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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
キャンベルの憂鬱な特訓

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26/81

1

 御前試合を終えたキャンベルは、自らの課題と向き合っていた。完全魔法耐性の弊害による大怪我である。親切だと思っていたジークは、キャンベルが思っているよりも試合中は無慈悲だった。

 ある種今回の御前試合における本命と言うべき女性騎士団長・副団長のペアとの戦いで、それが露わになった。こうなるという予想は全くなかったとは言わない。ただそれがここまで過酷な状況になるとは思っていなかった。

 キャンベルの見込みが甘かったという事だろう。もう少し備えておけば良かったと後悔したのは医務室のベッドの上であった。


 魔法に耐性ができたといっても、魔法の影響を受けないだけで副次的に発生した現象についてはその限りではないわけだ。例えば、魔法で生み出された突風はキャンベルを傷つける事はないものの、その突風によって動かされた自然に存在している空気等の動きはキャンベルに影響する。

 魔法が大きな岩を砕いたとして。砕かれた岩は魔法で創られたわけではないから、破片がキャンベルにぶつかったら当然怪我をする。

 今回の戦いでは、魔法の炎に熱せられた空気によってキャンベルは大火傷を負ったのだった。


 ……このままでは死ぬ。キャンベルは本気でそう感じた。完全魔法耐性が諸刃の刃だという認識は間違っている。

 そう主張したのを撤回したいとさえ思ってしまった。

 御前試合でのキャンベルの戦い方はそこそこ注目を集めたらしく、火傷の治療を受けている間にあちこちから声をかけられた。

 ジークが詠唱を終えるまでの防衛ぶりを認めてもらえたり、意図せずして捨て身となったジークの攻撃時についての揶揄だったり心配の声だったりと、内容は様々であった。

 そんな中、マロリーの訪問はキャンベルが完全魔法耐性を使った戦法を極める転機となったのだった。


「あなた、もう少し勉強した方が良いわ」


 マロリーの苦言から全ては始まった。突然何の話なのかとぽかんと口を開けて見つめたキャンベルは、零度の視線で貫かれた。


「完全魔法耐性というものの本質を見失ってるって言いたいのよ。魔法が効かないという点を重要視するあまり、抜け落ちてしまったのかもしれないけれど。

 このままではもったいないわ。だから、私が鍛え直してあげる」

「ひっ」


 キャンベルの喉元から情けない悲鳴が漏れた。マロリーがキャンベルに対して悪意を持っているのではないと分かっていても、肉体に染み込んだ彼女への恐怖感のせいで反応してしまう。

 努力の末に完全魔法耐性を身につけたキャンベルだったが、マロリーへの恐怖感はいまだに克服できていなかった。

 己を情けないと思いつつ、びくびくと彼女を見上げる。


「ベッドからでられるようになるまでは座学にしましょう。床上げしたら実地に切り替えるわ。ああ、ちゃんとアントニオ(隊長)の許可は取ったわ。

 今日はそれを知らせに来ただけだから。お大事にね」


 淡々と用件だけ言って去っていった冷厳な女史の後ろ姿を見送りながら、研究熱心で面倒見は良いのにスパルタすぎて怖いんだよなあ、とキャンベルはため息を吐いたのだった。




 翌日、紙の束を持つルッカを引き連れてマロリーは現れた。ルッカは魔法の勉強になるからと自主的についてきたようだ。彼女たちは騎士の通常業務の合間を使っての事らしく、そこまでして自分に教えたい――ルッカの場合はそれを視聴したい――のかと変な緊張を覚えた。

 彼女はキャンベルがしっかりと修得するまで続けるだろうが、キャンベル自身がその行動に耐えられるかは分からなかった。


「今日は魔法耐性と完全魔法耐性についての定義、仕組みから始めるわ」


 ベッドの上で、なるべく正しい姿勢を心がけながら彼女の説明を聞く。魔法耐性とは、言葉の通り魔法への耐性の事を言う。

 魔法の効きを悪くしたり、それによる怪我の程度を軽くする事ができる。

 そして通常、魔法への親和度が高いほど魔法耐性も高くなる。


 親和度とは、己の持つ魔力を魔法として発現させる際の魔力消費量でおおよそをはかる事ができる。親和度が高いほど、省魔力で魔法を発動する事ができるからである。

 マロリーの上司であるエルフリーデは魔法への親和度が高く、マロリーよりも魔法耐性があるのだと説明された。

 実のところ、キャンベルは魔法への親和度は無に等しい。元々魔力が少ないのが原因である。どれくらい少ないかと聞かれれば、おそらくロスヴィータやバルティルデ並だと答えるくらいであった。


 では、どうしてキャンベルが完全魔法耐性を身につけられたのか。それは「完全」が魔法耐性につくのとつかないのでは方向性が全く違うからに他ならない。

 完全魔法耐性とは、魔法を全く寄りつかせない状態の事である。

 魔法を否定する力とでも言えば良いだろうか。マロリーはそう言葉を濁した。己の魔力を否定し排除する事で成立するこの能力は、魔法を行使する事ができなくなり、かつ外部から魔法の干渉を受けなくするものである。

 それ故に完全魔法耐性の能力を身につけやすい人間の条件に魔力が少ない事がよく挙げられる。キャンベルの場合はその条件に当てはまった形である。


「魔法の否定が悪いとは言わないけど、もっと効果的にもできるのよ。それを教えてあげる」

「お願いします」


 マロリーは口元をゆるめ、研究結果を発表し始めるのだった。

2024.7.6 一部加筆修正

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