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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
氷上の妖精と王子様

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45/81

3

 剣を向けてブライスと向き合ったエルフリートは一気に距離を詰めた。長身で筋力も上の相手と長く切り結ぶのは得策ではない。スピードの勝負に出たのである。


「なんだよ、余裕じゃねぇか」

「そっちこそ」


 足場の悪い雪の中やぬかるみといった山奥の様々な自然環境で獲物と命のやりとりをしていたエルフリートからすれば、氷上は普段よりも足元に気をつけなければいけない程度の認識であった。

 だが、一方のブライスはブライスで氷上での対人戦闘に慣れていた。フェイントを入れる余裕すらある。エルフリートは持ち前の反射速度の速さを生かしてフェイントにひっかかりつつも避ける。


 フェイントを察するも、それごと避けてしまった方が楽だというのもある。幸運な事に、氷上では足を滑らせやすい。体力の消耗を控えつつ避けるには足への力の込め方を変えれば良い。

 踏み込んだ方向に体重を逃がせば、すうっと滑る。環境を活かした動きができるのがエルフリートの売りである。


「ちっ、素早い奴め」


 彼のあからさまな舌打ちは挑発だ。エルフリートは逆に笑顔を作ってやった。


「靴なら動けるって言ったでしょう」

「たまに口だけの奴がいっからなぁーっとあぶね」


 エルフリートの横一線を背後に飛ぶようにして避けたブライスがにやりと笑う。


「よし、けがする前にやめるか」

「……もう」


 スケート靴での訓練が目的だ。模擬戦の決着がつかないのは気になるが、もう少し長引けばエルフリートが競り負けていたという予想はつく。

 すぐに決着がつかなかった時点で、半分以上エルフリートの負けは見えていた。

 負ける姿をロスヴィータに晒すよりはマシか、とため息混じりに頷いたのだった。


 この訓練場のいい点は氷が割れてもその下は地面だという点だ。氷を厚めに張ってあるとはいえ、ひびの入ってしまっていたそこを直してからスケート靴での訓練は始まった。

 正確に言えばエルフリートとロスヴィータ、エイミーとバルティルデ以外は、だが。


「ひゃんっ」


 氷上に一歩踏み出した途端、エルフリートはひっくり返った。あまりにも早すぎる転倒にロスヴィータも動けず、ただその姿を目を丸くして見つめている。

 エイミーは安心したような顔で同じように一歩を踏み出し、そのまま倒れる。こちらはまったくの無言である。何が起きたのかも認識できていなかったであろう彼女は、近くにいたバルティルデを巻き込んでいた。


「気配のない転び方だな。それで急襲されたらひとたまりもないや」

「す、すみませんっ」


 何とか受け身を取って倒れ込んだバルティルデに抱きしめられるようにして庇われたエイミーは今にも泣きそうな声で謝っている。


「フリーデ……」

「だ、だから初めてなんだってばぁー!」


 尻餅からどうにか立ち上がろうとするも、まったくうまくいかない。両手をつき、膝を立てても腰が上がる前に足が滑ってしまう。

 スケートの刃に気をつけながら四つん這いになり、片膝を曲げて力を入れた瞬間、足が滑って開脚に。こちらは股関節が柔らかくなかったら大惨事だった。

 エルフリートのそんな奮闘をロスヴィータはただ見守っている。おそらく助けを求めればすぐにでも手伝ってくれるだろう。だが、エルフリートはそこまで気が回らなかった。

 早く立ち上がらねばと気が急くあまり、そんな簡単な事が思いつかなかったのである。


「お嬢ちゃん、大丈夫か?」


 すうっとエルフリートのすぐ側に優雅に滑り込んできたブライスが覗き込んでくる。その瞳にはからかいは含まれておらず、ただ単純に心配するだけが浮かんでいる。


「本当に初めてだったんだなぁ。ほら、掴まれよ」

「うん」


 差し出された手のひらに手を添えれば、ぐっと力強く引き寄せられた。そのままブライスの胸元に飛び込む。


「ほら、立てた――って、立ててねぇな」

「ちょっと!」

「ブライス!」


 至近距離で見つめられ、エルフリートはどきりとした。

 ――近すぎるよ!?

 離れようとするも、腰がしっかりとホールドされてしまっていて全く動かない上、ブライスの指摘通りエルフリートの足元はつるつると氷上を滑っている。

 よくブライスはエルフリートを余裕で支え続けられるものだ。

 こんな状態で手を離されたら再び氷と仲良くなるのは必至だった。エルフリートの動揺がロスヴィータにも伝わっていたが、ブライスはどこ吹く風である。


「フリーデ、落ち着け。んで、俺に抱きついたままで良いからゆっくりかかとを合わせてつま先を開くんだ」


 言われる通りにすると、ふらふらと不安定ながらも足が滑らなくなった。


「腰が引けてるから、姿勢を正していくぞ。ちゃんと支えてるから焦らなくて良い。

 靴を履いて模擬戦をしただろ。あの時みたいに重心が中心になるようにして……そんな感じ」


 エルフリートが姿勢を整えやすいように自分の胸に手をあてさせ、片手を握って杖代わりになるなどブライスは意外にも優しい。

 エルフリートは自分の女装がばれるかもしれない危機を感じながら、氷上で立つ事に成功するのだった。

2024.7.15 一部加筆修正

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