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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
消えた王子様の妖精

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66/81

1

 エルフリートがブライスと会うと言って出かけてから戻ってこないという事をレオンハルトが知ったのは、仕事上がりに移動している時であった。……それも、リッターの中で。

 心地よい日差しのもとで小鳥たちが朝の挨拶をする中、屋敷の中はごたごたとしていた。


「フェーデ、ちゃんと責任を持って話し合ってきてよ?」

「分かってるって」


 本来の姿に戻っている兄妹は、リッターの前で小競り合いをしていた。ブライスとの格の差を見せるのだと、ああでもないこうでもないとエルフリーデがエルフリートのコーディネートにけちをつけて着替えさせている。

 ようやく彼女も納得のいく姿になったエルフリートは、そのまま馬車に乗り込んで待ち合わせ場所へと向かっていった。エルフリーデはやるべき事はやったとでも言うように、満足げに頷き、ぐぐっと腕を伸ばした。


 レオンハルトがそんな様子をリッターを通して見ていたのは今朝の事である。それが夜になって再びリッターと感覚共有ができた時、エルフリートの姿はなかったのだ。

 たとえ、ブライスとの面談で意気投合したとしても伝言を一言も送ってよこさない性格ではない。少なくとも、王都での生活で起きたイレギュラーな事は全て共有していたから、この事は異常である。


「リッター、変だと思わない? ブライスが逆上してフェーデを殴ったりとかしてないかなぁ?」

「なーお」


 さすがにそれはないだろう。とレオンハルトは信じたい。レオンハルトの気持ちを代弁するかのように、リッターが鳴いた。


「って、あら。お客様のようね」


 リンゴンと小さく鐘の音が鳴る。屋敷の奥にいるときに来客が分かりにくいと言った先々代がつけたらしい鐘である。執事が来客を迎えている間に、空いている人間が鐘を鳴らして知らせるのだ。

 この鐘の音を聞くのは久しぶりの事だ。レオンハルトは少しだけ懐かしい気持ちになった。

 エルフリーデの後に続いて玄関へと向かえば、意外な人物の訪問だと分かった。


「前触れもなく、突然やってきて悪いな」

「えっ、ブライス? フェーデと会うんじゃなかったの?」


 “エルフリーデ”の皮を被ったエルフリーデが駆け寄ると、彼は小さく首を傾げてから頷いた。


「それが、約束の時間になっても姿が見えなくてなぁ。フリーデのお兄さんだから、約束を反故にするような方ではないと思ってこの時間まで待ったんだが……。

 嫌な予感がしたから念の為に立ち寄らせてもらったってワケだ」


 エルフリーデの眉が歪む。


「お兄さまは、約束の時間に間に合うように家を出たわ。だから、会っていないっていうのはおかしいの」

「そうか」

「足取りを辿ろう。ちょっと待ってて、すぐ着替えてくる!」

「あ、おい!」


 ブライスの声を無視し、エルフリーデは「ステファン、馬の用意!」と叫びながら自室へ向かって走り去っていった。

 リッターは去っていくエルフリーデを見送ると、ブライスの方へ体を向けてじっと見つめた。

 初めて見る人間を観察しているのだろう。リッター越しに見るブライスはかなり巨大に見える。警戒心を抱くのも当然だ。


「お前、レオンに似てるな」


 レオンハルトを知る人のほとんどに言われる台詞を放つと、手を伸ばしてきた。が、彼の獣性を感じ取ったのか、リッターは唸った。


「ぐるる」

「はいはい、俺が信用できねぇのな。知ってるけど傷つくなぁ」


 言葉とは裏腹に、にやりと悪そうな笑みを浮かべて手を引く。リッターも手が遠ざかるのを感じて唸るのをやめた。

 レオンハルトはリッターごしに、彼をじっと見つめた。


「なあ、あのお嬢ちゃん。少し普段と違いやしねぇか?」


 どきりとする。まさか、入れ替わりに気づいた――?


「……お前に聞いても無駄か。答えてもらったところで何言ってるか分かんねぇし」


 気づいたのか、気づかなかったのか、どっちだ!? レオンハルトの方こそブライスに問いただしたい。いや、そんな事よりもいなくなったエルフリートについて考える方が先だ。


 レオンハルトはリッターとの感覚共有が同じ時間軸である事に思い当たる。いずれにしろ、のんびりとしている場合ではない。今回は近くにあったトイレの個室に籠もって、共有が切れるまで過ごすつもりだったのだが。

 これは看過できない何かがある。そう察したレオンハルトは覚悟を決めて目を開け、立ち上がる。

 感覚共有時は視界が混濁する上、レオンハルトとリッターの感覚が同居している。挙動がおかしくならないよう、レオンハルトとしての感覚や視界に集中して足を動かすのだった。




「ロス! 夜にすまないが、緊急なんだ」

「立ち話でも良いか?」

「もちろんだよ」

 どうにか目的地である寮まで辿り着き、レオンハルトは扉を叩いた。こんな時間帯に非常識な訪問だ。対応してもらえるだけでありがたいし、婚約者のいる異性と二人きりにはなりたくないのはレオンハルトも同じである。

 がちゃりと鍵の開けられる音の後、小さく木の軋む音とともにロスヴィータの姿が現れた。彼女はきっちりと女性騎士団の制服を身につけている。

 彼女も思うところがあったのだろう。その瞳には不安の色が含まれているようだった。

2024.7.28 一部加筆修正

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