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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
不穏な足音

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28/81

1

 エルフリートとしてロスヴィータと外を出歩いた事は、二人に小さな変化をもたらしていた。


「フリーデ、構わない。これくらいできる」

「ええっ、私がやりたいのにー!」


 エルフリートは必要以上にロスヴィータの手から荷物を奪い、ロスヴィータは時折ぼうっとエルフリートの事を見つめるようになっていた。ロスヴィータの方はまだ良い。問題はエルフリートである。

 彼はことごとく彼女の仕事を横取りしていってしまう。特に荷物の横取りが酷い。資料を運んでいればさっさとその書類を回収する。

 誰でもできるような軽いものにすら適用されるその行為に、ロスヴィータは我慢ならないところまできていた。


「……フリーデ。私の邪魔がしたいのか?」

「そんな事ないよっ」


 半眼になって問うと、彼は両手を振って否定した。ロスヴィータはあからさまにため息を吐いて見せ、呆れを滲ませる。


「私たちは騎士だ。互いに補完しあい協力するのは良いが、フリーデがしようとしているのは違う。今のあなたは騎士に相応しくないぞ」

「だって、してあげたいんだもん」

「それを万人に適応できるなら良い。だが、私だけにするのはやめてくれ。とても迷惑だ」


 ロスヴィータにしてはきっぱりと言い切った。が、それはエルフリートが逸脱した行動をとっているせいである。女性騎士団の調和の為にも、ここは譲れない。

 それに、エルフリートがこんな態度を取るようになって困惑しているのはロスヴィータだけではなかった。そのせいで、最近ではよからぬ噂まで立ってきている。


「私とあなたは対等だ。私がフリーデに求めているのは、背中を預けられる信頼できる人間だ。あなたがしようとしているのはただの荷物持ちじゃないか。

 いつ、私がそんな事を求めた?」


 エルフリートが口を開けようとした動きを見て、先に口を開く。


「そもそも、その過剰な動きのせいで私が変な目で見られているじゃないか」

「変な目って?」


 彼は知らないらしい。

 ロスヴィータが今、どんな視線を浴びているのか。珍しくいらっときたロスヴィータは、つかみかかる勢いで言い放つ。


「婚約者との間に子供ができたから、妹であるあなたが過保護になったと!」

「はぁっ!?」

「事実無根であっても、そういう誤解が広がっているんだ。本当に、私の足を引っ張るのは勘弁してくれ!」


 驚きのあまり、魚のように口をぱくぱくとさせた彼は、逡巡の末に聞いてきた。


「……本当に、いないよね?」

「それはあなたが一番知ってるだろうがっ!」


 婚前交渉などしていない全くの無垢なロスヴィータが、どう間違えたら妊娠すると思っているのか。普段から割と天然なところがあって可愛いと思っている点が、初めて憎たらしいと思った。

 ふざけているのか、とも。


「そ、それはそうなんだけどぉ……ロスの子供だったらきっとかっこいいだろうなぁって、思っちゃったんだもの」


 エルフリートは人差し指を唇付近につけ、申し訳なさそうに微笑んだ。ちょっとだけ角度をつけて上目遣いぎみにしているのが憎い。

 自分を落ち着かせる為に深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。


「……ボールドウィン副団長。今から明日いっぱいまで謹慎するように。それと、あなたの代わりとしてバティ(ペンロド隊長)を側に置くから呼んできなさい」

「ええっ!?」


 疲れた。もうこれ以上脳天気で天然な彼と話していたら駄目だ。ロスヴィータは執務室に戻ると言ってエルフリートに背を向けた。




「あっはっは、そりゃマジかい?」

「笑い事じゃない」


 エルフリートが謹慎になった理由を説明するなり、彼女は大笑いした。


「今回の件は、先日一緒に出かけたのが発端で過保護になっただけだという事実を広める為だ。それに、私は守られるだけで良しと思える人間ではないし、女性騎士団の事があるからな」


 バルティルデも思うところがあるのか、無言で頷いている。


「婚前交渉などもってのほかだという以上に、結婚したとしてもしばらくはそういうのはなしにするつもりだ」

「は?」

「この騎士団が順調だと確信するまではそういうリスクは避けたいからな」

「……ロス、男心が分かってないな」


 男心とはなんだ。ロスヴィータは自身の性別である女心すら分からない人間だ。今日は何だか無性にイラッとくる。

 何が気に食わないのか、ロスヴィータ自身にもよく分からなかった。


「そんなもの関係ない。フェーデだって分かってくれるさ。そうでなければフリーデは今この騎士団に存在しない」

「はいはい、そういう事にしときましょーかね」

「む」


 ロスヴィータの考えに賛同するどころか適当にあしらわれてしまい、どうしてそうなるのかと問いただしたくなる。が、バルティルデはこれ以上話すつもりはないとでも言うかのように書類の山を目の前に置いた。


「早く軌道に乗らせないと彼がかわいそうだ。ほら、ちゃっちゃとやんなよ団長様」


 嫌みったらしく聞こえなくもない。ロスヴィータはどことなく彼女に批判されている気がした。絶対に自分は悪くない。そう叫びたかった。

 バルティルデが持ち込んだ書類の処理を淡々と続ける内に、日はどっぷりと暮れてしまった。ロスヴィータは普通の騎士と同じように巡回業務も参加している。


 女性騎士団の規模が小さいおかげで巡回業務は少なく、今日のように巡回のない時は書類整理がとてもはかどるのである。今後の方針やら、備品の調整だけでなく、訓練の枠を獲得したりといった騎士団の活動に関わる様々な書類は結構な量となる。

 いずれエルフリートが主体となる領地運営を考えれば規模はかなり小さいものの、それなりに大変な仕事であった。

2024.7.6 一部加筆修正

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