表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/81

1

 エルフリートは念入りに自分の姿を確認した。髪型は普段よりも手間をかけた。いつも一本の三つ編みに編み込んでいるところを上から三分の二ほどを使って編み込みをシニヨン風にまとめ、残りは柔らかな癖毛を活かして流している。

 腰よりも長い髪が少し邪魔だけど、お洒落の為なら我慢は当然だよね。髪飾りはまだつけていない。服装に合わせて、と思っていた。


 今着ているワンピースはしっかりとした厚手の生地にレース生地が重ねられたデザインである。そして厚手の生地に色味の変化はないものの、レースによる模様の密度で濃淡が生まれるように作っており、重すぎない印象を与えている。

 緑系の色彩でまとめられた自分の姿を姿見の前で動かした。

 色彩は派手ではないし、動きにあわせてひらひらと舞うレース生地は可愛い。直前まで迷った末にこのワンピースを選んだのだが。


「町歩きには豪華すぎるかなぁ……?」


 ぶらぶらと町歩きをするには少々場違いだろうか。いや、貴族のお嬢様ならこのくらいは普通かもしれない。この辺のさじ加減がよく分からない。

 エルフリートは悩んだ。王都での生活はここ一年程度。それまでは僻地で貴族が自分の一族しかいないという生活をしていた。

 交易はあるものの自分たちで全てを賄うような僻地であった為、普段は貴族らしからぬ姿で外を歩いていた。王都での生活だって騎士として、そしてロスヴィータの護衛として過ごしていた為に、特にファッションに関しては遠い生活をしていた。

 町歩きだって数回しかした事がないし、ロスヴィータと婚約してからは今回が初めての町歩きとなる。エルフリートが服装に悩むのは当然であった。


「でも、やっぱり一緒に出かけるなら可愛くしたいし」


 可愛らしい姿をすれば、ロスヴィータが喜んでくれるだろう。できる限り、エルフリートはロスヴィータの“妖精さん”でありたいのだ。


「うん。顔を合わせて華美だって言われたら着替えよう。あ、町で服を選んでもらうのも良いかも!」


 エルフリートは良い事を思いつき、今の服装に合う髪飾りをつけて部屋を出た。


「ああ、おはようフリーデ。今日も愛らしいな」

「おはよう、ロス。あなたの方こそ凛々しくて素敵だよ」


 ロスヴィータの装いは休日の貴族騎士といった風である。袖や裾に細やかな刺繍が広がっていて、少し気取ったように感じられる。そんなやや薄手の秋物コートは彼女の遊び心だろうか。

 きっちりとしているように見せてフランクなイメージを与えていた。

 青を基調に揃えたらしいその衣装の刺繍は、所々に淡い紫色が使われている。さりげなくエルフリートの色が差し込まれているのに気がついた本人は満面の笑みを浮かべた。


「ロス、私の色を使ってくれてありがとう」

 エルフリートがそう言えば、ロスヴィータはおかしそうに笑った。

「フリーデこそ、全身が私の瞳の色を意識したかのような色ではないか。何だか照れくさいな」

 全く照れてなどいないような態度がロスヴィータらしい。彼女から差し出された手に軽く手を乗せ頷くと、ロスヴィータが歩き出す。そつないエスコートに胸をときめかせながら、エルフリートは彼女の隣を歩くのだった。




 通りすがりの騎士に冷やかされながら城下町へ向かう。婚約者を差し置いて二人で外出していると思われても仕方がない。

 騎士からすれば女二人なのだが、見た目は男女二人で、実際男女二人である。

 見た目と中身の性別は逆転しているものの、これは立派なデートである。少なくともエルフリートはそう思っている。

 城下町へ繰り出すと、にぎやかな喧噪が待っていた。


「ロス、こうやってお出かけするのは久しぶりだね」

「そうだな。それに婚約してからで言うなら初めての外出だ」


 ロスヴィータがエルフリートとの婚約について言及する事は滅多にない。エルフリートは新鮮な気持ちでその言葉を聞いていた。

「フリーデは何が気になっている? 私はあなたにリボンをプレゼントしたいと思っていたんだ。あとは新生活用に雑貨とか、何か良い物があれば良いなと思っている」

「えっ、プレゼントしたいのは私の方なのに!」

「良いじゃないか。プレゼント交換か。悪くない考えだ」

「それもそっかぁー」

 ロスヴィータの提案に頷いた。


 リボン……お揃いのデザインで色違いとかも良いかも。エルフリートは同じ意匠のリボンを身につける姿を想像し、ふふ、と笑みを漏らした。

 手頃な商品を取り扱っている商店の並んだ通りにさしかかると、エルフリートが身につけているワンピースよりももう少しランクの下がった衣服が多いのが目についた。

 やっぱり派手だったみたいだ。少しだけ気合いを入れすぎてしまっていたのを自覚したエルフリートは出かける前の案を口にする事にした。


「ロス」

「うん? 何か欲しいものでも見つけたか?」

「うん。私ね、町歩き用の服が欲しい。ちょっと今の格好は目立つみたいだし。それにこれからもお出かけしたいから、一緒に選んでほしいなって」


 歩いていると、ちらちらと視線を感じる。おそらくエルフリートの服装が浮いているのだろう。場違い、というほどではないとエルフリートは思っているが、周囲はそう思ってくれないらしい。


「ああ……いや、その服装が目立つと言うよりは、おそらく我々の存在自体が目立っているだけだと思う。だが、そうだな。新しい服を一緒に選ぶというのは賛成だ。ぜひプレゼントさせてほしい」


 自分たちが目立つ、というのは一体どういう事だろう? エルフリートが首を傾げるとロスヴィータはおかしそうに笑った。


「私たちは、意外と有名人だってことだよ」

「そうなんだ……」


 有名人だという自覚はあるものの、広く顔を知られている自覚のなかったエルフリートにはピンとこないのだった。

2024.6.29 一部加筆修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ