第二十四話 後一つ
「ハガリ、ハガリ!!」
アロナさんは部屋に入った瞬間、ハガリさんに思いっきり抱きつく。
ハガリさんは、と言えば全身ぐるぐるの包帯姿。
アイリスさんから受けた傷はそう都合よく消えるはずもなく、ここに残ることになっていた。
今いるのもアルデハインにある病院の一室だ。
「ちょ、いてええ!
抱きつくのはやめとけ、一応怪我人だぞ!」
「あ、ごめん」
パッと離れるアロナさん。
ようやく二つの世界の戦争を止めてから一時間くらいが経っただろうか。
ハガリさんは何とか笑顔を作りながら言う。
「いや、全然大丈夫だ。
さっきに比べたら大分マシになった。
……それより、お前ら今日中に出発するんだろ?」
「はい、ハガリさんがいないのは心配ですが……」
俯くルノを見て思う。
ハガリさんは俺たちのリーダーであり、心の支柱でもあった。
悪く言えば、かなり頼りきっていたと思う。
多分、イサナホルンでは一番大きい戦いになる筈だ。
そこにハガリさんがいないという事実は、想像以上にメンタルに来る。
「……なぁ、二人には悪いんだけどさ。
ミドロと少しだけ話してもいいか?」
ハガリさんが急にそんなことを言い出すから心臓がやけに締まった感覚を覚える。
俺は……今のハガリさんとは正直喋りたくない。
というか、喋りづらい。
何となくそんな悪い空気に居づらくなったからなのか、もしくはハガリさんを信頼しているからなのか、二人は訳も聞かず、静かにその場を後にする。
「後で私にも別れくらい言わせてよ」
そう言ってその場を去るアロナさんを見送って少し、ようやくハガリさんは笑顔を崩す。
「なぁ、ミドロ。
お前さ、俺のこと怒ってるか?」
「……………………。
よく分かりません」
ああ、時間の流れがやけにゆっくり感じる。
こういう嫌な時に限ってそんな風に感じてしまうのは人間の欠陥だな、とふと思う。
……つい、そんな考え事で気を紛らわしていた。
時間もない、しっかり喋っておこう。
「でも、自分勝手だなとは思います。
俺たちに作戦の詳細も伝えないで自分がボロボロになる。
それだけで解決してしまった。
俺は、少しは頼られているのかもしれないって……」
「そりゃあそう思うよ、酷い話だよな。
俺はミドロが死にかけた時、あんなに動揺して。
自分では簡単にこんなこと出来ちまうんだから」
……俺も、同じだった。
一回トラウマレベルであんな目に遭って、それでもフードたちの拠点近くで、自分以外が助かればいいと炎の魔法を一人だけ受けようとした。
結果的にドラゴン達に助けられたが、あれもあのまま喰らっていたら、今度こそヤマエは立ち直れなかったのかもしれないのに。
「だから……」
考えていたことが途中から口に出た。
その勢いは止められない。
「だから、反省してもらいます。
そうやって皆を心配させたハガリさんもルノも。
魔法使いの皆も、スアイガイの村人たちも。
アイリスさんも、これから戦う奴らにも」
……もちろん、俺自身も。
「じゃあさ、一つ提案なんだけど。
救助隊のリーダー、俺が戻るまで任せていいか」
まさかそんな答えが返ってくるとは思わず、困惑が顔に出てしまう。
ハガリさんはただただ答えを待っている、流石にこの状況で冗談ということは無いらしい。
何となく、ハガリさん以外がリーダーをする姿が想像できなくて、子供じみた質問を返す。
「リーダー、っていっても一体何をすれば良いんですか?
俺にはハガリさんみたいに士気をあげたり、冷静に作戦を考えたりはできないですよ」
「今回はそんなまどろっこしいことしなくても良い。
俺からのお願いを聞いてくれるだけで良いんだ。
……全員生きて連れ帰って、俺に謝るチャンスをくれ。
怪我なんかも一切させないで、完璧に勝ってくれ」
怪我をさせるな、今のハガリさんがそれを言うなんてあまりにもずるい。
俺はそこで久しぶりに笑ってしまった。
「ハガリさん、自分勝手すぎますよ」
「お前なら、やれるだろ?」
俺は席を立つ、心のモヤはようやくなくなった。
後は今度こそ全部救う、ただそれだけだ。
俺はあえて答えることもしない、少なくとも俺たちのリーダーはハガリさんしかいないのだから。
「じゃあ、行きますね。
……これ、良い話で終わらせませんから。
後でネチネチ何時間でも話しますから」
またお互いに少し笑う、そのまま扉に手をかける。
次に会うとしたら、全員元気に帰っててきたその時だけだ。
廊下では、アロナさんとルノが待っている。
そういえば別れを言わせてほしい、みたいなことを言っていたな。
「話終わりましたよ」
「うん、じゃあ今回は任せたよリーダー」
「お願いしますね、リーダー」
背中を思いっきり押す二人。
話を聞かれてたのか、少し恥ずかしい。
病室に戻る二人を見送って、俺はそのまま船へと向かう。
「あーミドロ!
ようやく戻ってきたー!」
船の中に入ると、すぐに声をかけられる。
相手はこれからの荷物整理をしていたヤマエだ。
結局、二日くらい残ったかつアルデハインのメンバーと合流したため、再度積荷の見直しをしてもらっていた。
マヤが村の方から色々と運び込んでくれていて、それを船の入り口で受け取りながら俺に進捗を聞く。
「どうだったハガリさん?
無事とは聞いてたけど、やっぱ心配でさ」
俺も運ばれていく荷物整理を手伝いながら答える。
「まあ、それなりに怪我はしてるみたいだったけど、命に別状は無さそうだったよ」
「はぁ、そっか良かった。
良かったねー!ガンテツさん!」
「あ、おい!
……まぁ、良かったな」
どうやらガンテツさんに聞いてみてくれと言われていたようだ。
船を離れられないとは言え、長い付き合いのハガリさんのことだ、気になっていたのだろう。
「コホン……それでだミドロ。
出発は今日中になりそうなのか。
今日中ならば、もう出発したいくらいなんだがな」
「それこそ出発したら俺たちは一旦寝れるので、ガンテツさんが良ければ……って何で俺に聞くんですか?」
「どうせハガリのことだ、お前をリーダーに指名しただろうと思ってな」
……長い付き合いって凄いなぁ。
そこから間も無くして、アルデハインに行っていた二人も戻ってくる。
その後ろには、アイラとウィンプの姿もあった。
「アイラ!
もしかしてついてきてくれるの!?」
「まあね……。
私の家族が迷惑かけたもの、少しくらい罪滅ぼしさせてよね」
アイリスさんは、アルデハインの住民を家族と呼び愛していた。
勿論、今回の件で住民たちもその意識が芽生えたのだろう。
そんな風に思う、俺の表情を察して直ぐに修正を入れるアイラ。
「あぁ、何か勘違いしてるみたいだから言っておくけど。
女王は本当に私のママだから」
「「えーーー!!!」」
一同あんぐり、ルノは過去の自分のリアクションを見ているようだとほくそ笑んでいる。
……なるほど、アイリスさんがあそこまで感情的になってしまった理由が更に分かった。
「っておい!今日中に行くって言ったんだろ!?
何こんなところで立ち往生してるんだよ!」
ウィンプがいてくれて助かった。
早く行かなくては、俺自身に決着をつけるためにも。
兎にも角にも、メンバーは揃った。
「よし、それじゃ荷物も運び込んだようだし。
改めて出発とするか」
俺たちの船はゆっくりと高度を上げていく。
何か外が騒がしい気がして、外を見る。
「「みんなー!」」
スアイガイの村人たちが船に向かって手を振っていた。
がんばれ救助隊、なんて横断幕まで作っている。
「かましてこい!ヤマエ!」
やっぱりよく響く村長の声に大きく手を振って返すヤマエ。
「行ってくる!」
アイラとルノの視線はその逆側の窓、扉がある場所を向いている。
気になって行ってみると魔法使いたちが手を振って見送りに来ていた。
その後ろではアイリスさんがアイラを頼むと頭を下げる。
「ルノ、今度は私たち一緒に戦えるね。
……頑張ろっか」
「うん、今度は一緒に」
そう言って自分の手を見つめるルノ。
その手を握るアイラ、二人は嬉しそうに笑った。
ウィンプも窓を見て、何かを考えているようだ。
そういえば、ルノの特訓以降は何をしていたのだろうか。
彼もアルデハインに残っていたことを思い出す。
久しぶりに話そうかと考えていると背中を押された。
その正体は、やっぱりアロナさんだ。
「あのねミドロ、やっぱり頭の中浮かんできた」
「……!
分かりました、ありがとうございます」
どうやら、推理は概ね当たっていたらしい。
俺たちの行き先は間違っていなかったようだ。
……少しだけ、違うんじゃないかと期待もしていたが。
アロナさんはそんな俺の頭をポン、と叩いた。
先輩には敵わない、そう思う。
「大丈夫……私たちもついてる。
こんなに頼もしいメンバーが集まるのも久しぶり」
あの時、俺の故郷が敵の目標だと知った時。
俺は居ても立っても居られなくて、気がおかしくなりそうなほど頭は混乱して。
でも、もう大丈夫。
大きく息を吸う、周りのメンバーを見渡す。
俺にはこんなに心強い仲間がいるんだから。
「リーダー、皆に一言」
アロナさんに言われるがまま、俺は船のホールの中心。
普段はハガリさんがいた場所に立つ。
皆がそれぞれの別れを終えて、俺の方を見る。
「それじゃみんな、この一連の事件を終わらせに行こう。
俺たちが次向かうのは俺の故郷であり、守りたい場所」
ここまで、本当に色々なことがあった。
ルノと出会い能力に目覚め、救助隊に入った。
二つの世界の危機を超えて、ようやくこの場所へ。
今度は、もっと強い敵を一切の被害を出さずに。
……今聞くと笑えるくらいの難易度、それでも
「行くぞ、イサナホルンへ!」
「「おー!」」
全員が手を挙げ、結束力を固める。
その中にハガリさんの声があった気がしたのは、単なる寂しさからかもしれない。




