表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
レオンハルトの秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/81

1

 レオンハルトには秘密がある。それは親友であるエルフリートにすらまだ教えていない。エルフリートの大きな秘密に関わっておきながら、自分の秘密を話さないというのは、不義理だと思う。

 だが、あまりにも不可解な秘密の為、ちゃんと説明できる自信がなかった。


「なぉー」

「リッター、ここにいたのか」


 親友の姿をしたエルフリーデが猫を持ち上げた。この猫は、エルフリーデの飼い猫である。そしてこの猫が、レオンハルトの秘密に大きく関わっている。


 安定した状態で抱き抱えられると小さな振動が伝わってくる。彼女は移動してゆっくりとリッターを愛でるつもりだ。レオンハルトは来るべき状況に、毎度の事ながら覚悟を決める。

 ――覚悟を決めるのには理由がある。なぜかレオンハルトはリッターと感覚を共有できるのだ。それも、唐突に。


 職務中だと気がそぞろになるから困る。眠っている間に当日の出来事を振り返らさせられる事もある。そういう時の翌日はおかげで寝不足だ。

 残念ながらリッターを操作する事はできない。ただただ猫の奔放な行動を体験させられるだけである。まぁ、そのおかげでエルフリートが突然女装をするようになった時も、受け止める事ができたのだ。

 特定の猫と同調できるようになったという秘密に比べたら、女装など可愛いものだと当時は思えたものだ。ここまで大きな秘密に発展するとは思っていなかったが。


 今回は、エルフリーデにグルーミングしてもらうだけで終わりそうだ。

 長い前髪をゆるく額にかかるようにし、全てを後ろ髪ごとくくっている。整った顔立ちは兄そっくりで、双子だと言われても不思議ではない少女だ。

 エルフリートの姿で出歩く事が多くなったせいか、一気に大人びた風貌になってしまった彼女の顔が近づいてきた。


「今日もお利口さんにしていたかい?」


 リッターに頬ずりをし、キスを落とす。彼女が執務室の席に着けば、もみくしゃ撫で回しタイムだ。最初は頬のあたりから、それが首、胴体へと下がっていく。レオンハルトは人知れず、ため息を吐いた。

 グルーミングは近すぎる。この状況を俯瞰して体験できるのならば良い。だが、リッターとして体験するのだ。彼女の優しい撫で方、指使い、何もかもが生々しい。


「今日はおもしろい事があったんだ。聞いてくれる?」

「ふご」

「エルフリーデの同僚に挨拶をしていたら、会えないかもしれないと言われていた男に会えたんだ。ブライスという名で、結構な男前だ」


 何だって? 気になる話題にうんざりとした気持ちが切り替わる。レオンハルトは身を乗り出して詳細を聞き出したかった。あいにく、おそらくこれも今の出来事ではないし猫の体験を追体験させてもらっているだけであるから、実際は過去視のようなものだ。


「巡回している騎士は狙って会えるわけじゃないからかなりの運だよね。それはともかく、ブライスはどうやら妹に懸想しているようだった」

「ぐるる」

「私かい? 性別の区別もつかない男へ簡単になびくわけないだろう。しっかり兄らしく、警戒してあげたよ」


 その話題についてもっと詳しく教えてくれ。続きをそう促したかったが、自由はない。


「お前はちゃんと区別がついているのになぁ。人間というのは、かなり見た目に左右される生き物だから、仕方がないね」


 次に口を開いた時には別の話題に移ってしまった。歯がゆく思いながらレオンハルトはエルフリーデにされるがまま、彼女の心行くまで撫で回されるのだった。




 やはり今日は寝不足だ。それに夢の内容のせいで悩みが増えた。レオンハルトは目覚めたばかりだというのに深いため息を吐いた。もちろん悩みというのはエルフリート関連である。雪山での訓練が終わってからブライスの態度が変わった。

 ブライスが“エルフリーデ”へと向ける視線は恋情へ変わる一歩手前、といったいわゆる「気になる奴」へのそれで、レオンハルトは気が気でなかった。もちろん、その理由は“エルフリーデ”が本物(女性)ではないのがばれてしまう原因になりかねないからだ。


 別にエルフリーデが誰と恋仲になろうが関係はない。いや、親友の妹だからまともな人間と幸せになってほしいとは思うけれど。レオンハルトは兄の代役を立派に努めている彼女を思う。

 兄に振り回されている人間の一人――それも第一被害者――だ。だが、彼女は自主的にやっているのだと笑う。女性が当主の影を務めるというのは、寡婦となった貴族くらいだ。それも息子が継ぐまでの繋ぎである。

 それが不満だと語る姿をリッターから覗き見ていたレオンハルトは、彼女がただ兄に流されているだけではないのだと知っている。


 自分の可能性を最大限にする為、むしろ兄を利用しているふしがあると気がついたのは猫と同調できるレオンハルトだけかもしれない。

 できる事ならば、彼女の可能性を伸ばしてくれる相手が良い。ずっと見守ってきたレオンハルトはそう思っていた。

 ――昨晩にエルフリーデからブライスの話を聞くまでは。


「あの男、いつの間に本気になってたんだろう」


 祭で双子の仮装をしていた二人と合流する前、ブライスと会ったらしい。そこで何かあったのだろうが、エルフリーデは詳細を話さなかった。詳しく教えてもらいたくとも、猫の耳一つ動かせた試しがない。昨夜も駄目だった。

 レオンハルトは制服に腕を通しながらこれからどうするか、睡眠不足でうまく働かない脳を叱咤して考えるのだった。

2024.6.19 誤字修正

2024.7.21 一部加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ