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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
アルフレッド再び

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68/81

1

 息苦しい。顎が痛いし、何よりも寒い。エルフリートは不快感いっぱいで目を覚ました。だが、視界が塞がれているのか目元に圧迫感もあるし、真っ暗である。


「んぅ……んぐ」


 エルフリートは自分が厳重に管理された状況にいるのだと察した。猿ぐつわに目隠し、後ろ手に縛られている上に両足も足首のところで縛られているらしく、身じろぎしかできない。

 視界だけでもあればマシなんだけど。エルフリートは溜息を吐いた。魔法を使おうにも猿ぐつわが外せなければ無理だ。

 無詠唱でまともな魔法が使えるような人間は世界に数えるくらいだと言うし、情報が公開されているのは遥か遠くの帝国に一人だけだ。その話だって本当かどうか。

 この件が解決したらマロリーに相談してみよう。エルフリートはそんな事を考えながら状況を把握すべく動き出すのだった。


 ミミズのように体をよじると、ざりざりと土のような音がする。そよ風の一つも感じない事から、納屋など――それもちゃんとした作りだ――の砂埃が入っても気にならない場所である可能性がある。

 それにしても寒い。エルフリートをさらった存在は、凍死でも狙っているのだろうか。いや、おそらくそれはない。思いつくなり自分で否定する。

 だって、エルフリートをこんな姿で転がしたのはアルフレッドなのだから。


 ――アルフレッド。昨年ロスヴィータを誘拐した王族の端くれである。中途半端に王位継承権を持っているせいか、歪んで育ったらしい。同じくらいの地位にいるロスヴィータとは正反対だ。

 そんな彼はロスヴィータと結婚すれば王位継承順位が上がると思ったらしく、婚約話を彼女へ持ちかけた。当然の事ながら、拒絶され、その結果暴挙に走ったのだった。


 その暴挙を阻止したのが“エルフリーデ”である。エルフリートは自分の権限を最大限に使い、彼を現行犯逮捕した。つまり、“エルフリーデ”はアルフレッドの恨みを買っていた。

 だが、どうしてその“エルフリーデ”ではなく“エルフリート”をさらったのか。それは、想像するにとてもくだらない理由であろう。

 先日の祭典で出会った際、“エルフリート”の姿をしているエルフリーデに言い負かされていた。馬鹿にされたと思ったのだろう。

 いや、事実彼女はアルフレッドを下に見るような発言をしていた。きっとアルフレッドは“エルフリート”の事を気にくわない人間だと思ったはずだ。エルフリーデも挑発的な言葉を発していたが、ロスヴィータの婚約者という立場を加味すればより一層、そう考えるのも想像に難くない。


 それにしても今回は鮮やかな手腕だった。エルフリートは自分が誘拐された時の事を思い出す。馬車を自然に止まらせて御者を気絶させ、そしらぬ顔で馬車を乗っ取った。エルフリートはそれに気づかず乗り続けていたのだ。

 あれ、と思う頃には馬車は道をそれていた。そして馬車は罠を張った道に突っ込んだ。罠といっても簡単で安全なものである。罠が発動すると、強烈な眠り袋が炸裂するという。

 馬に使うには弱く、人間に使うにはじゅうぶんすぎる強さのそれは、エルフリートの意識を奪った。


 なぜ知っているのかと言うと、馬が減速していくのに気が付き、状況を知る事となったエルフリートがうっかり窓を開けたからである。甘い香りを感じ、まずいと思ったが、それっきり何もできずに意識を失ってしまったのだ。

 そしてそのわずかな間に、エルフリートはトライリ家――アルフレッドの家である――の紋章の入った馬車を見かけたのだった。誰かがわざわざトライリ家を騙ってするとは考えにくい。それに、詰めが甘いあたりは前回と同じである。

 何が起きているのかを把握するチャンスを得た瞬間であるが、自分がそういう対象になるとは思ってもいなかったエルフリートの失態の瞬間でもあった。


 前回ロスヴィータを誘拐した時もそうだが、どうしてそういう方面にばかり能力を発揮させるのか。エルフリートには不思議でならない。取り留めもなく考えに耽っていたエルフリートは、現実逃避をし始めた事に気づいて我に返る。

 そうだった。今は状況把握と、可能なら……ないに等しいけど、逃げなきゃ。


 視界だけでも確保できないかと、エルフリートは目隠しの部分を床に擦りつける。頬に砂とは違う、ひんやりとした固いものが当たった。幸いな事に、魔法具である耳飾りはついたままのようだ。

 エルフリーデがロスヴィータから耳飾りを受け取って、場所を調べてくれる事だろう。が、エルフリートはそれを待ち続けるような人間ではない。

 ぐいぐいと頭を押しつけ、目隠しをずらそうと奮闘する。エルフリートは己の頬や髪がこすれるのも気にせず、ひたすら続けた。


「んんっ」


 無理な体勢に猿ぐつわ。猿ぐつわでこすれ、口の端がじんじんとした痛みを訴え始めた。あまり続けると目隠しが外れる前に、猿ぐつわで口や頬の皮膚が傷つくかもしれない。

 エルフリートはそう思ったが、目隠しをはずそうとするのをやめなかった。ぐりぐりとこすり続けたかいあって、ようやく目隠しがずれた。それに気を持ち直した彼は、そのまま目隠しを外す事に成功するのだった。

 え、嘘でしょ……?

 視界がはっきりしたエルフリートは、周囲を見て心の中で絶望した。エルフリートが今いるのは、普段は王族以外立ち入り禁止の王族が眠る霊廟であった。

2024.7.28 一部加筆修正

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