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サプライズが苦手な人の話

作者: 日暮晶

急に降って湧いた話なので投稿です

 サプライズは、嫌いではないが苦手だ。


 生来の冷静さが祟って表情に乏しいし、そもそも感情を外に出すタイプじゃない。

 その一方で、「サプライズをされた側は超びっくりして涙を流すぐらいのリアクションを取らなきゃいけない」みたいな空気がとてつもなく苦手だ。

 過去……小学校のころ、クラスメイトが誕生日にサプライズパーティーをしてくれたことがあるが、まぁ悲惨なものだった。

 家に帰ったら親に根回ししたクラスメイトが待ち構えていて、扉を開けるなりクラッカーのお出迎え。

 飾り付けられた部屋の中、テーブルにはケーキとジュースが並べられ、クラスメイトは各々にプレゼントを用意していた。

 それを受けての反応はと言えば、「ああ、ありがと」だの「へぇ、驚いた」だの、我ながら実にそっけない言葉を絞り出すのが関の山。

 クラスメイト達から放たれる「あれっ、あんまり喜んでない……?」みたいな空気のいたたまれなさと言ったらなかった。

 それ以降、サプライズは基本的に苦手ですと公言するようにした。こうしておけば互いに気を遣う必要はないからね。

 ――だというのに。


「へーい、サプライズのお届けだ!」


 性懲りもなくサプライズを仕掛けてくるバカがいる。いきなりベンチの後ろの茂みから飛び出してきたそいつを見上げてため息をつく。少し肩が跳ねたのは内緒だ。


「……いつからそこに潜んでたわけ?」

「昼休みが始まった瞬間にダッシュで来たんだ! お前大概中庭で弁当食べてるじゃん!」

「来なかったらどうするつもりだったんだか」

「俺が現れないことがサプライズ……!」

「お前のせいでサプライズが日常になりつつあるよ。それもうサプライズって言わなくない?」

「何言ってんだよ、サプライズってのは驚くって意味だぞ!」

「つまり?」

「一日一サプライズ……!」

「一日一善みたいに言ってんじゃないよ。善行どころか悪行に近いよ」

「まあ俺は驚かすのが好きだからな!」

「じゃあもっとリアクション激しい奴のとこ行きゃいいだろうに」

「俺はお前を驚かしたいんだよ」

「……物好きだねぇ。ほらとっとと隣座んなよ、どうせなんか食うもの持ってきてんでしょ」

「……しまった忘れてた」

「は?」

「今日弁当ねえから食堂でなんか買おうと思ってたのすっかり忘れてたわ」

「バカか?」

「お前を驚かすこと考えてたらすっかり頭から抜けてたわ」

「超バカか? はぁ……しゃーない、少し弁当食べれば。そんかしあとでなんか奢れよ」

「助かる! ちょっと足りないけど、まぁ午後の授業寝るだけだし大丈夫だろ!」

「カロリー使わねーんならいらないじゃん、没収」

「あ˝あ˝あ˝いる! ちゃんと授業起きてるから食べさせてくれぇ!」






「お前と一緒の大学に行くことにしたぞ!」

「は?」


 高校三年の夏休み直前ぐらい、友人からの言葉に思わず二回瞬きする。カカカと笑ってバカは言う。


「サプライズ成功だな!」

「いや、お前……本気で言ってる? 成績考えるとお前が行くのは相当厳しいと思うんだけど」

「だな! だから勉強教えてくれ! 部活も終わって時間はあるからな!」

「そう来たか……」


 夏休みだからちょっとは落ち着くかと思ったが全然そんなことはなかったらしい。


「まさかとは思うけど一日一サプライズとやらのノルマ達成のためにバカなこと言い出したんじゃないだろうね?」

「それこそバカ言え、別に会おうが会わなかろうがサプライズは出来るだろ。電話番号だってラインだって知ってんだから」

「じゃあなんだって志望校同じトコにしたのさ」

「なんだよ、親友と同じトコに行きたいのがそんなに悪いか?」

「……別に悪くはないけど」

「決まりだな、で、どこで勉強するよ? 俺んち? お前んち? それとも図書館か?」

「どこでもいーよ……って言いたいトコだけど、図書館あたりが無難じゃない?」

「んじゃそれで!」






 大学生になって二年目の春。


「やぁ後輩、入学おめでとう」

「ちーっす、先輩! 今日からお願いシャス!」

「……はぁ、あほくさ。一日一サプライズとかされてずいぶん経つけどあんな嬉しくないの初めてだったよ」

「はっはっは、ありゃ悪いことしたと思ってるよ。あの日は違うことをサプライズにするつもりだったんだがなぁ」

「合格してりゃ十分驚いたっての」


 去年の受験、こっちは受かってあっちは落ちた。あん畜生、まぁまぁ勉強に付き合ってやったというのに……。

 まぁそれはさておき。


「にしても、その執念にも驚くね。そんなに一緒の大学に通いたかったわけ?」

「隣の大学に通うかどうかでかなり迷ったけどな……」


 親友は、結局一年浪人して、去年の入試で受け直して晴れて合格した。勉強に付き合ってたからそこそこ分かるけど、滑り止めの大学に受かるぐらいの学力はしてた。

 それでもわざわざ浪人を選んでまで同じ大学にやってくるとは……。一体こいつを何がそんなに突き動かすんだか。


「時にお前さん、恋人とかできたりしてんの?」

「は? なに藪から棒に」

「いや、大学に一年通ってたりするとそういうのあったりすんのかなって」

「できるように見える? この仏頂面で」

「いや……そうか、うん、そうか」

「?」


 何に納得してんだこいつは。


「ところで、今日のサプライズがまだだったな」

「毎度思うけど前置きするサプライズってサプライズって呼べんの?」

「驚かせたもん勝ちみたいなところはあるな」

「自分でハードル上げてくスタイルは嫌いじゃないけどさ」

「だったらよかった、十分に勝算はある」

「で? 今日は何するつもりなのさ」

「何するって言うか、言いたいことがあってな」

「はぁ」

「あのさ、俺と――」






「――ふがっ」


 机の上で目を醒ます。

 ……寝てたみたいだ。昔というにはまだ日が浅い思い出のことを夢で見た。

 今でも夢に見るぐらいには、あの日の出来事には驚かされたものだ。あの日のサプライズは、確かにあいつの勝ちだった。

 けれどこちらも負けっぱなしでいるつもりはない。


「んー……」


 今何時? ……ああ、そろそろあいつも来る時間か。ちょうどよかったと思いながら、準備を始める。何の準備か。もちろんサプライズの準備だ。

 サプライズは、嫌いではないが苦手だ。するのも、されるのも。

 そんな私があいつに仕掛ける、多分生涯唯一のサプライズ。


「子供ができたって言ったら、あいつどんな顔するかな」


 あいつの驚いた顔を想像すると、少し心が浮ついた。私にサプライズを仕掛けるあいつも、いつもこんな感じだったのかなと思いながら、私は帰ってきた夫を出迎えた。


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