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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
雪山は危険がいっぱい

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39/81

8

 エルフリートはロスヴィータや他の騎士が誘導し始めると炎牢とその先に見える雪煙を睨んだ。やる事は決まっている。逃げられない騎士を守り抜く事だ。

 ロスヴィータは落ち着いて見えるその姿を、誘導しながら確認していた。


「猛き女神、熊の女王、勇敢なる我らを守りたまえ。賢神よ、熾せし炎に更なる力を与えたまえ。我が命を燃やす篝火よ、神々への贄となせ」


 彼の声は雪崩の地響きと轟音でかき消された。エルフリートの周囲に光が現れ始めた。柔らかな光は彼からにじみ出ているようにも見える。

 晴天の中、ごうごうと燃える炎牢に照らされ、さらに輝きを増すエルフリートは妖精どころか神々しく見える。


 エルフリートのしようとしている事を察した騎士たちは、雪崩から隠れるようにして炎牢の後ろに集まっていた。

 緊急な時ほど時の流れが緩やかに感じる。ロスヴィータは美しい男が魔法を行使する姿ごしに雪崩を見た。

 雪崩が炎牢と衝突する寸前、炎牢が青い炎の火柱へと変化した。近くでマロリーが何かを叫ぶ。それは多分エルフリートへの加勢の魔法だっただろう。

 叫びも何もかも、すべて轟音にかき消される。それだけにこの雪崩の恐ろしさを実感する。

 火柱になった炎牢で溶かされ、それでも勢いの止まらない雪がその水を再び凍りつかせ、炎牢を囲っていく。


 炎牢の後ろにいるロスヴィータたちの方へ砂の城が崩れるように雪や水が流れて落ちてくる。それを一緒にいた魔法剣士やルッカが炎の魔法で防いでいる状態で、魔法の使えないロスヴィータを始めとした騎士は彼らに囲まれただ待つしかなかった。

 おそらくそんなに長い時間ではなかった雪崩の勢いが落ち着いた頃、周囲は雪とも氷ともつかない壁に囲まれていた。エルフリートの作り出した火柱のおかげで空が見えているのが唯一の救いである。

 振動を感じられなくなってから、エルフリートは周囲の状況をゆっくりと確認してようやく火柱を収めた。

 当然の事ながら氷兎は跡形もなくなっていて、火柱のあった場所だけ地面が見える大穴が開いている。


「フリーデ」

「とりあえず、これで、一安心」


 へなへなと座り込んだ彼は、長い息を吐いた。ロスヴィータが慌てて近寄れば、以前に屋敷の崩壊から助けてもらった時以上に顔色が悪い。


「おい、大丈夫か?」

「ん」


 反応も鈍い。ロスヴィータは背中に触れ、自分の方へ抱き寄せた。一瞬抵抗したものの、くたりと身を預けてくる様子にロスヴィータは眉を寄せる。


「マリン来てくれ!」


 ロスヴィータとエルフリートの様子に気付いたバルティルデが代理で騎士と連携をとる中、マロリーがエルフリートの様子を見て顔色を変えた。


「ロス、これは誰にもどうもできないわ。とにかくそのまま安静にさせて回復するのを待つしかない」

「なんだと?」

「誘拐未遂事件よりも、力を使ったって事よ。緊急時の今はそれしか言えないわ」


 まるで今事情を聞いたら何かが起きるかのような言い方だ。ロスヴィータは嫌な予感に口を結んだ。


「という事で、私はここからの脱出に専念するから二人はそのまま待機してて」


 そう言うなりマロリーは背を向けてしまう。ロスヴィータは自分の胸に身を預ける彼を抱きしめる腕に力を込めた。




 魔法が使える騎士が順番に氷塊と化した雪崩を階段状に削っていく事になり、順調に作業が進んでいた。雪兎を二羽重ねても埋もれてしまうくらいの高さのある氷塊を削って上まで行き着くには、相当の時間がかかりそうだ。

 慣れた人間であれば、この氷にピッケルを突き立てて登っていく事も可能だろうが、そんな人間はほとんどいない。いちばん可能性のあるエルフリートがダウンしている今、危険を冒してまでショートカットしようという提案は全く上がらなかった。


 地道な作業だが、やっている事自体は難しくない。魔法は使えても魔法剣士と名乗るほどではない人間まで作業に加わっている。

 幸運な事に、ここに閉じこめられているメンバーは魔法が使える騎士が多かった。

 エルフリートは力なくロスヴィータに身を預けたまま軽く目を閉じている。こんなにもの長い時間、彼がぐったりとしている姿を見た事があっただろうか。


 ロスヴィータは彼を見つめながら今までの事を思い返していた。感極まって気絶したりはあったが、力の使いすぎで倒れるのはなかったはずだ。そう思えば、この状態は非常事態なのではないかと不安がこみ上げてくる。

 このまま安静にしていれば良いと言われてしまった手前、ロスヴィータがどんなに不安だろうがエルフリートに声をかけたりといった何らかの行動を起こす事はできない。

 そんな不安の中、上空から声が降ってきた。


「無事だったか!」

「うはぁ、すげぇなこりゃ」


 珍しく声を張り上げているアントニオとマイペースを崩さないブライスである。二人の顔を見た瞬間、緊張や不安がほどけていくのを感じた。


「フリーデが魔力切れで倒れているがここに逃げ込んできた騎士は無事だ! そっちは?」

「これはフリーデ渾身の魔法の賜物か。さすがだぜ。

 俺たちはだな……どこに逃げたか分からない奴を捜すより炎牢という目印を探した方が合流が早いと思って来ちまった」


 残りの騎士全員がこの上にいるわけではないらしい。ロスヴィータは状況を把握すると気を引き締め直し、脱出の手助けを頼むのだった。

2024.7.15 一部加筆修正

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