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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
雪山は危険がいっぱい

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33/81

2

 上へ向かえば向かうほど、雪が深くなってきた。先頭を歩くエルフリートは太股付近まで積もった雪を押しのけるようにして歩いている。水の中を歩く、いや川の流れに逆らって歩くのと同じくらいの重労働だろう。

 時折挟む休憩時で彼の額に汗の粒を見かけた。この隊の中でひときわ体力を消耗しているのではないかと心配になる。それでも彼はかたくなに大丈夫だと言う。


「身体強化はしてるから本当に大丈夫なんだよ。雪を魔法でどかす事はできるんだけど、それだと敵に見つかりやすいからねぇー」


 体を動かせばその分勝手に汗は出ちゃうだけで全然疲れてないし、訓練だから妥協はしないよ。そう続けてエルフリートは笑う。


「次回以降の雪山訓練の時は、みんなに先頭を交代交代で歩いてもらうんだから。今回は特別だよ。どうやって歩いているのかとか、そういうのを覚えてもらわなきゃ。

 さすがに初回で遭難はしたくないもん」

「それはそうだが、無理をされて後で困った事になるのも、と思ったんだ」


 ロスヴィータはつい先日の“何でもやってあげたくなっちゃう病”に罹患したわけではないと分かり、言い訳がましく口元をもごもごと動かした。


「今のところは天候も安定しているし――って言っても、突然天候が変わる可能性はあるけど、移動ペースもそんなに悪くはないし、順調だよ。

 そろそろ二番手を変えてもらってラッセルを見てもらった方が良いかなとは思うけど」

「次の休憩でマリンに変わろう」

「うん。あとは私はエイミーが心配なくらい」

「ああ、確かにな……」


 ロスヴィータは後ろを振り返った。一本のゆるりとした線が下へと伸びている。エルフリートが道を開き、ロスヴィータたちがその後を踏みしめて作った通路である。本来は同じ太さで続いているはずのそれは、時折太くなったり脇芽のような溝ができていたりしていた。

 すべてエイミーが転倒した場所である。どうやらエイミーと雪は相性が悪いらしい。運動神経は鈍くないはずだが、どうにも雪に足が取られてしまうようで、すぐ転ぶ。

 殿を務めるバルティルデの直前という位置で、四人が歩いた後に続いているにも関わらず、彼女だけ転ぶのだ。


 一番足下がしっかりする殿に、と思わなくもないが、そうすると転倒しても気づかずに置いていってしまう可能性がある。あと五、六人ほど人がいればもう少し彼女の歩みもましになったかもしれない。

 しかし残念ながら女性騎士団員は少ない。十人に満たない少人数である今、エイミーの為だけに余計な動作をするわけにもいかず、ただ彼女が転倒した際に怪我をしないよう祈ってあげる事しかできなかった。

 エルフリートは姿勢の問題かなぁ、とボヤいている。


「エイミーは今期中のラッセル役は難しいと思うよ。元々新人の二人にはさせる予定ないけど」

「山に関してはフリーデの判断に任せる」

「頼りにしてもらえて嬉しいなぁ」

「ばか言え、私は常にあなたを頼りにしている」


 上半身も使って雪をかき分けていく姿は重労働そのものに見えるが、雑談の様子からは余裕すら感じさせるもので安心感がある。

 雪が降ったばかりらしいと彼は説明しながらどんどんと進んでいく。


「なるべく浅いところを狙って歩いてるんだけど結構沈むなぁ……。ロス、絶対に私が歩いているルートを逸れないように、全員へ伝えてくれる?」

「分かった」


 エルフリートの心配が現実化しないよう、ロスはすぐ後ろを歩くマロリーにこの事を伝える。静かについてきていた彼女はすぐに頷いた。マロリーはルッカへ、ルッカはエイミーへ、そして最後のバルティルデへ。

 バルティルデは様子の確認で振り返っているロスヴィータに向けて手を上げた。了解の合図である。ロスヴィータも手を上げて応じた。


「ルートをはずれたらね、下手すると全身埋もれちゃうくらいに沈んじゃうかもしれないんだ。そうなると助け出すのが大変だし時間や体力のロスも考えなきゃいけなくなるんだよ」

「割と、危険だな」

「うん。見分け方っていうか、予測の仕方はあるんだけど伝えたところでいまいちピンとはこないかもなーって思う。

 風上を読め、とか言われても困っちゃうでしょ?」


 息が弾むようになってきたロスヴィータとは違い、エルフリートは普通に話す。余裕を見せつけられながら、ロスヴィータは彼のレクチャーを真剣に聞いた。


「植物の付近とか、谷側の方とか、ずぼっと落ちるように沈むから気をつけないといけないよ。あらかじめ地形が分かっているなら避けたルートを組むのが一番の対策になるね。

 事前に確認取れる場合ばかりじゃないから、習得しておくに越した事はないよ。

 今回みたいに降ったばかりで柔らかいと多少は楽。でも沈みやすいから一長一短だね」


 ピッケルで上の雪をかき落として踏み込む。流れるような動作で一歩一歩進んでいく。

 エルフリートが大股で踏み込んだ先、沈みきっていない部分をロスヴィータが踏みならした。


「山によっては水気が多くて最悪らしいね。幸いな事にこの国は水気の少ない雪だからラッセルしやすいんだ。そうじゃなきゃ一人で全部やる、なんて私も言い出さなかったかも」

「フリーデは本当に山のプロだな」

「えへへ。雪山の狩りだって得意だよ。任せて!」

「いや、今回は狩りは必要ないと思う」


 必要になる時がくるとしたら遭難した時だろう。ロスヴィータは初めて行った山岳訓練の事を思い出し、気まずい気分になった。

2024.7.6 一部加筆修正

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