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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
雪山は危険がいっぱい

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32/81

1

 ロスヴィータたち女性騎士団は騎士団と合同で雪山訓練の為、王都から北西に離れる事約二日と半日の距離にある山に訪れていた。カルケレニクスと違って孤立するような場所ではないが結構な高山である為、山の中腹からは低木と岩だらけの光景が続く。

 事実、山を登り始める前に見た頂上付近は完全に雪と氷の世界よろしく青っぽい白い色で覆われていた。おそらく夏であれば茶色い――もしかしたら灰色かもしれないが――禿げ山として見えただろう。


 エルフリートならば、その姿を見た事があるかもしれない。少なくとも王都からあまり出る事のないロスヴィータは通常の山肌の色を知らなかった。

 アララットと呼ばれるこの山は、確かワインの生産地として有名だったはずだ。

 特に収穫が難しいアイスワインは高値で取り引きされている。ロスヴィータの母親が気に入っており、何度かそれを手に入れる為に奔走する父親の姿を見かけた記憶があった。


 ざく、ざく、と雪を踏む音にきゅ、と雪が圧縮される音が混じる。ロスヴィータは聞き慣れないこの軋む音を気にしながら先頭を歩くエルフリートの背中を眺める。防寒具に身を包んだ彼は厚着をした人形のようで可愛らしい。

 ただ少しばかり懸念があった。それはエルフリートの過保護ぶりである。どうやら山での訓練という事で、前回――正確には前回でも何でもなく、初回と言うべき――の遭難事故を連想してしまうのか、すさまじい装備で出かけようとしていた。

 さすがに尋常ではないほどの備品にロスヴィータは、持っていきたいと言ってくるそれらの大半を却下せざるをえなかった。


 今回の訓練は、しかるべき場所に到達して作業をこなすというものだ。複数の隊に分かれて同じ目的地を目指す。目的地に到達した後に明かされる指示をこなすのだ。

 今回はブライスが受け持っている二つの小隊とアントニオの小隊、それとアララット山麓が出身地であるエノテーカとロエーロがそれぞれ率いる小隊という五小隊との合同である。

 基本的に六つの小隊は別ルートで同じ目的地に向かう事になった。万が一に備え、地元に詳しい二つの小隊は四つの小隊が予定しているルートの間に設定されている。夏山は夏山で危険なのだが、雪山は死と直結してしまうようなアクシデントが多い。その為、訓練にも念を入れるのは当然であった。

 エルフリートは雪など大した妨害ではないかのように歩いていく。その姿を頼もしく感じるとともに、背後が不安になる。都会っ子のエイミーが騒いでいる気配がする。


「ルッカ、ありがとう! 何で私ってば、こんなに歩けないんだろう?」

「そこ! 特別任務中だったら私たちは今頃死んでいるぞ」


 あえて厳しい声を出せば、ルッカに立ち上がらせてもらったばかりのエイミーはオーバーにも両手で口を押さえた。


「フリーデ、悪い。歩き方をもう一度彼女にレクチャーしてくれないか?」

「うん。良いよ」


 エルフリートは地面がどんな状態でも歩けてしまうのではないか、そうロスヴィータが思ってしまうくらいスムーズにエイミーのもとへ、すいすいと歩いていく。


「雪が深くなる前に修得してね。雪嵩が増したら、さすがに私も余計な行動する余裕がなくなっちゃうから」


 雪嵩が増す。改めて耳にするとぞっとする。

 膝下の深さである現時点でも歩きにくいというのに、これからもっと雪が深まるという事だ。最悪胸の高さまで、とは打ち合わせの時に聞いていたが……。

 雪山でのアクシデントが死に直結するという言葉が現実味を帯びてロスヴィータにのしかかった。

 魔獣との戦いだって命がけではあるが、これは別の種類の怖さがある。


「足だけ先に出さない。かかと先に下ろさない。足の裏全体で……そう。そんな感じ。つま先は開いてがに股を意識」


 エルフリートとエイミーは、ロスヴィータと殿を務めるバルティルデの間を往復する。


「重心はどうするんだっけ? うん。良いね」


 エルフリートの指導で歩くエイミーはぎこちなく、機械人形のようだ。だがそれも徐々になめらかな動きへと変わっていった。

 熱心な姿を見ていると、うっすらと感じていた恐怖心が和らぐ気がする。


「はい、じゃあ進みます。少しでも体調に異変があったら言ってね」


 いつもと同じ笑顔。彼はその笑顔の下で、現状をどう考えているのだろうか。出かける直前までの真剣な様子を見る限り、脳天気でいるわけではないはずだ。


「フリーデ」

「うん?」

「先頭を歩くのは交代交代の方が良いのではないか? この先雪が深まってからは頼りきりになりそうだし、せめて今の内くらいは」

「大丈夫だよ、慣れてるから。ありがとう」


 悪いけど交代する気はない。そう言われた気がした。自分だってこれくらいできる、そう胸を張って言えないところがもどかしい。

 彼一人に頼りきりになっているこの状況をどうにかするには、圧倒的に経験が足りなかった。ロスヴィータは内心でため息を吐き、彼の後に続いた。

2024.7.6 一部加筆修正

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