表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
大忙しの記念祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/81

2

 賑やかな一日は軽やかに過ぎていく。迷子や拾得物もあったが、それ以上に挨拶などの声かけをもらう事も多かった。……ああ、あと喧嘩もあったか。ロスヴィータは隣でにこやかに対応をしている男を盗み見た。どこからどう見ても、女性にしか見えない。

 たれ目に平行している眉が短いせいで、おっとりとして見える素材もさることながら化粧と表情がすばらしい。うっすうらと丁寧に目の輪郭がなぞられ、ぱっちりとした目元に見えるよう工夫もされている。


 行事を意識してか、瞼にはきらきらと輝く粉まで塗られている。金色の粉は格別に目立ちはしないが、瞬きなどの些細な動作で軽やかな艶を見せる。知る人が見れば、大傑作だと分かるだろう。

 それに、仕草一つとっても女性そのものだ。ロスヴィータが気を使わなければできない所作を、ほとんど無意識でやっていると言うのだから舌を巻いてしまう。


「サンローゼはちょっと見えにくいですが、あそこにある花屋のすぐそばです」

「ありがとうございます!」

「明日も存分に楽しんでくださいね」


 ロスヴィータがエルフリートを眺めている内に、彼はにこやかに手を振って相手を見送りまでしていた。


「どんな問い合わせもお手の物だな」

「えへへ、任せてっ」


 ぐっと拳を握って意志の強さを示す彼の頭に手が乗せられた。


「言葉遣い」

「フェーデ」

「えっ、フェー……お兄さま?」


 ロスヴィータが数回瞬きをすると、エルフリーデがロスヴィータに柔らかな笑みを向ける。細い三つ編みをいくつか作り、その三つ編みごと髪を一つにくくっている。

 普段よりも高い位置でまとめられた髪には、赤や緑といった極彩色に染められた羽根が飾られていた。

 階級乱れるこの祭用に合わせられたデザインのロングコート――しかし生地は一目で良品だと分かる――から、華やかな色合いのジャケットが覗いている。


「人の上に立つのだからそれ相応の言動を、と常日頃から口を酸っぱくしてきたつもりだったのだけれど」

「他の人がいる時は違うもん」

「癖が出る。気をつけなさい」


 視線をちらりと向け、そして諦めたようにため息を吐く。エルフリートもそうだが、エルフリーデも本来の性別を感じさせない完璧ぶりである。ロスヴィータは努力をして男らしさを演出しているエルフリーデをじっくりと観察した。

 彼女の場合、薄化粧に一工夫でたれ目とたれ眉を表現している。少し顔の彫りを深く見せるようにシャドーを入れていた。そして立ち姿。

 視線の動かし方だって、エルフリーデとしてロスヴィータの前に現れる時と違っている。


「ロス、変わりはないかい?」

「あぁ」


 ほんの少しだけ頭の位置が高くなっている彼女を見上げると、前髪を指先で整えられた。その仕草だって女性っぽさを全く感じさせない。


「最近は手紙でのやり取りが多かったからね。直接話ができて嬉しいよ」


 彼女の声は女性にしては低め、男性の中では高めに感じるが中性的で落ち着いている。エルフリートの地声よりはやはり少々高いものの、違和感がない。

 ふわりと香る香水は元々エルフリートが使っているものらしく、目の前にいるのがエルフリーデだと分かっていても照れくさい。


「明日は二人で少し街を歩こう。有事の際以外は一応自由に過ごして良いのだと聞いたよ」

「え、あぁ……そうだな」


 ロスヴィータの視線の端に、どことなく不満そうな顔をしているエルフリートが見える。照れくさく感じていた気分が吹き飛んでいく。


「仕事の邪魔はしたくないからこれで。詳細は後で連絡するよ」

「分かった。待っている」


 エルフリーデはロスヴィータと頷き合うと背を向けた。通り過ぎ際にエルフリートの頭をひと撫でしていくあたり、本当に兄のようだ。

 人混みに紛れる寸前、エルフリーデに話しかけるレオンハルトが見えた。どこが、とは表現できないが違和感を覚えた彼女はそれをじっと見つめ続けた。


「ロス、どうしたの?」

「……あぁ、いや。レオンがフェーデに話しかけているみたいだったから」


 いつまでも偽物の婚約者をぼうっと眺めているのが気になったのだろう。エルフリートの声には怪訝そうな色が含まれていた。

 既に見えなくなった二人の残像を眺めるようにしているロスヴィータの視界にエルフリートが割り込んできた。


「だって、親友だもの。今日は一緒に過ごすんじゃないかなぁー」


 きらきらと輝くアメジストを見ると、気になっていた事もどうでもよく感じてしまう。


「そうか、そうだよな……」

「あっ、エイミーがいる!」


 突然の話題転換に驚きつつも言葉に反応して体をひねると、確かにエイミーがいた。彼女もエルフリートの声が聞こえたのか、気がついたらしくこちらへ向かって歩き始めた。

 エイミーの活発な性格を表すように、ぴんと伸ばされたフリルや太めのリボンがアクセントになっている。寒くはないのだろうかと不安になりそうな膝丈のフリルスカートは深紅。ジャケットはネイビーに染められた牛革のショートジャケットだ。


「お疲れ様です!」


 元気な声で挨拶をする彼女の頬は、寒さのせいか赤らんでいた。

2024.7.21 一部加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ