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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
アルフレッド再び

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69/81

2

 信じられない。エルフリートはここからの脱出を諦めざるを得なかった。よしんば手足が自由になったとして、この霊廟を一歩出れば王宮を守る近衛兵に見つかってしまう。そうなれば不当に侵入したという事で、エルフリートはあらぬ罪を被る事となるだろう。

 脱出とは、無事に家まで帰る事ができてこそだ。決してアルフレッドの手から逃れる代わりに牢に入れられる事ではない。


 これは動かず、ロスヴィータが助けにここへ来てくれるまで縛られた状態で待っていた方が得策かもしれない。手足が自由だとむしろあらぬ疑いをかけられそうだ。

 見つけてくれるだろうか。王宮は、あらゆる結界が張られていていくつかの魔法を無効化したり、弱化させたりする。

 エルフリートとロスヴィータの対になっている耳飾りだって、正常に動作する保証はない。

 床に身を預け、力を抜いた。石材の床がエルフリートの体を冷やす。なんだかこれって、おとぎばなしの妖精さんが囚われてしまった時みたいだ。

 エルフリートとロスヴィータがこうなった原因のおとぎばなしのあらすじは、こうだ。


 カルケレニクス領を守る妖精と王子が恋をした。そんなある日、妖精がさらわれてしまう。彼女が消えたカルケレニクスの地は暗闇に閉ざされ、雪が吹きすさぶ。

 妖精を探し続けた王子は、ようやく領内にある巨大な岩の向こう側に彼女が閉じこめられている事を知る。彼はその岩を押しのけ、その奥に続く妖精界へと向かった。

 暗闇の中、偽りの妖精に出会い、その正体を暴き、排除する。そうして囚われの妖精を助け出すのだ。

 エルフリートは王子が妖精を助け出す部分の絵が特に好きだ。あの絵のように、ロスヴィータは助けに来てくれるだろうか……。




 エルフリートが現実逃避という名の妄想をしている時、ロスヴィータは必死で痕跡を探していた。だが、簡単には見つからない。

 それに正直なところ、痕跡探しは素人だ。そういう点で言えば、狩りの経験があるレオンハルトの方が馴れている事だろう。


「あ、エルフリーデたちだ」

「む」


 レオンハルトが声を上げ、カンテラを振った。

 断言するという事は、レオンハルトには向こうの姿が見えているのだろうか。ロスヴィータには不安定に揺れているカンテラの光と思われる点しか見えていない。

 不思議な動きをする光の点に気がついたのだろう、向こうの光も揺れた。向こうの光は二つ。レオンハルトの言っている事が正しければ、エルフリーデとブライスだ。


「状況を確認しよう」


 彼はそう言いながらカンテラを明滅させ始めた。騎士団で使われている暗号である。ロスヴィータはその様子を見守った。

 レオンハルトが名乗ると、向こうも名乗った。やはりエルフリーデとブライスであった。エルフリートが帰ってこないから探していると伝えれば、ブライスとの待ち合わせ場所に向かうと屋敷を出たっきりだと返事が来る。


 レオンハルトの情報は正しかった。決して信じていなかったわけではないが、ロスヴィータの中でエルフリートの不在がより現実味を帯びた。“かもしれない”だけであれだけ不安になったのだ。

 事実だと分かってからは、彼の身が心配で仕方がない。真夜中だとか関係なく、大声で叫びながら探したいくらいだ。


 ロスヴィータのはやる気持ちを感じ取ったらしく、馬が足踏みをした。はっと我に返り、馬を落ち着かせる為に首を撫でてやる。

 そうしている間にもレオンハルトは会話を続けている。


「痕跡を探しながら合流する事になったよ。見つけたらその場所から合図をして落ち合うんだ」

「分かった」

「向こうは追跡のプロだから、きっと何かを見つけてくれるよ」


 ロスヴィータは頷いた。ブライスは魔獣を狩る為に、あらゆる追跡技術を学んでいる。そしてエルフリーデは狩りのプロである。エルフリートに及ばないとしても、それなりにできると聞いている。

 エルフリート自慢の妹である。ロスヴィータが思っている以上にできるはずだ。


「さあ、続きを」

「ああ」


 ロスヴィータは少しでも早く彼を見つけられるよう、深呼吸をして前を見据えたのだった。


「あったって!」

「なんだと!」


 レオンハルトが向こうからの合図に気がつき小さく叫ぶ。二人は示し合わせたかのように馬を走らせた。


「痕跡はっ」

「見て、これなの。ブライスが見つけてくれたんだよ」


 示された先には、動物の死骸。まれにある事だ。おおかたどこぞの貴族が飼っているペットが逃げ出したのだろう。ロスヴィータはそれに近づいてカンテラの光を当てる。


「これは……」


 馬車にはねられたのだと思っていたが、轢死には見えない。ピギーと呼ばれる小さな角を持つその愛玩動物は、足の付け根を深く切り裂かれていた。


「残酷な事をする」

「こいつが路上に倒れていたらどうする?」

「避けるか、一度確認して――まさか」


 愛玩動物の死骸を見つめながら呟いたロスヴィータの背後から声がかけられる。彼女は普段御者がするであろう行動を予測し、気がついた。


「動物の死骸を餌に馬車を止まらせ、乗っ取ったのか」

「多分な。……手際が良い。手慣れてやがるぜ」


 ブライスが憎々しげに言葉を吐いた。

2024.7.28 一部加筆修正

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