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レオンハルトがエルフリーデとの併走を止めてその後ろに戻ると、彼女はスピードを上げた。なるほど、ロスヴィータとブライスは先を走っている。
速度の安定しない乗り手に抗議するかのように、馬が小さく嘶いた。
ブライスは王宮の方へ向かっている。だが、王宮の近くまで来ると、そのペースは落ちた。
ロスヴィータとブライスは次第に併走する形に代わり、きょろきょろと周囲を見回すような動作が増える。
さすがに異変を感じ、彼らの近くに馬を寄せた。
「何かありました?」
レオンハルトがブライスに声をかけると、彼は苛つきを隠さずに言った。
「反応が鈍くなりやがった」
「嘘。ちょっと貸して」
エルフリーデが脇からひょいと身を乗り出してブライスの手から耳飾りを奪う。馬上でそんな器用なまねをしてみせる彼女に、さすがは妖精の妹だと感心してしまう。
エルフリーデは耳飾りをかざし、じっと見つめている。ふわりと飾りが揺れるが、それは方向を示さずに揺れるだけだ。
魔法が使えなくとも、どんな風に動くのかは知っている。
そして、今の動きが全く本来のものと違うという事も。
「邪魔されているか、結界の中にあるか、どっちかね。誘拐犯は相当な手練れなんじゃないの?」
ブライスに耳飾りを渡しながら眉をひそめる。そこでようやく、レオンハルトとエルフリーデはエルフリートがさらわれたという事実を厳しく受け止める事となったのだった。
「王宮は、結界の類が集中しているからな。妨害するほどの能力者がいるのではなく、王宮の結界を利用しているのかもしれない」
そう言ったのはロスヴィータである。彼女は末端とはいえ王族。ある程度、王宮の事に詳しい人間が言うのだからその可能性はあるだろう。
「周囲に、人が隠せそうな場所は……たくさんあるな」
ブライスがぽつりとこぼす。レオンハルトも同じ事を思った。今ここにいるのはエルフリーデ以外全員騎士だ。騎士団に所属している以上、警邏をした経験がある。
「ロス、たとえばなんだけど……この周辺で、立ち入りする人間が限られる場所ってある?」
「どういう事だ?」
一番この地区に疎いであろう彼女の発言としては正しく、エルフリーデとしては不適当なものだ。
「えっと、つまり。こんなに隠れる場所があるなら、どこでも良いけど逆に目立つと思うんだ。
だからさ、逆に特定の人物しか入れないような場所に閉じこめるんじゃないかなって」
エルフリーデとして不適当な発言ではなかった。なかなか良い切り口である。
「それにフェーデは閉じこめられたままでいるような人間じゃないし」
「――それは確かに」
エルフリートは実力者だ。それが、ただおとなしく救出を待つだけ、で終わるとは思えない。もし、彼がそういう状態であるならば、動かない方が得策だと思う状況であるか、完全に動けない状態となっているかのどちらかだろう。
後者であれば絶望的だが、前者だとすれば、今エルフリーデの言ったように人の出入りが極度に制限されている場所である可能性はあるだろう。ロスヴィータが考えるそぶりを見せる。が、小さく頭を横に振るだけだった。
「基本的に、王宮内を簡単に出入りできるのは王族だけだ。近しい貴族でも――例えば、私と私の母は入れるが、父は入れない。
父は公爵家の血筋だが、遠いのだ。血の濃さを戻す為の結婚だったからな。母の方がよほど血が濃いというわけだ」
ロスヴィータの説明に、ブライスが頷いた。
レオンハルトはエルフリートがロスヴィータの婚約話でのドダバタの時に言っていた話を思い出す。「血の濃さではアルフレッドの方が公爵よりも濃いからね。ロスヴィータの事を思えど、強くは出られなかったみたいだよ」と残念そうに溜息を交えていた。
「ロスが自由に動ける範囲って」
「王宮のごく一部と、王家の霊廟だな。皆も知っているだろうが、王家の霊廟は、王族ならば誰でも入れる場所だから穴場ではないな」
「入れる人間の範囲は?」
レオンハルトが確認すると、彼女はなめらかな舌の動きで教えてくれる。
「公爵家までだ。だが、別の血筋で埋めた公爵家はだめだ。新しく王家から人を迎えるまで、王族としては認められない事になっている」
正確な情報に、レオンハルトだけではなく、他の二人も納得の表情をしている。
「常識を確認するようで恥ずかしいんだけど、霊廟って王宮の一角にあるよね」
「そうだな。そうでなければ私もこの場所を上げたりしないさ」
ロスヴィータは頷いた。エルフリーデは肩をすくませ、苦笑する。
「だよね。お墓って、あんまり人が行かないから人の目がないかなって思ったんだ。その霊廟は見張りだけ?」
エルフリーデが霊廟に興味を示している理由を理解した三人の目に剣呑とした光が点る。
――そうか。王族に一人、エルフリートを誘拐する理由と実行する能力の両方を持つ人間がいるではないか。
2024.7.31 一部加筆修正




