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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
アルフレッド再び

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73/81

6

 リンゴンと控えめに鳴った呼び鈴の後、少しして執事が姿を現した。


「何かご用でございましょうか、ロスヴィータ様」

「私の事が分かるならば話が早い。今日、私の婚約者がそちらにお邪魔していないだろうか」


 彼が口を開く前に、ロスヴィータは続ける。


「後ろにいる騎士団の面々と約束事をしていたはずなのだが、どうやらアルフレッドと共にどこかへ行ってしまったようなのだ」

「はて……」


 本当に知らないのか、誤魔化しきろうという魂胆なのか、執事は首をひねるだけで言葉を重ねようとしない。

 情報を引き出せるだけ引き出し、動向を把握するつもりなのかもしれない。


「この周辺で婚約者の印が途絶えていてな。正直に言うと、以前に私を誘拐したアルフレッドであれば、やりかねぬと疑っている。

 疑いを晴らす為、中を検めさせてもらいたい」


 無言で執事と見つめ合う。しばらくして、執事が視線を下げた。


「アルフレッド様は、こちらにはおりません」


 話を逸らした。ブライスの苛ついた空気が急かしているのは分かっているが、一応ロスヴィータは話に乗ってやる。


「エルフリートはいるかもしれないな?」

「わたくしめは把握しておりません」

「完全な否定はしないのだな」


 彼の視線がロスヴィータへ戻ってくる。執事は理解しているのだ。アルフレッドの危うさを。

 彼も、アルフレッドならばやりかねないと思っているのだ。


「私を誘拐した過去のせいで疑われるのは仕方ないとは思わないか。もし、今すぐに中を検めさせてもらって何も手がかりがなければ謝罪はしよう。何かが出てきたとしても、協力的だったとして評価をしよう。

 だが、明日以降に捜査として正式に踏み込ませてもらった状態で証拠が出てきた時は――分かるな?」


 あまり人を脅すのは得意ではない。しかし、エルフリートの安否が分からない今、そんな事は言っていられない。

 滅多にしない、厳しい睨み方をしながら言えば、執事の口元が震えた。

 顔色が変わらないあたり、さすがは公爵家の執事である。妙なところで関心してしまう。

 数十秒の後、すっと執事が下がった。ロスヴィータの勝ちだ。


「物わかりが良くて助かる」

「……」


 ロスヴィータたちは頭を下げたまま控える執事の前を通り、屋敷の中へ堂々と侵入を果たすのだった。




 レオンハルトとブライス、ロスヴィータとエルフリーデという二手に別れて一階、二階、三階と順番に部屋を検める。

 食堂や台所、応接室、書斎、寝室、主寝室、すべての部屋を確認していく。人が押し込められていそうな場所はすべて確認した。

 レオンハルトは、さすがにないだろうという収納場所まで覗き込んだ。


 ブライスに苦笑されたが気にしない。だが、エルフリートの姿は見つからなかった。

 ひとまず一階の応接室に集合した四人は、少しばかりほっとした様子の執事に飲み物を用意されながら立ち話をしていた。


 誰も座ろうとしないのは、ここが敵の本拠地かもしれないという緊張感からであろう。何も見つかっていないが、少なくともレオンハルトはアルフレッドが犯人に違いないと思っている。


「ここははずれだったのだろうか」


 納得のいかない顔でロスヴィータが呟いた。


「……ちょっと乱暴な魔法の使い方しても良い?」


 エルフリーデがちょこんと手を挙げる。レオンハルトは何となく嫌な予感がして、一歩後ずさった。さりげなく近くの書棚にカップを置く。


「人や物に危害が加えられないならばな」

「問題がなければ何も起こらないから大丈夫」

「おい、本当に大丈夫なのか?」


 ブライスが不安そうに声をかけたがエルフリーデはにっこりと笑って応える。ブライスの口元がひきつった。


「賢き神よ、すべての陰謀を明らかにせよ」


 エルフリーデの声が室内に響いた。


 精神魔法の派生だ。魔法使用者の周囲に存在する物理的な秘密を暴くものである。昔、この魔法を練習していたエルフリートがイノシシ狩り用の罠をすべて解除してしまい、領民から苦情が来たっけ。

 ちょうどレオンハルトが遊びに行っている時の出来事であった。


 山一体に影響が及ぶと思わず全力で魔法を放ったエルフリートだが、さすがに反省していた。罠が解除される瞬間は恐ろしかった。罠が解除されるというのは、実質、罠が発動するのと同じだったからだ。

 あちらこちらからくくり縄やら、槍やら、縄やら、落とし穴やらが飛んだり引き上げられたり大穴が突如現れたり……今でもレオンハルトのちょっとしたトラウマである。


 レオンハルトは思わずうずくまって頭を守った。臆病だと後で笑われてもかまわない。それくらいトラウマになっていたのだ。


「うわぁっ!?」

「レオ!!」


 だが、それは返って悪手であった。レオンハルトのかかとのあたりが勢いよく沈んだのである。重心を乗せていたかかとが落ち、レオンハルトはそのまま転げ落ちた。

 どうやらレオンハルトの近くにあった書棚が横に動き、彼の足下が一段下がり、階段を作り出したようだ。


 受け身を取りながら転がり落ちたレオンハルトは、真っ暗闇の中、目を凝らした。が、何も見えない。


「レオン、大丈夫か!?」

「派手に落ちたな、おい」

「……ったぁ……いや、大丈夫だ」


 階段の上から覗き込む三つの頭を見上げ、転んだ体勢のまま手をひらひらとさせた。

 レオンハルトが転げ落ちたのは、どこかへ続く地下通路であった。

2024.8.1 一部加筆修正

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