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異世界救助隊  作者: 里下里山
本編
25/31

第二十五話 曇る視界

 一体どれくらいの月日が流れたのだろうか?

 こういう疑問を抱く時は大抵、多くの時間が過ぎた時だが、今回はその逆。

 あの日……その当時は「誘拐」なんて言葉で表してしまったが、異世界の旅が始まったあの日からまだ一ヶ月。

 それでも、濃くて長く感じる旅だった。


 ……ようやく、帰ってきたのだ。

 俺の故郷、イサナホルンに。


「ハガリ、焦り過ぎるなよ。

 今回は全部救うんだろ、まずは冷静に行こう」


 昨日の出発時刻は遅かった。

 当たり前だ、あの二つの世界での争いはたった一日で起こり、その日のうちに解決したのだ。

 これでも、最速で突破したと言えるレベルだろう。


 ただ、時間が遅かったという事実は勿論存在するわけで救助隊のメンバーも直ぐに眠りについてしまった。

 それこそ、今の時間起きているのは俺とガンテツさんくらいなものだ。

 ガンテツさんは今回も無事に仕事を終え、コーヒーをゆったりと飲み干す。

 前少し飲ませてもらったそのコーヒーはあまりに濃くて苦くて、俺にはまだまだ早いという印象だった。


「勿論、なるべく冷静ではいるつもりです。

 ここまでの運転、ありがとうございます」


「ふふっ、この船を俺は愛してやまないんだ。

 使ってやれるのはこの上なく幸せなことだ、それこそ俺の方から感謝したいくらいにはな」


 そのお礼、ということなのだろうか。

 カップにコーヒーを注いで、俺にも寄越してくれる。


「どうだ、ちょっとは飲めるようになったか?」


「……まだ苦いです」


 朝の静寂に混ざるくらいの静かな笑みが溢れる。


「ただまあ、少しは落ち着いただろ?」


「ですね……。

 ちょっと皆を起こしておいて貰って良いですか?

 朝食を食べたら、集落まで向かうように伝えて下さい」


「リーダーの頼みならもちろんだ」


 とりあえず皆のことは任せるとして先に船を降りる。

 ああ、やっぱりここは俺の故郷で間違いない。

 肌感や匂い、景色に空気。

 久しぶりに帰ってみるとこんなに懐かしさを感じてしまうものなのか。


「集落……皆どうしているのだろう」


 歩き慣れた道を噛み締めるように歩く。

 前より足取りが重たくて、やけに歩きづらく感じるのは必死に気づかないようにしている心根の不安が原因なのかもしれない。

 母さん、ばあちゃん、皆……。

 一人一人の顔を順々に思い浮かべられるくらいには、ここの生活が長かったし、愛していた。

 特別特徴がある場所とも思えないが、着いてみると直ぐにわかってしまう。

 俺は、久しぶりに集落に足を踏み入れた。


 集落の様子はとりあえず前と変わっていない。

 だが、圧倒的に違うのは外に人が出ていないということだった。

 ばあちゃんの家、つまり集落の中心地までやってきたが結局、誰一人に会うこともない。

 まあ、この船を出発してからすぐにアロナさんの頭に思い浮かんでいたから、何かあったとは思っていた。

 ばあちゃん家の扉に手をかける。


 ガチャガチャ……鍵がかかっているようだ。

 扉を何回かノックする。


「おーい、誰もいないの?」


 ようやく扉が開く。

 人の視線分くらい、本当に狭い範囲が開き様子を見られている感じだったが、すぐに全開になった。


「ミドロ、ミドロなのかい!?

 …………とりあえず、中に入ったほうがいい」


 会えた喜びに浸かる間も無く、すぐに家の中に入る。

 ばあちゃんらしくもない落ち着きのない様子で、扉を閉め直す。

 俺の方を向き直ったかと思えば、ペタペタと頬を撫で続ける。


「本当に、ミドロなんだねぇ……。

 あの日、急にいなくなっちゃって。

 心配……したんだよ」


「ごめん」


 あまりにも忙しなく過ぎていったこの一ヶ月近くで忘れかけていた。

 俺たちが救助隊に入ったその事実も伝えられず、悲しみに暮れていたであろうばあちゃんたちのことを。

 心の底から心配してくれたであろうことが想像できて胸が痛くなる。


「いいんだよ、私たちだって何もできなかった。

 ミドロだけでも帰ってきてくれて……」


「いや、ばあちゃん。

 ルノも一緒で、もう少ししたら合流するよ」


 ばあちゃんの目が丸くなる。

 少し涙ぐんでいる様子も見てとれた。

 何かに安心したように聞いてくる。


「じゃあ、もしかしてリルドもいるのかい?

 アスゴやタンデも?」


 …………は?

 アスゴにタンデ、彼らは集落の住民だ。

 急に名前が出てきて困惑してしまう。

 

「ばあちゃん、どういうこと?

 俺はルノのことしか知らないよ」


「……え?

 あんたたちも、あいつらに連れ去られたわけじゃないのかい?」


 あいつら?

 やばい、どこかで話がすれ違っている。

 集落の人々も数人姿をくらましているってことか?

 それに……


「リルド……母さんも行方不明なの!?」

 

 ばあちゃんは状況を察したようだ。

 困ったように、それでも嘘はつけないと首を縦に振る。

 俺の心臓は痛いほどに動き続けている。


「一体何が、何が起きてるんだよばあちゃん!

 急いで、俺、行かなくちゃ!」


「ダメだよ!

 相手は不思議な力を使ってくるんだ。

 私たちにはどうすることもできないんだよ」


 ドンドンッ!!


 強くドアが叩かれて、俺たちの肩が跳ね上がる。

 ばあちゃんは真剣な目で俺のことを見た。


「……いいかい。

 この部屋に隠れて、絶対にいることがバレちゃいけないからね」


 ゆっくりとばあちゃんは歩みを進めドアを開く。

 俺は流れてくる音に全神経を集中させた。


 ガチャリ。


「何か、用事でしょうか?」


「いや、何か喋ってる声が聞こえたんだけど。

 私たちのボスがこの世界にお熱でさ、こんな場所にずっと居続けるの退屈すぎんじゃん??

 だからさ、何か知ってるならさっさと差し出してくれない?」


「ずっと、何を仰っているのか分からないんです。

 手伝おうにも手伝えません」


「ねー、こいつどうすればいいと思う?」


「……連れて行くか?

 何発か殴ってみれば情報の一つも吐くかもな」


「だってさ。

 どうする、おばあちゃん?」


「………………。

 ええ、連れていっていただければ」


「はぁ、めんどくさっ……。

 ここで吐けって言ったつもりなんだけどなぁ。

 もう、邪魔だからころ……」


 俺は飛び出して、一撃を喰らわす。

 今殴ったのは白いフード付きのローブと長い杖を持ったのが特徴の女。

 そしてもう一人、スライムのような異形を数体連れている男。

 完全にアルデハインとスアイガイで事件を起こした奴らと関わりがありそうな感じだ。

 男は掛けている眼鏡をクイっと押し上げながらほくそ笑む。


「あぁ、誰かと思えば奇襲しか戦い方を知らない脳筋君じゃないか」


「それ、煽っているつもりか?」


「嫌だなぁ、事実を述べただけだろう」


 男は高笑いをする、やけに嬉しそうに俺のことを見る。


「この集落を守るんだろ?

 早く攻撃してこなくて良いのかい?」


 何だ?あえて攻撃を誘っている?

 一旦乗る必要はない、実力が分からないうちは様子を見るべきだ。


「っと、僕のおしゃべりはこんなところで充分かな」


「本当、そういう性格悪いところ味方でもムカつく」


 女の方は力を溜めていたらしい、杖から大きい岩が撃ち放たれる。

 クソっ、奴の口車に乗せられて時間を与えてしまった。

 避けようと動こうとした瞬間、足をスライムに取られて岩が直撃する。


「ぐっ!」


「ほら、次行くよ!」


 スライムの身体の一部が拳に変わり俺の方まで飛んでくる。

 その攻撃を受けようとした瞬間。


「そーれ」


 女が杖でばあちゃんを思いっきり殴ろうとしている様子が目に入った。

 間一髪、ばあちゃんの前に建てるが杖の打撃を思いっきり喰らってしまう。


 「はぁっ……はぁっ……」


 正直言って、この二人は非常に強い。

 頭も回るし、技術もある。

 戦闘において、一番厄介なタイプと言っても過言ではないだろう。

 ばあちゃんを守っている状況であること、二対一の構図であること、考えればたくさんの言い訳が出てきてしまうが、少なくともこの状況で勝利を掴むのは難しい。

 今回の目的を思い出せ、全員怪我なく帰ること。

 勿論、それはばあちゃん含めた集落の人々も例外ではない。

 連れ去られた人々の顔が一瞬浮かぶが、今は目の前のことだけ。

 とりあえずばあちゃんを逃がして、この集落を守りきりそれでいて、俺も安全に戦う秘策。


 俺は思いっきり走り出す。


 相手の周りを何周もぐるぐると回る。

 安心しろ、この二人は岩を使うのとスライムで攻撃する方。

 つまり、目で追えない俺を攻撃する手段は存在しない。


「走り回ってたら当たりはしないってこと?

 ……君の足は普通の人よりまあまあ早いくらいで目で追えないことはないんだけど?」


「ってか土埃たち過ぎて最悪〜!」


 目で追えない、別に俺はそんなことをしようとしているわけではない。


「土埃?おい、まさか……?」


 土埃が立ち始め、視界が曇り始める。

 ばあちゃんのいた場所は覚えている、相手が困惑した一瞬の隙に入り口付近まで運ぶ。


「ミドロ、あんたこんな力一体……?」


「全部終わったら話すよ、ばあちゃんに沢山土産話があるんだ」


 俺はまた走り出す、今度は思いっきり土を掴んでぶん投げる。

 俺のパワーで巻き上げられた土も込みで、やはり全体が土埃で包まれた。


「おい、気をつけろ!」


「うん、とにかく後ろ見といてよね」


 複数人だったら、声を出さずに連携をとるのは難しい。

 更に音速ってわけじゃないが、俊敏になっている俺の一撃は。


「急に来たら、反応できないだろ!」


 ようやく、男の方にも一撃与えた。


「悪いな、相変わらず奇襲ばっかで」


「脳筋野郎……!」


 まあ、言ってしまえばこれは単なる奇襲でやっているうちに体力も奪われるし、相手も慣れる。

 俺の本命は……。


「ミドロ君、こんなことしなくても私たちのこと待っててくれれば良かったじゃないですか」


「こういう先走るところもハガリに似てきた」


「多分、元からじゃない?」


 こんなに土埃が上がっていれば、何かあったことには気づいてくれると思っていた。

 救助隊のメンバーが揃い踏みだ。


「さぁ、人数はこっちが逆転した。

 吐いてもらうよ、消えた俺の家族について」


 ああ、俺の脳みそはすこぶる冷静だ。

 それこそ今朝、コーヒーを飲んでいなかったら危なかった。

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