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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
大忙しの記念祭

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54/81

4

 理解が追いつかないロスヴィータとエルフリートを置き去りにしていたまま会話が続こうとしていた。


「私という恋人がいながら、別の人間と縁談なんて論外だわ」

「アントニオとマリンの縁談じゃないの?」


 エルフリートが咄嗟に割り込むと、アントニオが端的に答える。


「違う。縁談の話が来たのは俺だが、相手はマリンじゃない」


 彼の声色には、何でそんな事を聞いてくるのかという疑念が混ざっている。二人ともこちらが事情を把握できていないのを分かっていない。というか、いつの間に愛称で彼女を呼ぶようになっていたのだろうか。ロスヴィータは置いてけぼりにされた気分になる。


 ロスヴィータの不満をエルフリートも感じているようで、彼の方は頬を膨らませている。あまりにも柔らかそうで、思わずそのふっくらとした頬をつついてやりたい。そんな事をうっかり考えてしまった。


「私たち、二人が恋人だなんて聞いてない」

「言ってないもの。当然でしょう」

「言ってなかったのか」

「プライベートよ。言う必要がある?」


 マロリーの回答にぎょっとしたアントニオは彼女の出していた結論を聞き出すなり額に手を当てた。アントニオが困る姿を見るのはなかなかない。

 困った事を淡々と処理していくイメージが強かっただけに、ロスヴィータを困惑させる。


「すまない、てっきり知られているものと……」

「いや、こちらこそ何だか申し訳ない」


 誰も悪くない。こういう気まずさに慣れていないロスヴィータはアントニオの謝罪に謝罪で返した。


「恋人かぁ……ふふ、何だか照れちゃうなぁー」


 一人うっとりとしているエルフリートを半眼で見つめると、はっと小さく息を飲み、姿勢を正した。マイペースすぎる姿に、ロスヴィータだけではなくマロリーもため息を吐いた。


「きっと大丈夫だから、お仕事に戻ろう?

 マロリーの家柄は悪くないんだし、今晩にでも恋人を紹介してしまった方がうまく行くと思うよ」


 突然それっぽい台詞で話を終わらせようとするが、彼の言う事はなるほどもっともである。

 ロスヴィータもそれに同意すれば、アントニオは決意を秘めた視線でマロリーを一瞥してから持ち場へと戻っていった。


「マリン、めいっぱい着飾ってがんばってね!」

「……言われなくともやってやるわよ」


 マロリーの後押しになれるよう、彼女の後ろにいる存在を匂わせられるものを用意しよう。ロスヴィータは自分が自由な日であるのを良い事に、ひっそりと手配をするのだった。




 中性的な男性装のエルフリートが満面の笑みを浮かべながら、同じく中性的な女性装のエルフリーデを連れてロスヴィータのもとへ現れた。

 今日の相方であるルッカは挨拶をするなり職務へ戻ってしまった。視線だけちらちらと向けているあたり、気にはなっているのだろう。

 彼女の配慮に感謝をしつつ、エルフリートたちとの雑談に気を向ける。


「ロス、どうかな。私かっこいい?」

「いや、可愛いよ」

「格好良くなりたかったんだけどなぁー」


 ひらりと一回りしてみせる彼は、男性の姿をしていても女性にしか見えない。

 すごい技術だ。ロスヴィータは単純に感心してしまう。隣で立っているエルフリーデはふりふりのひらひらを着せられているのに男性に見える。

 ロスヴィータはあまり服飾に詳しくないから、細かく説明するのは難しいが、今日は双子風のコーディネートらしい。確かに色味は緑と紫で対になっているし、レースの使い方やジャケットのノッチの形が似通っている。

 ワンポイントにつけられたラペルピンは宝石違いの同じ意匠で、手が凝っている。舞踏会並の気合いの入れ具合に、ロスヴィータは内心で呆れてしまう。


「ロスにね、朗報も持ってきたんだよぉ」

「朗報?」

「昨日の結果、知りたくはないかい?」


 軽く首を傾げるロスヴィータに、エルフリーデが口を開く。雰囲気のある美人になった彼女の姿に少しだけ胸がどきりとした。


「おつきあいをしている相手がいるのなら、見合い話は断ろう。そういう事になったようだよ」

「そうか」


 悪い事にならなくて良かった。ロスヴィータは胸をなで下ろす。エルフリーデのせいで変に速まっていた心臓も、落ち着き始めていた。


「縁談なんて大変だよねぇ……」

「私とロスはもう関係ないけれどね」

「うー、ずるい」

「あまりその姿で変な動きをしないでくれるかい? 万が一にでも私と間違えられたら困る」


 エルフリートがあまりにも女らしく動く為、遠目だと変な風に見える。エルフリーデの忠告はそれを見越しての事のようだ。


「それにしても二人の仮装はすごいな」


 コンセプトなしで、それっぽい色合いを着ただけのロスヴィータとは大違いだ。


「ロスだって、昨日王子様の仮装でもすれば良かったのに。昨日の私は妖精さんだったんだよ?」

「はは、私が王子様の仮装をしたら()()()()()()になってしまう。この祭りにはふさわしくないだろう」

「確かに」


 ロスヴィータが肩をすくめてみせれば、エルフリートとエルフリーデが笑うのだった。

2024.7.21 一部加筆修正

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