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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
氷上の妖精と王子様

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48/81

6

 合流して始まった訓練は、ある意味エイミーから目を離せない状況になった。彼女はやらかすが、それ以上に強かった。というのも、エイミーの予測できない動きに騎士たちが翻弄されていたせいである。

 エルフリートはエイミーが怪我をしたりするのではないかと心配だったが、さすがにこれは予想もしていなかった。


「き、きたっ!」

「やれ、向かい討て!」

「げ、こっちかよ!?」


 一人での立ち回りを覚える為、一対一での訓練と隊ごとに分かれての演習の合間に一対多数の訓練をする事になり、今はエイミーがそれをしているのだが。

 訓練内容は単純だ。追っ手を交い潜り、あわよくば撃退し、目標に到達する。それだけだ。


 エイミー自身は追っ手役から逃げているだけのつもりのようだが、なかなかうまく敵を攪乱していた。

 まっすぐに滑り続ける事ができず、不規則で急な方向転換をする。当人がそれを故意にやっているのであれば相当な手練れになれるだろう。エイミーの予備動作なしにやりとげる動きを見ながらエルフリートは思った。

 彼女の顔は驚きと戸惑いに染まったままだから、絶対に偶然なんだろうけど。あれはすごいなぁ……あ、追っ手役が転倒した。あの二人は離脱だね。これで追っ手の半分を撃退かぁ。

 なかなかの好成績である。


 エルフリートはひきつりそうになる口元を隠しているマロリーを見て笑う。隣のロスヴィータは信じられないものを見ているといった表情でエイミーに釘付けだし、バルティルデは大笑いしている。

 ルッカはこの展開に耐えきれなくなったのか、小さく頭を振って眉間のあたりをぐりぐりと指で押している。かく言うエルフリート自身、なんとも言えない脱力した顔をしていた。


「これ、敵にも味方にもいてほしくないねぇ……」

「単独任務なら、何とか」


バルティルデが笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭いながら言えば、ロスヴィータが庇う。


「でも運任せみたいになるわよ」

「必要なら私が代わりに出ますから、勘弁してやってください」


 散々な言いようだが、仕方がない。うなるように言うルッカの声には苦労人の雰囲気がにじんでいた。

 エルフリートが四人のやりとりに笑っている内にエイミーが目標に到達する。気がついた女性騎士団全員が拍手を送る。


「エイミー、すごいじゃないか」

「動きはあれだけど、成績は良いよ!」


 ツートップが絶妙な誉め言葉を投げると、彼女はふにゃりと眉をゆるめた。


「ふふ、この後の団体戦、近寄らないから好きに動きなよ。良い働きっぷりを見せてくれ」

「え、それって動きが読めないから遠くにいてくれって事じゃ――」

「エイミー、深く考えちゃいけない」


 バルティルデのざっくりとした発言に動揺しそうになったエイミーをルッカが阻止した。一番辛口になりがちなマロリーは口を閉ざしたままである。

 多分、彼女の場合は口を開いたらエイミーが傷つくような事を言ってしまいそうだからなんだよねぇ……何を言ったらまずいかの判断は苦手なのに、ふふ。

「……私が何か?」

「ううん、何でもない。団体戦はどんな風になるかなって」

 視線に気がついたマロリーがじっとりとした視線を向けてくる。エルフリートは咄嗟にごまかした。真面目で優しいからこそ、厳しい事を口にしてしまうのだと分かっている。


「マリン」

「何」

「期待してるよ」

「当たり前でしょう」


 全部飲み込み、代わりに期待を乗せれば彼女は笑った。肩の力が抜けた、とても自然な笑い方にエルフリートは驚いてしまう。こんな笑い方ができるなんて知らなかった。


「えへへ、がんばろうね」

「妖精らしく動きなさいよ。道化みたいに動いたら後で見てなさい」

「うわぁ、手厳しそうー」


 すぐに自然な笑いは消え、いつもと同じ皮肉の込められた笑みに変わってしまった。ちょっと残念だけど、こっちの方が見慣れていて安心する。


 エルフリートは集合しつつある騎士たちの気配を感じてロスヴィータを見やる。彼女は口元に笑みを作りつつ――目元は少々厳しいがエイミーならば気がつかないだろう――エイミーに細かく動きを指示しているところだった。


「良いな。とにかく敵を錯乱させる事を目的とするんだ。無理して我々と同じ動きをしようとしないで良い。

 味方が付近に現れたらなるべく動かないようにしろ」

「はい」

「他の味方が厳しい状況の時も、気にするな」

「えっ」


 エイミーが不思議そうな顔をしているのを見てロスヴィータが破顔する。


「あなたにしてもらいたいのは、少しでも敵の数を減らす事だ。一対多数の時の動きがあれば十分にできる。あれは故意にできる事じゃない。

 だから、敵の密集しているところにつっこむのは良いが、味方を助けには行かなくて良いという事だよ」

「……」

「ひたすら動き続けなさい。それが今のあなたが作り出せる価値だ」


 ロスヴィータはエイミーの頭を撫で、額を重ねた。


「役割分担だから。任せたよ」

「はい……っ!」


 二人が額を離すと、エイミーの瞳に気合いが込められているのが見えた。

 よぉっし、私もがんばるぞっ! エルフリートの気合いが空回るとは、この時は誰も考えもしなかったのだった。

2024.7.19 一部加筆修正

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