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異世界救助隊  作者: 里下里山
本編
19/31

第十九話 ヤマエ

 「よいしょ、とりあえずこれで大丈夫か?」


「見せてください!

 ……はい、これなら育ってくれると思います」


「よし、それじゃもう一本……」


 時間は昼前、それでもたくさんの種族たちが集まって各々作業をしている。

 ハガリさんも村人たちの指示を仰ぎながら、植林をしている最中だった。

 今すぐこの世界が元通り、なんて都合のいい展開が起こることは無いけど、それでもゆっくりこの世界は景色を取り戻してくれることだろう。


 ここ数日の大事件、勿論大変なことばかりだったし失うものも大きかったが、決して収穫が無かったわけじゃ無い。

 今朝、ハガリさんが招集をかければすぐに種族のリーダーたちは集まってくれたし、こうした復旧作業にも前向きに取り組んでくれている。

 この世界も、後は良くなって行くだけだ。


「ハガリさん、俺にも手伝わせてください」


 勿論、俺も黙って見ているわけにはいかない。

 ハガリさんの正面にしゃがみ、苗を手に取る。

 しかし、ハガリさんは俺の苗を優しく取り上げる。


「お前にはやらなきゃいけないことがあるんだろ。

 この世界にいられるのも本当に後少しだけだ。

 しっかり話をしておけ」


 そうハガリさんに諭された。

 ……昨日、俺はヤマエに声をかけられた。


「あのねミドロ、明日のどこかでも時間あるかな?」


 ……彼女はこれまでたくさん辛い思いをしてきた。

 ここ最近は色々なことを考えてきただろうし、俺自身が理由でメンタルが不安定になった事実もある。

 正直な話、彼女が俺を呼び出してまでどんな話をするのか俺には予想もつかない。

 それでも、向き合わなくちゃいけない。


 ハガリさんの言葉に、今一度考えを改める。


「ちょっと、探してきます」


「おう、復旧作業のこととか救助隊のことは一旦気にしなくていいからな」


 テント周辺に急いで向かう。

 少し探し回って、ようやくその姿を見つけた。


「ヤマエ!」


 一瞬ビクッとした、その後ろ姿はすぐにこちらに向き直して、一直線に向かってくる。


「この後、大丈夫なの?」


 その人物は、勿論ヤマエだ。

 この数日、かなりの時間を過ごしてきたのだ。

 間違えるはずもない。

 それでも、何だかいつもと雰囲気が違うような気がして少し呆気に取られた。


「うん、いつもと雰囲気が違うような……」


「久しぶりのお休みだから、少しおしゃれとかしたんだ」


 確かにいつもの動きやすいイメージの格好とは大分装いが変わっている。

 

「それじゃ、行こ!」


 ヤマエに手を引かれ、村から飛び出す。

 結局、目的を聞くことも出来ず歩いて行く。

 その間、ヤマエは自分の思い出話を沢山してくれた。

 村のことや豆知識、自分の子供の頃の話。

 そういえば、そんな話をするタイミングもほとんど無かった。


 話に夢中になって数分、目の前に突然古びた塔が現れた。


「凄い、知らなかったこんな場所」


「あのね、今日はミドロをここに連れて来たかったの」


 塔の中の螺旋階段をゆっくり登り始める。

 長い階段を登りながら、この塔の不思議な魅力に周りを見渡す。

 ようやく頂上に辿り着いた時、その景色は更なる魅力を増した。


 「おお……」


 目の前には大きなこの世界を現すかのような雄大な景色が広がっていた。

 沢山の山々や、穏やかに流れる川。

 俺たちが過ごしてきた場所もよく見える。


「どう?

 とっても綺麗でしょ?」


「うん、本当に凄い」


「やっぱり、ミドロなら気に入ってくれると思った。

 …………ここまで、色々大変だったね」


 俺も深く頷く。

 フードたちとの戦いは想像以上に苦戦を強いられた。

 実際、命を落としかけたくらいに。


「フードたちって何でこんなことをしてきたんだろう?」


 ボソリとそんなことを言うヤマエ。

 当然の疑問だ。

 フードたちの正体は、異世界から来た能力者だと思う。

 でも、彼らがやってきたことは振り返ってみれば嫌がらせレベルのことだった。

 誰か憎い人物がいる、お金が欲しい。

 そういった目的が全く見えない行動。

 だけど何か計画性は感じられる……結論は出ない。


 そういえばアルデハインでの一連の騒動、あれも同じような疑問が湧いてくる。

 ……考えすぎかもしれない、それでも何かまだ解き明かせていない、底の部分があるような気がしてならない。

 また、ハガリさんと話をしておく必要があるかも。


「大丈夫!?ミドロ〜!」


「ああ、ごめんごめん」


 やばい、少し考え込みすぎた。

 気づけば、ヤマエの声も聞こえなくなってしまったようだ。


「……そういえば。

 結局さ、ヤマエは今日何か用事とかあったの?」


 ヤマエと今日出会ってから一時間経ったくらいだろうか。

 ようやく、目的を聞くことが出来そうだ。


「うーん、じゃあまず一つ。

 本当にありがとう、ミドロたちがきてくれて救われた」


 そう言って深々と頭を下げるヤマエ。


「ううん、それはこっちのセリフ。

 皆が協力してくれて、ヤマエも色々乗り越えて。

 俺たちだけだったら終わってた」


 確かに、俺たちがこの世界に来た頃に比べると見違えるように世界は変わった。

 何とかこれから良い方向に向かっていきそうだが、その要因が俺たちだけじゃないことはちゃんと理解している。

 むしろ、俺はまた自分の弱さを痛感させられた。

 何度でも誓う、これから強くなると。


「あとは、えっと、好きな食べ物とか……。

 ……ふぅ、ごめん今の無し。

 …………じゃあ、話すね」

 

 身体を預けていた塔の壁面から、身体を離しこちらに向き直すヤマエ。

 俺も同じようにヤマエの方を見る、真剣な雰囲気が伝わってくるからだ。

 彼女は大きくを息を吸う、その空気を時間をかけて吐き出すように落ち着いたトーンで話し始める。


「えっとね……あのね。

 私、ミドロのこと好きだよ」


 数秒、周辺の空間に静寂が流れる。

 ようやく俺も口を開くことが出来た。


「……え?」


 ようやくその意味を噛み砕けた瞬間、頬に熱が張り付く。

 俺がいた集落には同年代がほぼいなかった、その影響だろうか。

 考えがまとまらなくて脳内がぐちゃぐちゃになる。

 驚きだったり、喜びだったり。

 そういった感情が群になって襲いかかってくる感じ。


「えと、ありがとう?」


 結局、最終的に出せた言葉はそれだった。

 ヤマエの表情が崩れていく。


「ふふっ、何それ。

 ……まだ、答えを出すのは難しいよね」


「うん……」


 俺には異世界救助隊もある。

 自分の能力のことも知っていかなければいけないし、まだまだ他の仲間たちの心配も尽きない。

 ヤマエが求めている答えも分かっているつもりだが、答えることは出来なかった。


「ミドロにとって、異世界救助隊は夢だったんでしょ?」


 今度は言葉にすら詰まって頷くことしかできない。

 さっきの道中でヤマエにも色々話をした。


「じゃあ!……じゃあさ、私も夢叶えて良いよね。

 私も異世界救助隊に入る、私も異世界に連れて行って」


 彼女の宣言に唖然とする。

 勿論、本気であることはよく伝わっている。


「私はもう失わない。

 この世界を襲った奴らの根本だって知りたいし、ミドロたちが知らないところで死んじゃうのも嫌だ。

 だからさ、私も連れてって」


 気づけば、ヤマエはハガリさんと話をしていた。

 ハガリさんは仲間が増えることに嬉しそうに頷く。

 ヤマエは、今回の事件でもかなり活躍してくれたしその強さを示してくれた。

 きっと、これからも活躍してくれることだろう。


 そういえば、この世界に来た最初の方で落としていた俺たちの荷物を、ガウラスさんたちが見つけてくれたらしい。

 ようやく戻ってきた無線機で、ゴウテツさんに成功の報告をする。

 今日の夜には、船も近くまでこれたようだった。


 船がついてすぐ、俺たち救助隊チームBの四人で集まって歓迎会をすることになった。


「乾杯!」


 ゴウテツさんとハガリさんは豪快にお酒を飲み干す。

 俺たちも後を追うようにジュースを喉に通す。


「それでな、これから俺たちは明日アルデハインへ向かうことにした。

 ミドロには悪いが、一度合流した後にこれからについて話すとしよう」


「いえ、悪いなんて……」


 むしろ嬉しいことだ。

 久しぶりに皆に会える、どうやら大事には至っていないということらしい。

 アルデハインにもう一度行けること自体も凄く嬉しい。


「とにかく、俺たちにも強力な仲間が増えたことでより一層、良いチームになった。

 次、どんなことがあるかは分からんがまた頑張ろう」


 その後は、各々ここまで疲れを流すように楽しんだ。

 途中で村人たちが乱入してきたり、とにかく良い思い出になった。


「それじゃ、明日な」


 時計を見てみればかなり深い時間を指していた。

 どうやら、今日はお開きということらしい。


「じゃあ、これからよろしく」


 最後、新たなメンバーとなったヤマエに握手を求める。

 彼女は不服そうな顔で握手を返す。


「言っとくけど、たくさん異世界を巡って冒険してミドロが夢を叶えたって思う瞬間が来たらまた告白するから。

 有耶無耶にしちゃ、嫌だからね!」


「……うん」


 俺は、そのまま部屋を後にする。


「もうちょっとだけ話すか?」


「……うん」


 どうやら、ヤマエとゴウテツさんはまだまだここに残っているらしい。

 自分の部屋に辿り着く。

 ドアを通ってすぐ、力が抜けたように膝を落とす。

 自分の頬を何度も確かめる。

 あまりにも熱い……こんな感情に慣れるのは当分先になりそうだ。

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