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異世界救助隊  作者: 里下里山
本編
14/31

第十四話 彼の居ぬ間に

 「ハガリさん、ハガリさん!」


 急に聞こえてきたのはミドロの声。

 最近は、俺のことをよく頼ってくれるようになったし仲良くなって家族のような感情も芽生えている。

 今も嬉しそうに俺に手を振って、本当に可愛い後輩だ。


「ミドロ、守ってやれなくてごめんな……」


 ふと出た言葉に疑問を抱く。

 だって目の前には、元気なミドロが手を振っていて。

 修行で強くなって、最近は相手も活発に動いていなくてそれこそ、ピンチになる瞬間なんて考えられなくて。


 あの日、ヤマエは泣いていてエマも必死に俺のところまで来て、その時ミドロは……


「うわああああああああああああ!!」


 目を覚ます、朝焼けの光が俺目掛けて入ってきて起きるには少し早い時間だということがわかる。


「ハガリさん、大丈夫ですか……」


 村長が俺の背中を撫でる。

 俺がいるのは、穴が空いているボロボロのテント。

 毛皮で作った布団にくるまっていた。

 全ての嫌なことを思い出す。


「村長、本当にすまない。

 あんただって、疲れているだろうに……」


「いえ、私だってこの状況。

 精神的に参ってゆっくり眠ることすら出来ませんよ」


 何だか居づらくて、テントを出る。

 当たり前に陽が登って、まるで今でも平和であり続けているかのように、ずっと世界は回り続けている。

 朝ごはん、でも食べよう。

 あの時何とか村から持ち出せた非常食の乾パンを口に入れる。

 ……二枚目、そこまで行って口が進まない。


 だんだんと周りの人も起きてくる。

 今日も前あった日常より更に忙しい一日が始まるのだ。

 疲労感を感じさせる表情だったり、不安を詰め込んだような表情をしたり、皆一様に色々思うところがあるだろうが、それでもプラスの感情で動けている人はいないだろう。


 俺の足はふらりと、一つのテントに向かっていた。

 この村は建物が燃やされたり作物が荒らされたり、そういった被害は多かったが、人に危害が加わることはほとんど無かった。

 唯一起きてしまった被害は、このテントの中にある。


 「ミドロ……大丈夫か……?」


 大丈夫なわけない、それは俺が一番分かっている。

 それでもこんな風に聞いているのは、自分の罪を帳消しにしたいから、なんていう自分本位で邪な考えなのかもしれない。

 ミドロに寄り添うように眠っているヤマエ。

 目の下のクマの色が強くなっている、彼女もずっと前の元気をとっくに失ってしまっていた。


 今回の被害者は全員ではあるが、その中でも大きく巻き込まれてしまったのは二人。

 まずは、レナール。

 この村に住む中では最年少で皆から可愛がられていた。

 あの時、誘拐の被害に遭い未だに見つけられていない。


 そしてもう一人、それがミドロだ。

 レナールを守ろうと戦っていた彼だったが、それが相手の反感を買い、俺たちも先に逃げ切れてしまっていたことから、集中砲火を受けた。

 そのことが原因で、身体にはたくさんの切り傷や火傷痕が色濃く残ってしまっている。


 最後、火の攻撃を受けた時にヤマエに覆い被さり庇ったことが理由で、彼女は今もこうしてミドロに付きっきりになっている。

 ヤマエの精神にも深い遺恨も残してしまった。


「行かないで、ミドロ……ミドロ……」


 寝ぼけていても泣きながら、ミドロの掛け布団に縋るヤマエ。

 なあ、ミドロ。

 本当に行かないでくれ。

 ここに来てしまったら俺も悔しくて涙を流すしかない。

 あの時、信じてるなんて安い理由でミドロ達の元へ向かえなかった。

 これは、俺にとっての償いきれない程の罰の証拠だ。


 外に出ると、村長が待っていた。

 俺が出た後に、彼が入るのが最近のルーティンだ。

 お互いが傷を舐め合うように、肩を叩く。


 さあ、こうして大変な事態が起きているが毎日時間は進み続けている。

 とりあえず、村の皆に食料を持ってこなくては。

 

 俺がやってきたのは遠くの森。

 最近、森で火事が起こっている影響で近場で取れる食料はかなり減っていた。

 だから村の男達は、それぞれに少しずつ遠出して何とか食料をかき集めている。


 他の人たちは、モンスター達と交渉して食料を分け与えてもらっていたり、森を荒らして生態系を崩す生物を駆除して食料にしていたりするそうだ。

 俺にはそれが出来ないから、回収できる食料は木の実や食草くらいなものだ。

 その場にしゃがみ、食べれるものを判断しながら拾ったり、刈り取ったりしていく。


 その最中も、頭がぼーっとする。

 ずっと前から放心状態なのかもしれないと思わされるほど、ずっと身体が浮いているような気分だ。

 俺はモンスターたちと行動できない分、正直この仕事に向いていないが、それでもこうしてこの仕事を任せてもらっているのは一人で黙々と出来る仕事だからだろう。

 村人たちの優しさが胸につき刺さる。


 奥に進むと食べれそうな草を見つける。

 取ろうと鎌を取り出すが、手元が見えづらい。

 上を見てみれば星がたくさん出ていて、ようやく夜であることを理解した。

 考え事をしてる間に、かなりの時間が経っていたようだ。


 荷物を確認する。

 籠いっぱいに入った食料達、これだけ持って帰ればサボっていたなんて思われることもないだろう。

 むしろ、時間を掛けて取りすぎたくらいだ。

 心配されているかもしれない。

 とにかく急いで帰ることにしよう。


「ちょっと……待って……!」


 そんな声が聞こえたのは森を抜けてすぐ。

 二足歩行の青い毛の狼、これもモンスターというやつなのだろうか。

 俺も、まだ少ししかこの世界にいないがそれでも喋れるモンスターがいることは珍しいのだろうとわかる。


「どうした?」


 気づけば、モンスターに対する偏見は消えていた。

 あの時襲われたのだって、この世界の食料が減り続けていることやフードたちに脅かされていたという理由だと今は分かるし、この世界の人々はモンスターを家族のように愛して共存している。

 フードの奴らが沢山の遺恨を残しているとはいえ、普通に全力で生きている生物達の一体。

 つまり俺たちと大して変わらないのだ。


「……あの、そこにあるご飯。

 少しだけ分けてくれませんか」


 俺は、気づけばそいつにご飯を分け与えていた。

 狼に近い生物なら、おそらく主食は肉なのだろう。

 それでも無我夢中に草や実を食べ続けている。

 相当、限界だったのだろう。


「……事情を聞いてもいいか」


 恐らく、彼は子供だ。

 身長だって俺の首下ないくらいだし、かなり細い。

 声もまだまだ可愛い、人間の子供のような声だった。

 ならば尚更、ここにこうして一人でいることに違和感が出てくる。


「事情……?

 僕たちの住処の食糧は、とっくに無くて……。

 それで、みんなお腹を空かしてそれを助けたくて。

 ……つい、外に出てきちゃったの」


 やはり、食糧不足。

 この世界に住むあらゆる生物達が悩まされていることだ。

 勿論、今の俺たちを含めて。

 とはいえ、俺の食糧は村の人々の温情によって超過分を集めているに過ぎない。

 だから、今日一日俺の分が無いくらいでは困らないだろう。


「なあ、お前名前は?」


「ガウル……」


「じゃあさ、ガウル。

 お前の住処まで連れて行ってもらっていいか?

 勿論、怪しかったらこの食べ物お前が運ぶでもいいんだけどさ」


 ガウルは俺の顔をずっと見つめたまま、固まってしまう。

 おおよその予想通り、警戒はされているらしい。

 だからこそ代案も出したみた。

 それも含めかなり悩んでいるようだった。


「……じゃあ、ついてきて」


 結局、ガウルは俺ごと連れて行く結論を出したらしい。

 更に少し歩いた、昔村があったのかもしれない跡地の井戸だったもの。

 そこに縄梯子がかかっていて、止まることなくガウルは降りていく。

 俺もその後を追う。


 そこに広がっていたのは、上からは想像もできないような広い場所、ガウルと同じような狼達が五十人くらいはいるだろうか。

 確かに全員腹が減っているようで、活力が全体的に無い感じがした。


「ガウル……!

 どうしてそんな人間を連れてきた……!」


「お父さん!

 少しでいいから話を聞いて!」


「愚か者が!

 あまり舐めたことを私に口走るなよ」


 急に、ガウルのことを呼び止めた一際オーラのある狼。

 どうやらガウルとは親子の関係らしい。

 ずっと、腰につけた刀に手を当てている。

 どうやら、殺す気マンマンのようだ。


「まあ、待て……。

 別にお前らに危害を与えたいわけじゃないんだ。

 これを見ろよ」


 抱えていた食糧たちを、ガウル父にも見せる。

 沢山の狼たちが、待ち侘びたように食糧に目線を合わせる。


「ならん!!!!!!」


 しかし、ガウル父の豪快な叫びに全員が目を逸らした。

 何となく見えてきた、狼たちの長であるガウル父の頑固さによって他の狼は食糧を得る機会を失っているようだ。


「まあ、あんたも落ち着けよ。

 さっきガウルには先に飯をやった。

 別に危ないものも入っていないし、お金も貰わない。

 怪しいならサインでもするよ」


 ガウル父は、そんな話を一言も聞いておらず気づけばガウルに棍棒を振り下ろそうとしていた。

 急いで、俺の剣で受ける。


「何してんだ、おい!」


「ふん、私たちの習わしでは別種族からの貰い物を食べるのは下品でルール違反だ。

 よって罰を与えようとした、それだけだ」


「あんた何考えてんだ!

 自分とこの子供だろうが!」


「だからこそだ、こうして罰を与えないと治らない」


 風習や習わし。

 文化の保護や、ルールとして大事な一面でもあるが少し間違えれば、こうして呪いとして付きまとう。

 こうして付き纏い続け、当たり前になってしまえば視界が大きく狭くなり、それ以外を基準に動けなくなる。

 まさしく、ガウル父はその典型例だ。


「……おい、ここの長はどうやって決めてる」


「勿論、強い奴」


 俺も少し頭にきていた。

 こうして、俺は死に行く生物たちを見捨てることはできなくなってしまっている。

 特に今は。


「俺と決闘しろ。

 その腰につけた剣。

 使っていいから、なんでもありでとにかくやろうぜ」


「……話が早いな」


 お互いが剣を握り合う。

 完全な殺し合い、スタートなんてありはしない。

 相手が容赦なく攻め込んでくる。

 まずはそれを冷静に受けきった。

 お互いに理解したのだろう、相手の剣の実力は相当なものだ。

 どうやら、久々に良い修行になりそうな気がする。


 ガキンッ!ガキン!


 何度も剣と剣がぶつかり合って心地いい音を奏でる。

 剣士にとって、実力が拮抗している相手とぶつかり合うのは本当に気分が良い。

 ずっとこんな時間が流れれば良いと思うほどだ。


 かなりの時間が経った。

 最後、激戦を繰り広げまだ立っていられたのは俺だった。

 大きくお腹を動かしながら、その場に伏していることしか出来ないガウル父。


「……おい、お前らに命令だ」


 俺は周りを見渡す、沢山の狼たちが俺の言動に注目しているのだ。


「全員、俺が持ってきた食糧を食べろ!」


 ウオオオオオオオオオオ!

 一気に歓声が上がった。

 その後は大忙し、持ってきていた食糧が全員に行き渡るように、配給する。

 最後は、未だ倒れているガウル父の隣に座った。


「ほら、お前も食え。

 リーダー命令だ」


 ガウル父は、ようやく起き上がって悔しそうに飯を食う。

 でも口に物を入れた瞬間、涙を流した。


「……いつぶりの食事だ?」


「四日、四日は経っている」


 習わしに捉えられてしまった者は、本人が一番擦り減っていることに気づきづらい。

 今のこの状況を目に焼き付ければ、きっと気持ちにも変化が訪れるはずだ。


「次、また皆が辛い状況に陥ったら許さないからな」


「ああ、お前の下で沢山のことを学ぼう」


「……何言ってんだ?

 お前に教えたいことなんかもう教えきったぞ」


 落としていた刀をガウル父に投げる。

 俺も剣を構えた。

 何が何だかよく分かっていなかったようだが、それでも立ち向かってくる。

 最終的には修行か何かだと捉えたようだ。

 だが、俺は……


「ハガリ……殿。

 一体何をしているんだ!」


 俺はその一撃を腕で受け止めていた。

 勿論、その切り傷からは大量に血が出ている。


「いてぇ……降参だよ。

 お前がリーダーだろ?」


 痛い……本当に耐えられないくらい痛い。

 だが、これはミドロが感じた痛みの一部に過ぎないのだ。

 だから、罪滅ぼしなんて呼べはしない。

 ただ、俺にとってのケジメだ。


「名前は?」


「ガウラス……です」


「ガウラス、ここの奴らはとにかくお前に任せるぜ。

 今後は、全員で協力して全員で食糧かき集めて全員で悩んで、とにかくもっと生活を豊かにする努力をしろ」


「はい……わかりました」


 ガウル父……ガウラスは俺に向けて膝をつく。

 そのほかの狼も同じようにしていた。

 俺に対するリスペクトだと受け取っておく。


「ただ、あなたが私たちにとっての恩人であり考えを変えるきっかけを与えてくれた人には違いない。

 どうか、私たちのことも頼ってください」


「ああ、案外すぐ頼ることになるかもな。

 だからこそ、お前らも遠慮しないで俺に頼れよ」


 こうして、俺はようやく村人たちやミドロの所へ帰る。

 人生なんて、こんな失敗や後悔に塗れている。

 それを教訓に生きたからって、絶対的に成功するなんて言うのは大きな間違いだとも思う。

 でも、それでもそんな絶望を考えずにはいられない。

 今度は後悔しないように、溢さないように。


 明日からはきっと忙しくなりそうだ。

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