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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
強力な魔法の秘密

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1

 アララット山から撤退を余儀なくされた騎士団は撤退途中に襲いかかってきた氷兎を何とか捕まえ、王都まで戻ってきた。

 最初に遭遇した氷兎よりも一回りほど小さいそれは、エルフリートの枯渇した魔力が安定するまでマロリーとルッカなど魔法騎士が炎牢の管理を行った結果、何とか運ぶ事ができたのである。

 氷兎の輸送に貢献したのは、意外にもルッカの魔法具である。彼女はこれでもかというくらいに自作の魔法具を持ち歩いており、その中に炎属性強化や魔法持続時間延長といった便利なものがあったのだ。

 魔法具を使ってだましだまし炎牢と氷塊を維持し、王都に氷兎を運び入れ報告を上げた隊長格の五人は、総団長からの労いの言葉を受け取ったのだった。


「いやぁ、良い迷惑だったぜ」

「……騎士団は王族には逆らえない。従うしかないからな」


 ブライスの堂々とした物言いに、意外にも同意するアントニオ。ロスヴィータはその末端に自分が含まれている為、何とも言えない気持ちになった。


「親戚がすまなかった。個人的にはあれが身内だとは思いたくないんだが……」


 氷兎は、王族のわがままで急遽作られた訓練内容だったのだとさきほど知らされたばかりである。それも、ロスヴィータにとってあまり名前を口にするのも嫌な相手であった。


「ロスは被害者だろ。気にすんなって。それよりフリーデは大丈夫なのか?」

「ああ、彼女はしばらく安静を言い渡されているからおとなしくしているはずだ。本人は復帰したがっていたがな」


 エルフリートは魔力の枯渇でほとんど歩けない状態だった。それを体力自慢の騎士が交代で背負って下山したのだ。

 彼を他の男の手に任せるのは非常に不本意だが、雪山からの下山全行程を背負っていくのはロスヴィータには無理な話だった。

 ほとんど気を失うように眠り、起きていてもふらふらとしている彼の姿を見るのは辛かった。このまま衰弱してしまうのではないかとロスヴィータは何度も不安になったものだ。

 そんな不安など知らぬ彼は、起きている時間が長くなるやいなや、炎牢の強化を施した。あれもまた倒れやしないかとはらはらとした。 「これで王都まで安心だね」と笑いながらくたりと身を任せてきた時には、無理をするなと怒鳴りつけたかった。


「あのお嬢、やせ我慢しすぎだろ。俺ならできないね」

「確かに訓練所に帰還するなり倒れたのは驚いた」

「ロスの王子様っぷりで吹き飛んだけどな」


 エルフリートはロスヴィータが懸念していた道中の無理が祟って、気を抜くなり倒れてしまった。

 いつそうなるかと気にしていたロスヴィータは、うまく彼を抱き留める事に成功し、そのまま抱き上げて医務室へと駆け込んだのだった。

 流れるような動作で成し遂げたそれは、ロスヴィータとしては当然の事だった。


「いつかああなるという予測がついていたからできただけだ。証拠にレオンも腕を伸ばしていただろう。私の方が早かったが」

「そう言われてみりゃ確かにな」

「もう少し俊敏に動けるよう彼には指導しておく」

「いや、別に構わないだろう?」


 ロスヴィータはレオンハルトが上司にしごかれる姿を想像し、そこまでする必要はないのではと笑う。

 ブライスは渋面をするアントニオを見てにやりと口元を歪ませている。


「このままでは女性騎士団に仕事を全部持って行かれてしまいそうだ」


 唸るような彼の声は本当にそう思っているかのようだ。


「よく言うぜ」

「俺は真剣だ」


 冷やかすブライスを睨んでみせるアントニオがおもしろい。ロスヴィータは笑いながらそれに加わった。


「私はそのつもりで騎士団を育てるつもりだぞ」

「ほら見ろ、彼女たちは俺たちを乗っ取るつもりだ」


 アントニオってこんな性格をしていたのか、と新しい一面を見つけた気分になる。落ち着いた大人というイメージがあったが、意外にも子供じみた部分もあるようだ。


「俺はロスの下なら喜んで行くけどなぁー。王子様かっこいいもん」

「裏切り者め」

「んじゃ、俺たちは訓練所に行くわ。フリーデによろしくな、ロス」


 くく、と笑うブライスはロスヴィータにウィンクを送り――見かけに寄らず上手だった――アントニオの肩に絡みついて手を振ってくる。


「おい、裏切り者のくせにくっつくな!」

「良いだろ。俺たち同期じゃねぇか」


 本気の喧嘩に発展しそうなくらいにアントニオが絡みついたブライスを引っ剥がす。


「ロス、お前も疲れてるはずだから無理するなよ」

「ああ。ありがとう」


 再度絡みつこうとするブライスの腕を避けながら彼は声をかけてくる。俊敏な攻防を見ていたい気もしたが、エルフリートの様子を見に行く方が大切だ。

 ロスヴィータは手を上げて挨拶を送り、彼らに背を向けた。


「フリーデ、起きているか?」


 ノックと声かけをすると、すぐに返事が聞こえた。入るぞ、と断りを入れて扉を開けると彼は飲み物をカップに注いでいる最中だった。どうりで返事が早いわけだと納得する。


「体はどうだ」

「完全じゃないけど、部屋での生活は問題ないよ」


 フリルの付いたかわいらしい部屋着を来た彼は、小さく微笑みながらカップを増やす。ロスヴィータはその気持ちをありがたく受け取る事にしてソファに座った。


「さて、今回こうなった原因を教えてもらおうか」


 ロスヴィータがそう切り出すと、今度は困ったような表情へと変わる。だが、そこで諦めるつもりはない。ロスヴィータは彼が言う気になるまで動かないつもりでじっと見つめるのだった。

2024.7.15 一部加筆修正

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