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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
雪山は危険がいっぱい

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6

 ロエーロの指示で作ったのはくくり罠であった。くくり罠の仕組みは簡単で、魔獣をよく捕獲するブライスの隊でもなじみのある道具である。

 小屋の中にある備品で作る事ができるのがそれくらいだった、というのもある。

 縄で輪を作り、その輪が締まらないように軽く固定する。それを罠として仕掛けておく。輪の中を獲物が踏み抜く瞬間を狙って縄を引っ張れば、獲物の足がくくりつけられるという寸法だ。


 くくり罠に引っ張られて勢いを失ったところで投げ縄を投擲して完全に捕縛する事になる。それにはまず、おびき寄せるところからとなるが。

 雪山での狩りは難易度が上がるから、通常であれば遠距離から弓や魔法で狙うのが簡単らしい。だが生け捕りが目的である為、くくり罠まで誘導するにしてもその手は使えない。


「氷兎をおびき寄せるのはどうするの?」


 補助魔法で強化した縄で作ったくくり縄と投げ縄の確認をするフライス達から視線を外したエノテーカが小さく笑った。


「氷兎はひどい悪食でね。人間が集まっていたら勝手に寄ってくるぞ」

「つまり、だ。おとりは俺たち自身だ」


 何という事だ。ロスヴィータは思わず半笑いをしてしまった。新人の魔獣退治自体が初めてな数人が引いているのも納得だ。中には青い顔をしているのもいる。


「まあ、手軽で良かったという事にしておこう」

「人間の肉が好きなら簡単に罠にはめられそうだね」

「何人かをおとりとして罠の近くにいてもらい、残りは捕縛に専念だな」


 おとりは肝の据わったメンバーが良い。後は弱そうに見える者だろうか。アントニオのようながたいの良い人間は避けた方が良いかもしれない。


「フリーデ、君は慣れているだろうからおとりになってくれるとありがたい」

「あ、うん。良いよぉー」

 気軽に返事をしてみせれは、ロエーロは頷いている。

「ああ、あとレオンも慣れているか。お前もおとりな」

「分かったよ」

 指名されたレオンハルトが罠から手を離してエルフリートの隣に立った。




 罠を仕掛けて数時間。エルフリートとレオンハルト、マロリーは罠の近くで氷兎が現れるのをじっと待った。待っているだけ、というのは存外つまらないものだ。

 ロスヴィータは捕縛用の投げ縄を手にし、木陰でずっと待機である。エルフリートはレオンハルトとマロリーの二人と仲良くじゃれあっている。

 結局、体重の軽いマロリーが選ばれた。罠にかかった氷兎を引き続けるのには体重が必要だからだ。力だけあっても重量で負ければ縄の持ち手全員が氷兎に振り回される事になる。それを防ぐ為、少しでも罠を引く騎士の総重量を維持したかったのだ。


 天気は安定していて、できる事なら天気の良い今の内に何とか現れてほしいところだった。

 結局初日には現れず、山小屋で夜を過ごして再挑戦する事になった。そして二日目。今にも降り出しそうな曇天の中、エルフリートがレオンハルトと大声で話し始めた。これは作戦の一つだ。

 匂いにつられてくるのなら、当然人間の話し声が聞こえたら寄ってくるだろう。まさかそんな簡単に、とロスヴィータは思ったがエルフリートは真剣そのものだった為、考え直した。


 にぎやかな雰囲気の三人と、それを見守る騎士が異変に気がついたのは、大声で話し始めてから一時間と経たない頃だった。ずしん、と地響きにも似た揺れを感じたのである。

 来たか。ロスヴィータは素知らぬ顔で会話を続けるエルフリートたちの周囲を見回した。まだ視界に怪しい影はない。だが、地響きは一定の間隔で徐々に強くなっている。

 初めて地響きを感じた時は氷兎ではなく雪崩だったらどうしようかと不安になったが、すぐ隣で待機しているロエーロの部下、スタックが小さく頷いてみせた為、雪崩ではなく魔獣なのだと確信が持てた。


 あとは姿を現し、罠にかかるのを待つだけだ。不思議とエルフリートたちを心配する気持ちは浮かばない。いちばん危険な役割をしているというのに、ロスヴィータは自分がちゃんと罠にかかった氷兎に投げ縄をうまくかけられるかの方が不安だった。

 辛抱強く待つ事数十分。とうとう氷兎が姿を現した。氷兎という名の通り、氷を身にまとった兎の姿をしている魔獣かと思っていたロスヴィータは驚いた。何とも不思議な生き物がそこにいたのである。


 雪を固めて団子を作ったかのような胴体に、似た雰囲気の足が四本、耳なのか触覚なのか分からないものが二本ついている。ほとんど透明の体なのを証明するように、内臓が透けて見えている。

 地響きから想像はしていた通り巨大な体躯を持っていて、赤い宝石のような瞳はつぶらだがかわいげはない。内臓が透けて見える時点でかわいげもなにもないが。


「きゃぁっ!」


 エルフリート渾身の可愛らしい悲鳴が雪山に響く。レオンハルトは後ずさって獲物らしい動きを心がける一方、マロリーはただ無言で棒立ちしている。マロリーの事だ、驚いたとかそういうのではなく、自然体で氷兎を観察しているだけだろう。

 氷兎は三人の匂いを確かめるように鼻らしき部分を動かした。周囲にも人間がいるせいで、不審に思われなければ良いが。


「な、なによっ。あっち行ってよっ!」

「ばかっ、刺激するな!」


 エルフリートが雪の固まりを作って氷兎に向けて投げる。それを慌てて止めようとするレオンハルト。なかなか演技派である。ようやく氷兎の意識が完全に二人へ向いた。

2024.7.14 一部加筆修正

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