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異世界救助隊  作者: 里下里山
本編
15/31

第十五話 振り返る

 ふと、目を開ける。

 それは周りがまだまだ静かで暗いそんな深夜の時刻。

 身体には包帯がぐるぐるに巻いてあって全身に違和感があって。

 隣で座ったままの体制で眠るヤマエがいる。


「あ……ヤバい……」


 大粒の涙が溢れる。

 声を殺すことすらままならない。

 どんどんと抑えていた感情は大きく、歯止めの効かないものになっていく。


「クソッ!クソッ……!」


 思い出す、未だに終わっていないことを。

 レナールの手を簡単に離してしまったことを。

 結局、ルノをボロボロにしてしまったあの時と何も変えられていないことを。


「……ミ……ドロ……?」


 ヤマエがゆっくりと体制を起こす。

 当たり前だ、正直起きないことがおかしいくらいに声を上げて泣いてしまっている。

 よく見れば、彼女の目元にはクマができている。

 何度も泣いたであろう涙痕もある。


「ミドロ……!」


 ようやく俺が目を覚ましたことに気づいたようで、俺の身体を抱きしめてくれる。

 俺は、ヤマエのこともこんな風に衰弱してしまうほど傷つけてしまったのだ。

 二人とも泣いている、心は様々なストレスの許容をとっくに超えてしまっている。

 だから、今はただ泣くことしかできない。


 次の日の朝。

 泣くという行動は、意外とエネルギーを使うようだ。

 長い眠りについていたはずだったのに、起きてすぐにまた眠ってしまった。

 村の状況は理解している、なんせ今いるのはテントだ。

 そんなに上手く事は進んでいないらしい。


 重い身体をそれでも起こして、テントの外に出る。

 俺には、今やるべきことが分からない。

 それでも、動かずにはいられなかった。


「ミドロ……!」


 そこに丁度いたのは、ハガリさんだった。

 驚きを隠せないようだったが、すぐに優しく微笑んでくれる。


「無事だったか、良かった……」


「ハガリさん、心配かけました」


 そこで頭を撫でられる。


「それでも、よく戻って来てくれた。

 今度は俺が絶対守るよ、約束だ」


 ハガリさんもここ数日間は、絶望の最中にいたはずだ。

 それなのに、こうして俺のことを気遣ってくれて大人な人だな、と再確認する。


「それより、レナールのこと。

 というか、フードたちについて少し話がある」


 フード、そのワードに身体が震えた。

 あの時、自分の身体が焼かれていく感覚を思い出す。

 それでも、下唇をグッと噛み締めた。


「……何ですか」


 ハガリさんは俺の中にトラウマがあることを察したようだが、それでもしっかり目を見る。


「この世界で最近出来た仲間の一人が、フードを被った

人間を発見した。

 今、そいつの後ろをマヤに尾行してもらってる」


 マヤ、ヤマエのパートナーだ。

 今は彼女の元を離れて、色々村だったりハガリさんに協力してくれているらしい。

 実際、ヤマエは俺につきっきりだったようだし精神的にもかなり弱っていた。

 だが、俺が言いたいのはそこじゃない。


「………………」


「……ミドロの言いたいこともわかるよ。

 お前がやられた時、位置が特定されたのはおそらくマヤの姿を見られたことが原因だ。

 だからこそ、今回はかなり高めの位置から見てもらっているし、かなり慎重に動くようにしている」


「でも、それでも見つかったら……?

 一体、どうするつもりなんですか?」


「それだけ危険な任務を任せている自覚はあるよ。

 敵アジトに、単独で乗り込んでこいって言ってるのと変わらないからな」


 マヤが消えてしまうというのは、ただでさえ現在進行形で絶望の中にいるヤマエに対して、更なる打撃を与える可能性がある。

 そもそも、マヤを失いたくないのは俺も一緒だ。


「……まあ、色々思う所はあるだろうよ。

 お前がどうするかは、マヤが帰ってきた時までに決めろ。

 案外すぐに答えが決まるんじゃないかって期待はしてるんだけどな」


「そう、ですかね」


 まあ、正直に言って答えは見つかっている。

 行く、当たり前のことだ。

 俺が行かないといけない、せめて取り戻してあげれないと俺自身が壊れてしまいそうだ。


「まあ、どちにしろリハビリだ。

 仕事に参加して身体は動かしとけ」


 最後にハガリさんはそう告げて、その場を去った。

 忙しそうに走っていくその背中を理由もなく見送る。

 

 とりあえず、言われた通り村の手伝いをすることにした。

 皿洗いや、洗濯。

 所謂、日常的にやらなくてはいけないことだ。


「ミドロ、これ村長のテントまでね」


 沢山の食糧を、箱一杯に詰めて渡される。

 故郷ではよくやっていた作業だったが、久しぶりにやってみると、結構きつい。

 これも身体が弱ってしまった証拠だ。


 ……ふと、故郷の集落を思い出した。

 そういえば、こうして襲撃を受けなければ帰れていたかもしれない。

 久しぶりに、皆に会っておきたかった。

 後悔する気持ちはさらに加速していく。

 だが、それ以上に今までのことが頭をめぐる。


 あの時だ、俺の時間が動き出したのは。

 普通に生きていく中に、割り入るように突如ルノが現れた。

 そうして、異世界救助隊のメンバーになることが出来た。

 集落の皆……だけじゃない。

 他の異世界救助隊メンバーも大丈夫だろうか。


 そういえば、ルノはもう能力を扱えるようになったのだろうか。

 あそこで、ボロボロになって親友も命を落としかけてそれで今も強くなりたいと願っている。

 アイラも、アロナさんもウィンプも。

 皆が皆、崩れてしまいそうな程の後悔から立ち上がっている。


 また、涙が溢れてきた。

 本当に自分が情けない、目が覚めてから毎日泣いてばかりだ。

 でも、ようやく気づいた。

 そんな自分がやっぱり情けない。


 まだ、終わっていない。

 ルノやアイラがボロボロになって死にかけた。

 そんな時でもルノは最後まで戦いに参加していた。

 最後、とどめを刺したのもルノだった。


 今もそう。

 俺だけが諦めてしまっていた。

 ヤマエは寝不足になるほど俺のことを待ってくれていた。

 ハガリさんもマヤも、こんな状況の中でも動き続けている。

 当たり前だ、レナールはまだ誘拐されたに過ぎない。


 レナールが連れ去られた訳を考えろ。

 そう、彼女はこの村で最年少で皆から可愛がられて大事にされていたんだ。

 だから、囮として生かされている可能性は高い。


 普通、目的がないならすぐにあの場で殺しにかかってくるはずだ。

 あの時の俺のように。


 俺の身体は弱っているが、それでも動く。

 死にかけただけで、死んだ訳じゃない。

 だったら、まだ手は届く。


 俺はなるべく被害を抑えようなんて、そんなことを考えていた。

 マヤが捜索に行った時、マヤまで痛い目を見たらどうするんだとまで、思っていた。

 でも、皆は当たり前のように希望だけを見てる。

 まだ、全員が生き残ってそれでいて幸せになる道を夢見ている。


 俺も、その中の一人になりたい。

 全員が何とかなる道は後一本くらいは残っている。

 後悔して、絶望して。

 そんな風に後ろ向きになるにはまだ少しだけ早い。

 せめてここからでも最善に行きたい、そう思う。


 トントン


 戸を叩くと、村長が扉から顔をだす。

 俺の顔を見た途端、心配したような微妙な表情で笑う。


「ミドロ君か……。

 じゃあ、それ家の中に置いておいてもらっていい?」


 言われた通りに持って来た野菜たちを家に置く。

 一通り、村長の家での仕事が終わって家を出る。


「あの、村長さん」


「……どうした?

 まだ痛むところがあるなら、休んだほうがいい」


「いえ、今日の仕事はとりあえずやらなくてもいいですか?」


 村長は、一瞬動きが止まる。

 真面目なイメージがあったようで、俺からこんな言葉が出てくると思っていなかったようだ。


「何でか、聞いてもいい?」


「サボりたい訳じゃないです。

 ただ……ちょっとだけ強くなってきます」


 その言葉を聞いた瞬間、村長が大きい声で笑う。


「ワッハッハッハッハッハ!

 いや、申し訳ない!

 少しでも君のことをみくびっていたようだ!」


「そう思われても仕方ないです。

 ギリギリ、考えを改めることが出来ただけなので」


 俺も、沈んでいた。

 自分が何も出来ないまま、レナールは連れ去られてヤマエのことを泣かせた。

 アルデハインのことがなければ、きっと立ち直れないままだったのだろう。


「君は今まで、どれだけの失敗を重ねた?」


「大きいのは、二回くらいだと思います」


「そうか……」


 今度は、村長に強く強く抱きしめられる。


「私なんて大きな失敗でも、数えられないほどだ。

 失敗は痛くて、全てを簡単に諦めてしまえるほど辛い。

 だから、慣れてしまうしかないんだ」


 村長にとっても、今回の事件には何かしらの失敗が

存在したのだろう。

 それでも、こうして暮らしているのはまさしく過去の経験から失敗の痛みに慣れてしまったからかもしれない。


「それでも、私は弱いんだ。

 まだ、こうして痛くて辛い思いをする君に頼らなくてはいけないほど。

 だからね、せめて勝とう。

 最後は全身が痛んでもやって良かったと思えるほどに」


「はい!」


「勿論、君が強くなることを止めはしない!

 村の皆には私から伝えておこう!

 ……どうかレナールのことをよろしくお願いします」

 

 村長の思いを胸に、俺は走り出す。

 元々マヤが住んでいた小さな森。

 その中を全力で移動する。


 木に飛び移って、一本道を今までのどの自分よりも早く走り切って。

 あの時、ウィンプやアロナさんとの修行を思い出すように動き続けた。


 「ミドロ、ようやく来たか」


 その声の正体はよくわかる。

 俺が最も信用できる人物の中の一人だ。


「ハガリさん。

 朝は色々すみません」


「ああ、けどまあもう大丈夫みたいだな。

 ここに来たってことは強くなりたいんだろう」


「はい、もう負けたくないです」


「俺とやろうぜ」


 まさかの申し出に息を呑む。

 ハガリさんは背中から木刀を抜いて構えた。

 そうだ、俺はもう誰にも負けたくない。

 ハガリさんが負けた時、ハガリさんに圧倒的に劣っていたら前みたいに俺はどうすることもできない。


 ハガリさんと目を合わす。

 お互いがお互いを高め合うように。

 同時に走り出して、ぶつかった。


 ――


「グワァ!」


 朝、今日も森に行こうとしたタイミングでその姿が

見える。

 ハガリさんに肩をガシッと掴まれた。


「とうとう、始まるぜ」


「そうみたいですね」


 テントに戻ると、皆が揃っていた。

 村長に、戦える村人たち。

 それから、ハガリさんのことを慕っている狼達。

 ……未だに、辛そうにそれでも付いて行く決意を決めたヤマエ。

  最高戦力が揃っているようだ。

  ハガリさんが大きく息を吸う。


「それじゃ、今度こそレナール助けてフードの奴らに借り返しに行くぞ!

 全員ついてこい!」


 俺には、とっくに迷いはない。

 今度は、完全勝利で。

 そのための準備は、してきたつもりだ。

 気づけばハガリさんすら追い越して、俺は先頭を歩いていた。

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