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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
キャンベルの憂鬱な特訓

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27/81

2

 ――もう無理。死ぬ。キャンベルはマロリーの攻撃を受けながらうつろになった目で虚空を眺めながら思った。

 今行っているのは、難しい事ではないはずだ。彼女が紡ぎ出す魔法の数々を全て受けるだけなのだから。だが、バラバラな場所へ繰り出された魔法を受け止めるには瞬発力、持久力、忍耐力が必要になる。……精神力もか。

 キャンベルは次々と浮かび上がる汗を拭いながら熱い息を吐いた。


「次行くわよ」

「はひっ」


 キャンベルが言葉を噛もうが転倒しようがお構いなしだ。逆にそれくらい淡々としていた方がキャンベルとしても羞恥心が湧かずに一心不乱で集中できるから結果としては良かったのだが。

 マロリーの生み出す攻撃は、属性も様々でバリエーションに富んでいる。完全魔法耐性を行使しながら受け止める魔法は不思議な感覚だ。

 ぶつかった瞬間に魔力が彼をすり抜けていくのである。そしてキャンベルが受け止めた時点で魔法はただの魔力として弾ける為、範囲攻撃でないかぎり彼の背後には到達できずに散っていく。


「キャンベル、今度は全部避けて」

「へあっ!?」


 今まで攻撃を受け止めに行っていたキャンベルは、自分の背中を狙って放たれた氷の刃を咄嗟に受けた。


「ほら、もたもたしないの。私に背を向けて。避けなさい」


 せめて何の為なのか教えてほしい。キャンベルはその言葉を飲み込んだ。

 背を向けていては何がどうやってくるのか分からない。これは非常に恐ろしい。

 魔法の攻撃が当たった所で痛くも何ともないが、マロリーから送られてくる視線は強くなるだろう。その視線が怖い。


「あなたは敵からの攻撃を率先して受けつつ、あなたの存在を無視して敵を攻撃する味方の魔法を避けるのよ。攻撃を防ぐだけの技量があるなら、そこまでやれるはずだわ。

 味方の魔法に当たると威力も下がるし、あなた自身がダメージを負う事もある。すべてをこなしなさい」


 かなり厳しい言葉だったが、彼女が言っている事は何も間違っていない。キャンベルは魔力の動きを見極めようと目を閉じた。


「絶対魔法耐性が諸刃と言われてしまうのは、ただの壁にしかなれない人ばかりだったから。両方の攻撃を無駄にしてしまうからよ。

 あなたは壁じゃなく、盾になりなさい」


 相棒となる魔法師の盾。盾と剣を持って戦うスタイルをキャンベルは思い出した。そうだ。盾は剣の邪魔をしてはいけない。考え方を変える事で、キャンベルの中に理想のイメージが湧いた。


「少し、近づきます!」


 宣言したキャンベルはマロリーとの距離を縮めた。多分、これくらいが遠距離から範囲攻撃が来た時に守れる距離のはず。自分の思うぎりぎりの位置についた彼は、マロリーに背を向けて剣を構える。

 本当は敵の姿があると断然に分かりやすくなるのだろうが。キャンベルはマロリーがどの方向へ魔法を繰り出そうとしているのか想像できない事を心の中でケチつけた。


 今は彼女が発動させた魔法を察知して避けるしかない。後方に意識を集中させれば、何となくマロリーの動きが分かる。彼女の魔力が練り上がっていく時に生まれる風、体のこなし、それらを感じ取るのは簡単ではない。

 紙一重で雷を避けたキャンベルは息を整えた。

 一心同体となるには、きっともっと時間がかかる。それにキャンベルの相棒はマロリーではない。本当の相棒ですら読めないのに、簡単にその動きができるとはキャンベル自身思ってはいない。

 それでも、やらないと。


 マロリーの狙いは、仲間全員の攻撃を避けつつ相手の攻撃を可能な限り受けきる事だ。個人の癖を覚えて動けという話であれば、きっとこの訓練にジークを連れてきていただろう。

 徐々にマロリーの攻撃を避けられるようになって余裕の生まれた頭でそんな事を考えていた。


「ルッカ、仮想敵として私と戦いなさい」

「はい」


 キャンベルの余裕を感じ取ってか、マロリーがルッカに指示を出した。彼女はキャンベルの前方へと移動してじゃらじゃらと装飾物の付いた腕を前に突き出す。


「どうせ無効にされるから好き勝手やって良いわよ」

「分かりました」


 ルッカは自由そうな見た目とは裏腹にとてもまじめな女性騎士だ。確かに頭髪は派手な色に染め上げられているし、騎士団の制服もどうやったのか想像がつかないほどに改造されている。

 耳飾りも過剰だし、とにかく装飾物が多すぎる。だが、これらすべて自作の魔法具だというのだから驚くしかない。

 そんな彼女はマロリーと違って、偶然近くにいた騎士を魔法に巻き込んだりしない。キャンベルにとって恐ろしく感じる相手ではなかった。


「遠慮なくいきます」


 宣言通り、彼女はものすごい勢いで魔法を生み出し始めた。あれ、彼女って補助魔法専門じゃなかったっけ……? そう思ったのは始めだけだった。

 初撃を受け止め、次々と生み出されていく待機中の攻撃魔法を見てキャンベルはむしろ納得した。

 ――そうだよな、補助魔法だけで騎士になれたら騎士団全員魔法師しかいなくなっちまうわ。魔法師の枠で騎士になるなら魔法が攻防共にできて、剣も使えなきゃいけないんだっけな。


 要するに、キャンベルはまた相手を甘く見積もっていたという事だ。自分が一番強いとか、そういう事を思った事は全くないが、相手が隠している能力を見積もる力が弱いのだろう。

 これは戦場で致命的な欠陥になる。戦場でなくたって、有事の際に対峙する事象をしっかりと読みとらないと重大な失敗を招く事になるのは同じだ。

 キャンベルは憂鬱な特訓を受ける中、自分自身に積み重なっていた課題をいくつも見つけ出したのだった。

2024.7.6 一部加筆修正

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