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レオンハルトは今までの経緯と、これからの対策について語った。あの“エルフリーデ”では、相手からのアタックをかわせない事、そのアタックを極限まで減らさなければ解決に至らないであろう事、その為に考えられる手段について。
エルフリーデは行儀よく食事を続けながら、レオンハルトの話に耳を傾け続けた。
「それで、エルフリーデと俺が仮で婚約してしまうのが一番手っ取り早くて安全だと思うんだ。という事で、俺との婚約を提案するんだけど、どう思う?」
「……そうだね、確かにそれが一番確実だと思う。フリーデに任せきりは私も正直不安だから」
エルフリーデはいたって冷静だった。レオンハルトは本当にそんな簡単に決めてしまっても良いのだろうか。逆にエルフリーデの事が不安になってくる。
そんなレオンハルトの雰囲気を察したのか、彼女は小さく笑った。
「フリーデも、レオが相手なら良いと思う。私も安心できる」
エルフリーデはレオンハルトに向けて微笑んでみせる。一見エルフリートにしか見えない彼女の、本音が知りたかった。
数日後、改めて当事者で集まる事になった。つまり、レオンハルトとエルフリーデ、エルフリートの三人である。場所はエルフリートが滞在しているカルケレニクス家の屋敷だ。
詳細は聞いていないが、おそらく本来の兄妹としての姿で現れるだろう。だが、そこでエルフリーデの本音が聞けるとは限らない。
こういう時こそリッターとの不思議な繋がりが活かせたら良いのに、と淡い期待を抱いていたが、その集まりの日になっても、レオンハルトはリッターと感覚を共有する事はなかった。
そうして当日、レオンハルトはいつもより華のあるエルフリートと普段よりも少しおとなしくなったエルフリーデの兄妹に出迎えられた。
「やあ、数日ぶり」
「うん、数日ぶりだね。今日も元気そうだ」
エルフリートの案内で応接室に向かう。室内には、既に茶菓子などが並んでいて、すぐにでもお茶会ができる状態になっていた。
エルフリートとエルフリーデが並んで座り、その向かい側にレオンハルトが座る。給仕をするメイドはおらず、代わりにエルフリーデが紅茶を用意し始めた。
「さて。“エルフリーデ”が男から懸想されているという想定外の件について、虫除けとしてレオがフリーデの婚約者になるっていう提案があるのだけれど」
久しぶりに聞くエルフリートの地声を懐かしく感じながら、レオンハルトは話を聞いていた。
「私はこの話に賛成だ。正直、“エルフリーデ”が彼からうまく逃げるのは厳しいと考えている。
申し訳ないが、私は彼の行為がどこから“過ぎた行為”になるのかまったく分からないからね……」
視線を外しながら言われ、レオンハルトは半眼になってしまう。 感情の機微に疎いとは思っていたが、相当酷いようだ。
「ただ、これはフリーデ本人の人生を左右させかねない事だから強制はしない。ブライスがダメな人だって言うわけじゃない。彼が部外者でフリーデの事を知らないからだ。
もちろんブライスの事が気になるなら、フリーデが彼と出かける機会を設けたって良い」
「おいっ」
話がおかしな方向に向かっている。レオンハルトは割り込んだ。揃って不思議そうに首を傾げる兄妹に、ツッコミを入れた。
「ブライスと接近するなら、秘密を話すしかないぞ。そもそも入れ替わって会ったとして、入れ替わりに気がつかなかったらどうする。
そんな鈍い男で良いのか? 逆に気づかれてみろ。彼からしたら本物のはずの彼女は偽物でしかないという証明になる。
こんな不幸な事、俺は関わりたくない」
エルフリートがなかば放心気味に「……確かに」と呟いた。
「互いの不幸が最小限になるようにしたいって言うのが趣旨だろう? フェーデ、感情の機微が分からないにもほどがある」
レオンハルトの強い視線がエルフリートを貫いた。
エルフリートは瞳を揺らした。だからといってレオンハルトに折れる気はない。
「俺は、誰かが不幸になるのは許容できない。俺が協力しているのは、ロスとフェーデに幸せになって欲しいからだし、二人の為に動いているフリーデが不幸にならないようにサポートしたいからだ。
頼むから、自分から進んで不幸になろうとしないでくれ」
レオンハルトはエルフリートの目をじっと見つめた。エルフリートのアメジストを思わせる目にレオンハルトが映っている。
その顔は不安そうな子供のようだ。あまりにも情けない顔をしていたのに気がつき、レオンハルトは俯いた。
エルフリートはすぐに答えようとはしなかった。少しの間、沈黙が流れる。それを破ったのはエルフリーデだった。
「……私、レオンと婚約するわ」
「……え?」
エルフリーデに視線が集中する。
「結構レオンの事、好きだもん。だから、最悪結婚するならレオンが良いかなって」
彼女は、好きな食べ物について話すかのような気軽さで結論を出した。
2024.7.21 一部加筆修正




