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エルフリートたち五人は、それぞれ国王立ち会いのもとで事情聴取を受けてから解放された。王宮を出るなり、ブライスが盛大なため息を吐く。
「お前ら、なんつー秘密を抱えてたんだ……気づいたのが俺で良かったな」
「――それだけ?」
既に日は昇り、もうすぐお昼時である。冷たい空気を和ますあたたかな日差しの中、彼は苦笑する。普段と同じ態度だ。
「何だよ。女装に気がつかなかった上に惚れたと判明した気分を語れって?」
「えっ、あ、いや、そうではないけれど」
ブライスの言い分はもっともだね。エルフリートはぎょっとして否定した。
「とりあえずよ、お前んちに行っても良いか。そこで話をしようぜ」
「うん……」
ブライスの懐の大きさには関心してしまう。ロスヴィータの好意に甘え、彼女と相乗りさせてもらい、エルフリートは帰路についた。
屋敷に戻ると、ステファンがほっとした顔で迎えてくれた。小さく頷いてみせるとお辞儀が返ってきた。
「ステファン、ジョッシュの行方が分かっていない。殺されていないと良いが……とにかく彼を捜してくれ」
「かしこまりました」
「来客の準備だけ終わったら、さっそく取りかかって」
執事がすっと下がっていったのを見送り、客間へ移動する。
「さて、ブライス。どの話から始めるかい?」
「まずは俺の気持ちからだな。事情聴取ん時に、国王陛下がお前の状態についての説明があった。今後は協力するようにと言われたぜ。
まあ、言われなくてもするつもりだけどな」
カートに乗せられていた茶菓子をテーブルに並べたエルフリーデが、ブライスのすぐ近くで紅茶を入れている。紅茶がティーカップに注がれる音を聞きながら、ブライスの言葉を待った。
「霊廟でも言ったが、俺の気持ちは変わらねぇよ。あ、いやお前とどうこうって話じゃなくてな。俺はお前を人間として好いているから、手のひらを返すような事はしないって意味だ。
むしろ悪かったな。俺みたいな男に口説かれて、よ」
エルフリートは首を横に振った。すぐ横に座っているロスヴィータに顔を向けたブライスは、至極まじめそうに口を開く。
「ロス、俺は間違ってもフェーデに手を出さねぇ。だから安心してくれ。もし、フェーデと二人きりになるとしたら、それは必要があっての事だ」
「ちょっと!」
突然匂わせる言葉に慌てるエルフリートをよそに、ロスヴィータは余裕の笑みを浮かべた。あ、かっこいい……。
「フェーデは私の美しき妖精だ。私の許可なく、その身を他者に委ねる事などするまい。
また、彼は強い。よこしまな気持ちで襲いかかりでもしてみろ。ブライスほどの実力者だとしても一対一では返り討ちになるだけだ。そうでなくとも、私がそれを許しはしない。
――その時は、全権力をもって対処してやる」
好戦的な炎をちらつかせた凛々しい姿に、エルフリートは眦を下げる。ほう、とため息をつきながら見惚れてしまい、ロスヴィータの放った強烈な反撃は気にならなかった。
「おー怖い。ってか俺は人のもんに手を出すような小せえ男じゃねぇよ」
「分かっている。あなたは良い男だ」
ブライスがげんなりとした。肩まで落ちている。そんな彼に紅茶をサーブしながらエルフリーデが口を挟んだ。
「ブライスがまともな人間で良かったわ。私ね、フェーデが帰ってこないなって思った時にあなたの事を真っ先に疑っちゃったの。ごめんなさい」
エルフリーデがそう思うのも仕方がないと思うけど、エルフリートはあまり良い気分がしなかった。
「誰だってはじめからアルフレッドがやったとは思わねぇだろ。それにフェーデがいなくなって得するように見えるのは俺くらいだったしな」
「……分かってたんだ」
エルフリートが零した言葉をあたりまえだろ、と彼は鼻で笑う。
「俺はな、確かに魔獣を狩る時や騎士としての活動で必要な時には罠を使う。だが、それ以外では真っ向勝負って決めてんだ」
確かに、まっすぐ。エルフリートは思わず頷いた。
「結局のところ、人の心なんざちょっと企んだくらいでどうこうなったって面白くもなんともねぇんだよ。という事で俺の話は終わりだ。
次はこれだな。その傷が治るまで休め。兄の介護だとか言えば許されるだろ。お前の顔、どうがんばっても“エルフリーデ”にはならんぞ。」
「あ……」
顔のあちこちに傷を付けた状態では、エルフリーデとして表に立つわけにはいかない。さらわれた人間を救出した側の人間に、猿ぐつわの痕などついているはずがないのだ。
「よし、この話題も終わりだ。次は大きいぞ」
ブライスはぽんぽんと話を進めていく。エルフリートの傷の話など、誰からの返事も待たずに終わってしまった。
「アルフレッドの件を含めた今後の事だ。俺はお前らに何をしてやれる?」
ブライスに問われ、エルフリートはロスヴィータを見た。何かしてもらいたい事ってあるっけ?
「俺から一つ。“エルフリーデ”への態度は変えないでください。申し訳ないのですが、アタックしても袖にされるという状況を周知する役割を果たしてもらえると、より“エルフリーデ”が女の子らしくなると思います」
「了解」
レオンハルトってば、結構酷な事言うね……。それを普通に承諾する方もする方だけど。
レオンハルトの隣に座っていたエルフリーデが手を挙げる。
「私からも一つ。“エルフリート”と仲良くなってほしいわ。そうすれば、多少親しすぎるように見えてもすぐに火消しできるから」
「そうだな。俺も望むところだ」
わぁ、彼女も負けず劣らず酷い事を……。エルフリートは、巻き込まれていくブライスがかわいそうだと思った。が、直後に流し目を送られてきたから、そう思ったのは忘れる事にした。
何もしないって宣言したくせに!
2024.8.1 一部加筆修正




