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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
不穏な足音

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31/81

4

 妹の気遣いがエルフリートの胸に突き刺さる。“エルフリーデ”に徹しろという声が聞こえてくるようだ。


「フリーデ、明日からまたロスの下で頑張れる?」

「もちろん。ちゃんと自分の役割を果たすよ」


 エルフリーデにはっきりと返事をする。途中で役を降りる事は簡単にはできないし、万が一するとなったらきっとエルフリーデがその空席に収まる事になるだろう。

 エルフリーデに実力がないとは言わないが、エルフリートと比べると圧倒的に経験値不足である。何かあった時に、今までの“エルフリーデ”と同じようには動けまい。


「そうか。では今日は私とデートしよう」

「え?」

「たまには兄妹水入らずで出かけるのも良いと思わないかい?」


 この前は二人がいたからね、とさらっとロスヴィータとレオンハルトを邪魔者扱いした彼女は流し目をよこした。似合ってるのがちょっと憎らしい。


「一人で屋敷に閉じこもっているのと、寮の一人部屋に閉じこもっているのと比べたらよほど有意義だと思うけれど」

「……行くわ。でも、もうお説教はなしよ」

「はいはい、可愛い妹だからね。お兄様が慰めてあげよう」


 ぽん、と軽く頭を撫でられると本当に目の前に立つ人物の妹になったような気分になる。悔しいと思うくらいに彼女は“兄”だった。




 立場は逆転しているものの、本当の兄妹のように甘やかしてもらったエルフリートは寮への帰路につく頃には普段と同じ調子に戻っていた。悩み事を忘れたわけではない。

 妹として存分に可愛がられる事で、改めて自分が女の子として生活しているのを実感したのである。

 途中でいつぞやのロスヴィータ誘拐犯――思い出すのも忌々しいアルフレッド――と遭遇するというハプニングはあったが。偶然かどうかはともかく、街中で馬車に轢かれそうになった。その馬車に乗っていたのである。


 咄嗟にエルフリートとエルフリーデがそれぞれ防御の魔法を使い被害はなかったものの、肝が冷える出来事であった。当然御者は謝罪しようとしたが、それを制したのは車上の主であるアルフレッドであった。

 尊大そうな顔を馬車から覗かせた彼は、相変わらず性格の悪そうな雰囲気がにじみ出ている。


「おや、かわいらしい妖精がこんなところにいるとは。森の奥深くで静かに過ごしている方が安全だろうに。久しぶりだな、エルフリーデ嬢。それと、そちらはその兄上かな?」


 エルフリーデはアルフレッドのからかいに対し、紳士的な余裕を持たせた笑みで言い返した。


「初めまして、アルフレッド殿。御察しの通り、私がロスヴィータの婚約者、エルフリート・ボールドウィン・カルケレニクスです。

 あなたがロスを誘拐未遂してくれたおかげで彼女と婚約できました。いつかお礼を言いたいと思っていたんですよ」

「くっ」

「――こんな状況で、とは考えてもいませんでしたがね」


 悔しがった時点でアルフレッドの負けだった。ロスヴィータの件で捕縛されて一応処断されたが、あれではまだ懲りなかったのだろうか。


「痛い目を見る前に森へ帰った方が良い。妖精は人間に追い立てられる存在だからな……おい、馬車を出せ。行くぞ」


 意味深な言葉を言い放ち、馬車の窓が閉められる。御者は戸惑いを隠さず二人に小さく黙礼し、馬車を走らせた。

 全く反省の色がない男にはまだ王位継承権があるというのだから呆れてしまう。エルフリートはその気持ちごと捨てるかのようにため息を吐いた。


「あんな失礼な男を懲らしめたなんて、我が妹は最高だ。誇りに思うよ」


 そう言いながらエルフリートの頭を抱き寄せる。エルフリートは彼女に頬を寄せた。


「女の敵どころか人間の恥さらしだもん。きっとフェーデがあの場に居合わせたら私と同じ事をしたはずよ」

「確かにその通りだね。……フリーデ。逆恨みには十分注意するんだよ」

「はぁい」


 エルフリートは心配そうに頬へ口づける彼女へ返事をするのだった。

 寮へ戻ると、ロスヴィータが部屋の前に立っていた。姿が見えた途端、勝手に体が走り出した。


「ロス!」


 走るほどの距離でもない廊下を駆け抜ければ、彼女は驚いたらしく目を見開いている。


「ロス、昨日はごめん。自分を見失ってたみたい。明日からまたよろしくね」

「あ、ああ……よろしく頼む」

「ところで何かあったの?」


 エルフリートが首を傾げつつ聞けば、ロスヴィータは気まずそうに視線を逸らした。彼女らしからぬそんな姿にますます事情が気になってしまう。


「緊急の連絡とか? 明日、飛び込みで訓練が入ったとか?」

「いや、急ぎではない。ただ、その。少し言い過ぎたかなと思ってだな。

 屋敷に戻ったと聞いたから、よほどあなたの事を傷つけてしまったかと後悔していたんだ」

「ロス……」


 見当違いの事を言ったエルフリートは、彼女が自分に対してそんな事を考えてくれていたとは思いもよらず、名前しか口に出てこなかった。


「言うにしても、もう少し言い方があっただろうと」

「良いの。今回のは私が完全に悪いんだもん。お兄さまにも怒られちゃった。私が暴走しちゃっただけ。困らせちゃってごめんね」


 しばらく二人とも許しを乞う表情で見つめ合い、どちらともなく笑い出した。


「また明日から、最高の相棒として一緒に歩いてほしい」

「こちらこそ、背中を安心して任せるって言い続けてもらえるようにがんばるね」


 エルフリートはロスヴィータからの許しを得られたのが嬉しすぎて、アルフレッドに絡まれた事など、もはや頭から消え去ってしまったのだった。

2024.7.6 一部加筆修正

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