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むしはちぶ

 キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴って休憩時間になった。


「ねぇ、かすみちゃん?問題出してあげよっか?」


 手でチョウチョを作りながらほのかが聞いた。


「…いや、いいや。」


 かすみは、持参した昆虫図鑑に目を向けながら言った。


「わかった。じゃあ、問題です!」


「誰か、ゴキブリ持ってきて。」


「かすみちゃんの前にバッタ、チョウチョ、クワガタがいます!かすみちゃんが『お~い!』と呼びかけても振り向かないのは一体だーれだ?」


 ほのかはニヤニヤしながらかすみを見た。


「…ほのか、あんた問題間違えてる。その問題は虫と無視がかかってるんでしょ。だったら、1匹だけ虫にして他は虫じゃない動物にしないと。」


 かすみは呆れた顔をしながら言った。


 それを聞いたほのかは大きく頷きながら手を叩いた。


「あ~!なるほどね!そっかそっか!私のやつだと3匹ともかすみちゃんを無視することになっちゃうもんね!間違えっちゃった、てへ!」


 ほのかはそう言って自分の頭をコツンと叩いた。


「ほんとよ~。それだと私に全然人望がないみたいじゃない~。」


 かすみは微笑みながらほのかに言った。


「ごめんごめん!出し直すよ!じゃあ問題です!」


「あいよ。」


「かすみちゃんの前にカマキリ、カナブン、テントウムシがいます!かすみちゃんが休日に『スタバに新作のスムージが出たから飲みに行かない?』と誘っても返事すらしないのは一体だーれだ?」


 ほのかは自信満々に言った。


 それに対してかすみは、ジト目でほのかを見ながら言った。


「…いや、だから3匹とも虫じゃん。それだと全員が答えになっちゃうでしょ。あと、私がスタバ飲みに行こうって誘った設定にしたのなんで?」


「あっ、そっかぁ!全然気づかなかった~!これだとかすみちゃんとお出かけするのみんなが嫌がってるみたいになっちゃうもんね!間違えちゃった!出し直すよ!」


 ほのかはからから笑いながらかすみに言った。


「じゃあ、気を取り直して問題です!」


「…」


「かすみちゃんの前にセミ、ガ、カブトムシがいます!かすみちゃんが結婚式に招待しても返事すら返さないのは一体だーれだ?」


「だから、それだと全員から無視されるでしょーが!!」


 かすみは立ち上がって怒った。


「私どんだけ人望ないのよ!毎回誰一人として反応しやがらないじゃない!」


 そんなかすみをほのかは宥めた。


「まぁまぁ。相手にも都合ってものがあるからさぁ。それにかすみちゃんが過去に何かしたから無視してるのかもしれないよ?」


「なんもしてないわよ!…っていうか、あんたのチョイスのせいでしょ!?虫を1匹だけにすればいい話でしょうが!!」


「もう!かすみちゃん怒ってばっかりじゃんか!!みんながかすみちゃんのこと無視するのも納得だよ!もう私もみんなと同じくかすみちゃんのこと無視するから!!」


 ほのかはそういって机に突っ伏した。


「ちょっと!!あんたまで無視するな!!他のみんなが無視しても、あんただけはするな!!」


「な~んちゃって!冗談だよ!かすみちゃん!」


 ほのかは笑顔で振り返りながら言った。


「みんながかすみちゃんのことを無視しても、私はず~っとかすみちゃんの味方だからね!」


 ほのかに対してかすみは薄っすらと涙を浮かべながら言った。


「ほのか…!」


 ほのかとかすみはお互いに微笑みながら見つめ合っていた。


「うぐぅ…!」


 しばらく見つめ合っていたが、やがて急にかすみがジト目をしてほのかの鼻をつまんだ。


「いや、無視されてんのあんたのせいだから。」


 キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴って休憩時間が終わった。

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