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女性騎士団、ブライス隊、アントニオ隊、それぞれの隊用に設けられた陣地にボールを運び入れ、その数を競うという訓練の最中。思いの外、大健闘しているのはエイミーである。
エルフリートはブライス隊に翻弄されながら、自分の置かれている状況に戦慄していた。
「わぁっ、ちょ……とぉっ!!」
「フリーデ覚悟しろよ!」
隊の人数が違うからとブライス隊とアントニオ隊それぞれ数人ずつ女性騎士団へ充填しようかという提案を断った事を、早速エルフリートは後悔していた。
人数の比率を補う為、女性騎士団員は戦線離脱の条件がなくなり、欠員が発生する事はなくなった。女性騎士団員の人数はそのままに、徐々に二つの隊の人数が減っている最中である。
だが、それにしてもエルフリートに張り付いている人数がおかしい。どう考えても一対多数になるのは必至だったのだが、エルフリートにはブライス隊のほとんどが張り付いてきたのである。
「ひゃぁっ」
氷上での動きを自分のものとする為、エルフリートは己に魔法を使わない事を誓わせていた。頼りになるのは己の身体能力と培ってきた戦闘経験だけである。
ブライスがこうしてきたのは、能力底上げを手伝おうっていう厚意だと分かるけど、きっつい!
雪崩のように襲いかかってくるかれらの手を避ける為、姿勢を低くして急回転する。長い三つ編みが誰かに当たったらしく「いてっ!?」という悲鳴がいくつか聞こえた。
「フリーデ、パスを!」
「ロス!」
回転した時の勢いを使い、結構な距離にいるロスヴィータへとボールを投げる。割り込んで奪おうとしていたアントニオを、予測していたらしいマロリーが阻止する。
「ロスを追えっ」
ブライスの号令に周囲の騎士が向きを変えた。ガードが緩くなるのは大賛成だけど、そっちは賛成できない!
「行かせな――」
「はい、気を抜いた方が負け」
「わ、わわ……ったぁい」
彼らを先回りして乱闘に持ち込ませようと足を出したとたん、エルフリートの体が中に浮いた。突き出された騎士の足が見え、自分が足をかけられたのだと理解した時には手をついていた。
じんじんとする手のひらに力を込め、立ち上がる。
「今のお前は自分の事だけ考えていた方が良いぜ。フリーデ」
「……うん。そうみたいね」
敵対しているはずのブライスが足を滑らせてよろけたフリーデを支えてくれた。ひっそりと息を吐くと、彼は笑う気配を残して離れていく。
「ロスの立ち回りを見ろ。フリーデが心配するような事か?」
「ううん」
「だろ。信じてやれ。あとフリーデもあれくらいできて当たり前のはずだ。人の心配する前に自分の事をどうにかするべきだ」
ぽんぽん、とあやすように頭を撫でた彼は、さあ再開だと険しい声を出した。
気を取り直して陣地に滑り出す。併走するように追ってくるブライス隊。人員をエルフリートに割きすぎではないかと余計な心配をする余裕はなかった。
ロスヴィータにアントニオ隊が追いつく。そこに合流して彼らの妨害をし始めるルッカとバルティルデ。マロリーは少し離れたところでその様子を見守っている。
もちろん彼女がパスを受ける可能性を鑑みてアントニオが単独で張りついている。
先ほどロスヴィータがボールを受け取るのを阻止したから、その分を取り戻そうと思っているのかもしれない。
この演習にある反則は一つ。敵の隊に魔法を行使しない。これだけである。魔法は自隊への付与魔法だけが許されているという感覚である。
魔法で作り出した何かが敵の隊と接触したらだめなんだって。そうなると付与魔法以外のほとんどの魔法が使えない。
「――賢き神よ、我に俊足を」
一気に距離を取ってロスのボールを回収、その動きを読むはずのマロリーにパス。これで行こう。そう考えたエルフリートは一気に加速した。
「うひゃあぁぁぁ!?」
ああっ、想像力の敗北だっ! 今の自分が普段よりも移動速度が速いのを忘れてた!
普段通りの感覚で自分に加速の補助魔法を付与してしまったエルフリートは、文字通りブライス隊の視界から悲鳴を残して消えた。
驚きと動揺で、いつも以上に視界が悪い。エルフリートはとにかくこの状況から離脱するべく、つま先の向きを修正してスケートブレードの角度を変えた。
「駄目だ!」
エルフリートのしようとしている事に唯一気がついたブライスが制止の声を叫ぶ。が、既に遅い。
「なぁっ!?」
急ブレーキが効くはずだった彼の体は勢いを殺す事ができず、かといってそのまま滑り続ける事もできず。中途半端な体勢であった事も相まって、上半身のバランスを崩させたまま氷上から足が離れていった。
「ちぃっ」
氷上に弾き飛ばされるようにして虚空へと身を任せる事になってしまったエルフリートは、氷上にたたきつけられる事を覚悟した。
その瞬間、エルフリートの見開いた目に何かが飛び込んできた。
2024.7.19 一部加筆修正




