」
間一髪、扉の上フレームを掴みそのまま飛び越える。
その後も道を辿るように、出てくる扉を何度も躱して
いく。
「ははっ、おもしれぇ!
ここ最近、色んな世界を見てきたがそこまでの戦闘センスがあるやつを見たことがなかった!」
そうして高笑いする自称ボス。
こっちは喋る暇もないくらい動き続けさせられているって言うのに。
とんでもないチート能力だ。
ウィンプさんに害をなしそうな扉を蹴り壊す。
ウィンプさんは俺を信じてただ操作を続けている。
くそっ……後どれくらいで壁が開くかを聞いておけば良かった。
もうすでに心が折れそうだ。
「第二フェーイズ!」
次は俺の移動先に扉が現れることはない。
ただ周辺で扉が現れたり消えたりし続ける。
……ボスの姿が見えない。
まあ、この攻撃の意図は非常に分かりやすい。
勿論、それを踏まえてどうにかなるかは別として。
突如俺の目の前に現れた扉から腕が伸びる。
掴まれた俺は勢い良くその腕を振り払う。
これがいわゆる第二フェイズということらしい。
無限に見え隠れする扉のどこからか急に飛んでくる攻撃。
引き込まれたらその時点でゲームオーバー。
何なら別世界のどこかに放置される可能性すらある。
相変わらずの鬼畜難易度だ。
さっきと同じく目の前に扉が現れる。
瞬間、後ろにも扉が登場した。
となれば、とっさに後ろを警戒する。
だが、答えは前。
身体を掴まれる、一気に引き摺り込まれた。
つまりここでゲームオーバーだ。
「こんなところで終わってられるか!」
俺は扉の中で必死にボスの体に捕まり続ける。
扉の先は、ウィンプさんの近く。
二人揃って飛び出て、蹴りで俺は突き飛ばされる。
……危ねぇ!
「ったく、なんて執着心だよ!
……マジでお前強いらしいな、仲間になんない?」
何でこの後に及んで嬉しそうなのか、ボスは俺にそんな提案をする。
「なんない」
勿論、普通に拒否した。
それでもボスは嬉しそうな表情のまま、俺に接近してくる。
まさか、このままやるつもりか?
構える俺に向かってくるボスは急に身体を低くして、視界から外れる。
次の瞬間には、俺の顎に足を振り上げていた。
体は二周半、くるりと回ってからようやく地べたに転がる。
こいつ、能力無しでも普通に強い!
「なぁ、俺はここまで俺の力で来たんだぜ。
俺とお前は良く似てる、能力が最近目覚めた。
それに……ストーリーが何もない」
「ストーリー?」
「ああそうさ。
他の皆は、沢山の苦労や思い出の上に生きている。
でも俺たちは、能力が目覚めるまで脇役どころかチョイ役みたいな顔して惰性で生きてきた。
不幸な奴らより、よっぽど可哀想だろ?
空っぽの人生の俺らにこそ、能力はあるべきだ」
「……」
俺は答えられない。
ずっと能力を望んできた自分のことを思い出す。
当たり前の生活に納得して、いつの間にか異世界への憧れをしまい込んだ。
全部を納得できるわけではないけど、理解できる部分もある。
「なあ、俺は主人公になりたいんだ!
ようやく目覚めたこの力で、誰もが普通だって見捨てた俺たちが世界を変えるんだ」
「……やっぱり、俺はお前を倒さないと。
これから、お前と友達になるために。
沢山、話をするために」
俺も寂しくて、少しは辛くて。
普通が嫌なんて贅沢だって皆が思うだろうけど。
ルノに出会っていなかったら、異世界救助隊の皆に出会っていなければ俺もきっと。
色んなことに気づけなかったかもしれない。
「確かに似たもん同士かもな、俺たち!」
「ああ!」
俺の周りから、光が消える。
気づいていなかったけど、俺は能力が無くても案外戦える。
勿論、能力はとんでもないアドバンテージで使ったほうが強いに決まってるけど、今は使いたくなかった。
お互いが能力を捨てて、全力でぶつかり合う。
これは、単なるお互いの経験による殴り合いだ。
ぶっ飛ばして、ぶっ飛ばされて感覚を共有し合うように戦い続ける。
こんな風な気持ちになったのは初めてだ。
「……これも似たもの同士、だからかもな」
俺の拳が顔面にクリティカルヒットする。
ボスの身体は地面を擦って、向こう側まで飛んでいった。
立ち上がった彼は、まだ笑みを崩さない。
「なぁ、もういいよな。
能力解放して、こっから本気でやり合おうぜ」
「ミドロ!今しかないぜ!
壁を開くぞ!」
ウィンプさんの掛け声にハッとし、開かれる壁の向こうに飛び込んでいく。
「待てよ!まだ勝負は終わってねーぞ!」
勿論、そんなことでボスが諦めるわけもなく扉の力で一気に壁ギリギリまで飛んでくる。
それを止めたのは、大量のツルたちだ。
「行ってこい、お前にはこいつを助ける義務がある」
走り去っていく俺の背中を遮るように壁は閉じて元通りになった。
「あああああああああああ!
せっかくいいところだったのに、どうしてくれる!」
「どうするって、少しの暇つぶしだ。
俺が遊んでやるって言ってるんだ」
「うわああああああああああああ!」
ウィンプはただ、帰還することを信じてその攻撃を受け止める。
壁の先は長い道が続いていた。
ウィンプも現在進行形で戦っているんだ、俺は急いで道の先へと向かう。
「これが、ウィンプの言っていた……」
目の前にはウィンプを見つけた時のような石碑。
ウィンプの言っていた通りに、その石碑に触れてみる。
……何も起こらない。
「あれ、もしかして何か違ったかもしれ……」
だんだんと視界が歪んで、目が閉じていく。
そこから間も無く、俺の視界は暗闇に包まれた。




