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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
アルフレッド再び

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75/81

8

 床下から突然現れたブライスを先頭にした四人は、エルフリートの無事な姿に喜んだ。ブライスが丁寧に拘束を解いてくれた事だけが謎だけど。

 ちょっと不気味って言うか。


「縛られて、ここに放置された以外には何もされていないか?」

「うん」


 ロスヴィータに頬を温められる。エルフリートの体は冷え切っていた。ロスヴィータの手の温もりが彼をほっとさせる。頬が温まると今度は手を握られた。彼女の体温がエルフリートの凍りついたような体を溶かしていく。

 その間、ブライスが自分の着ていたコートをエルフリートに被せ、その上から背中をさすってくれていた。やけに甲斐甲斐しい。これは“エルフリーデ”を前にしてのポイント稼ぎだろうか。


「エルフリート殿、確認したい事があります」

「敬語はなしにしよう。こうして探しに来てくれたのだから」


 首をひねってブライスに顔を向ければ、彼は小さく微笑んだ。えっ、なんか、本当に様子が変じゃない?


「エルフリート、お前をさらったのはアルフレッドか?」

「フェーデでいいよ。証拠は示せないけど、ほぼアルフレッドの仕業だとは確信している。

 馬車が乗っ取られた後、眠り薬をかがされる直前にトライリ家の家紋が入った馬車を見た。トライリ家の人間でこんな嫌がらせをしてくるのは、アルフレッドくらいしか心当たりはないからね。

 ただ、本人がその場にいたかどうかは分からない」


 エルフリートは静かに息を吐いた。ロスヴィータやブライスの心配げな視線がくすぐったい。自分の妹であるエルフリーデなんか、レオンハルトと一緒になって周囲の状況を確認していて、エルフリートを心配しているそぶりをまったく見せないというのに。


「そうか。こちら側の話と組み合わせれば少なくともトライリ家が関わっている事は確実だな。

 俺たちは、王城付近にあるトライリ家の屋敷から来たんだぜ。あの屋敷に隠し階段があってな、地下通路に繋がっていた。で、その先がここってわけだ」


 地下通路と聞いて、彼らが床下から現れた理由に納得がいく。


「フリーデが魔法を使って見つけてくれたんだ。機転の利く妹に感謝しろよ」

「あの子は私の自慢の妹だよ。私はいつも彼女に助けてもらってばかりいる」

「……入れ替わりもか」

「え?」


 驚いた。ぽろりと、嫌みでも怒りでもなく、ただ事実を受け止めたかのような言い方に、ブライスの態度に違和感を覚えていたのが気のせいでもなんでもないのだと分かる。

 どこで気がついたのだろうか。


「あ、わりぃ。本当は落ち着いてから聞こうと思ってたんだぜ」

「話が分からないのだけれど……」


 ロスヴィータも驚いているらしいが、無言を貫いている。エルフリートはとりあえずしらを切った。


「俺は、鼻が良い。最初に違和感を持ったのは、お前の状況を確認しに屋敷へ行ってエルフリーデ嬢と会った時だ。

 同じ香水をつけてはいたが、香りが違った」

「……フリーデを嗅いだのかい?」


「おい、湾曲して捉えるなよ! 普通に分かるんだよ。鼻が良いからな! で、同じ香水なのに匂いが違うって事は別人なんじゃないかと思ったんだ。

 この前会ったのは祭りの日で、いろんな匂いが充満していたからな。あの時は全然気がつかなかった」


 エルフリートはとりあえず先を促す。


「後はお前を見つけ出すまでの間の行動が、俺の知っている“フリーデ”とちぃとばかし違う。極めつけはお前を見つけた瞬間だ。

 驚いた顔で俺を見つめてきたお前こそ、俺の知っている“フリーデ”だった。それで、これはどういう状況なんだ?

 俺の目の前にいるのはエルフリートの格好をしたエルフリーデか?」

「……」


 エルフリートは何と答えるべきか、迷った。

 このままエルフリーデが自分だと答えても良いが、それだとなぜエルフリートの姿でブライスと話をしようとしたのか説明できない。つまり、ブライスの質問には否としか答えられない。

 自分がエルフリーデのふりをしてブライスと過ごしてきたのだと言う事で、彼がどんな反応をするのかが怖い。


「――分かった。とりあえず、俺が正直になるところからだな。

 俺は、お前という人間が好きだ。この際性別はどうでも良い。絶対に敵にはならないと誓う。だから、お前の秘密を教えてくれねぇか?」


 突然の告白に目を見開いた。おそらく、他の三人だってそうだろう。周囲を確認して回っているはずのエルフリーデとレオンハルトも黙り込んでしまった。

 一番早く冷静になったのは、ロスヴィータだ。エルフリートの手を握る力を少しだけ強め、彼の意識を現実に引き戻してみせた。


「私は……エルフリートだ。普段の“エルフリーデ”も私だ。それにしても、匂いでばれるとは」


 エルフリートは努めて何ともないかのように振る舞った。

 エルフリートを見つめるブライスの表情は柔らかい。こんな表情をされると、困ってしまう。エルフリートは彼の気持ちに応えられないというのに。


「そうか。事情は聞かないでおこう。だが、困ったら言ってくれ。いつでも力になる。

 とりあえずは、ここを出よう」

「……そうだね。ところでロス、ここは霊廟だと思うんだけれど、本物かい?」

「本物だ」


 不本意そうに頷くロスヴィータに向け、エルフリートは微笑んだ。


「わぁ……じゃあ、ちょうどいいね。騒ぎを起こそうか」

「――結局これか」


 これから先の想像をしたらしいロスヴィータが呆れたようにため息をついた。

2024.8.1 一部加筆修正

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