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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
氷上の妖精と王子様

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46/81

4

 ブライスの指導で立ち上がり滑り始めたエルフリートは何度か転倒しつつ、すぐに感覚を掴んだ。一方エイミーはバルティルデとロスヴィータに支えられてよろよろとしながら何とか立っている状態である。


「フリーデはもう大丈夫そうだな」

「うん。ありがとう」


 よぉし、と声を上げた彼は突然エルフリートを抱え上げた。そしてひらりと半回転して下ろす。それはどこかダンスを踊っているかのようで、最初は驚いていたエルフリートも次第に慣れていく。


「着氷の感じは何となく分かるか?」

「多分」

「これを覚えておけば動きの幅が増えるし戦いやすくなる」


 両手を繋ぎ合わせて向かいあい、ターンするタイミングでブライスに振り上げられる。足がふわりと浮かび、着氷する。時折バランスを崩して不安定になるも、彼がしっかりと手を引いてくれる為、転倒は防げている。

 ブライスの指導は、とても的確であった。


「後は模擬戦を繰り返して慣れていくのが良いな。フリーデの場合は型を練習し続けるよりも実践の方がすぐに身につくだろうよ」

「ありがとう、助かったよ」


 感謝の意味を込めて笑顔を送れば、ブライスは目を細めた。


「実践も手伝ってやりたいが、俺も少しは部下の面倒を見てやんねぇとな。混ざるなら大歓迎だぜ」

「後でマリンたちと一緒に合流するよ。まずはあっち(エイミー)を何とかしなきゃ」


 エイミーの方を向くと、彼女が指導する二人を巻き込んで転倒したところだった。重心移動が苦手なエイミーには、雪も氷も同じく天敵のようだ。

 ブライスは得心したように頷き、待ってると言いながらエルフリートの方をぽんとたたいた。


「大丈夫?」


 慣れた様子でやってきたエルフリートに三人が驚きの目を向ける。確かに最初のアレは本当に酷かったもんね。恥ずかしさを感じながら笑顔を見せれば、指導者二人がはっとして口を開く。


「立つだけならできるよ」

「だが、不動だ。少しでも動けば崩れる」


 うぅん、重心の取り方が下手なのが尾を引いてるのかぁ。エイミーをうまく導く事ができないのを不甲斐なく感じているようで、二人とも表情が暗い。

 エイミーの指導が難しいのはエルフリートも身を持って知っている為、あまり責める気にはなれない。そもそも責める気もないけどね。


「正しい姿勢をとるところから始めようか」


 そうしてエルフリートがブライスの指導を参考にした指導が始まるのだった。




 エイミーが嬉しそうに騒ぐ傍らをバルティルデが見守るように滑る。時間はかかったが、どうにか彼女は最低限滑る事ができるようになっていた。

 エルフリートとロスヴィータはその様子を眺めている。エイミーたちの姿越しには不慣れながらも熱心に模擬戦をしているマロリーとルッカが見える。


「……ブライスに連れさらわれた時は心配した」

「私もすごくびっくりしたよ」


 ロスヴィータがぽつりと口にしたのはエイミーの話題ではなかった。エルフリートはブライスの件を言及されるとは思わず、ロスヴィータに向き直った。


「ブライスはとても丁寧に教えてくれたんだぁ」

「とても似合いの二人に見えた」

「う、うん?」


 彼女の眉間には珍しく皺が寄せられている。もしかして、嫉妬してくれてる、のかな。エルフリートは期待でどきどきと心臓が跳ねた。


「ブライスは、あなたに気があるのでは?」

「えっ?」

 思いも寄らない展開にエルフリートの脳内は疑問符に占領される。

「あんなに優しい表情の彼を見た事がない」


 ロスヴィータの視線はエイミーに向けられたままで、こちらを見る予兆はない。

 エルフリートはそれを少し寂しく思いながら、彼女が何を伝えようとしているのか、辛抱強く待った。


「本当は、私があなたにスケートを教えるつもりだったんだ。なのに……連れさらわれてしまった。私より、ブライスの方が良いか?」

「えっと、彼とロスを比較するべくもないんだけど……私の一番はいつだってロスだよ」


 嫉妬というには、どこか投げやりというか、無気力? エルフリートは内心で首を傾げた。


「フリーデが、ブライスに奪われるかと思った」

「あり得ないでしょ。それはロスが一番分かってると思うけど?」


 エルフリートのそれよりも凛々しく引き締まった顔立ちの彼女を見つめる。エルフリートには、同性愛の嗜好はない。いつだってこの気持ちはロスヴィータに向かっているというのに。

 いや、ロスヴィータが男だったとしても関係ない。エルフリートは彼女の顔も確かに好きだが、それ以上に性格も考え方も好きなのだ。


「中も外も、どっちもロスが一番だよ。ロスの為なら何だってできる。不可能だって可能にしてみせる。それが一生かかったって構わないの。私の人生があなたなんだから」


 勝手に口から溢れ出していく言葉はすべて本音である。


「ま、待て。もう良い。もう分かったから黙ってくれるか」


 見つめる横顔が赤みを帯びていく。焦ったような声を心地よく感じながら見た彼女の耳は、すっかり紅葉してしまっていた。

2024.7.15 一部加筆修正

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