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エルフリーデは珍しくハーフアップの髪型をしていた。両サイドを編み込み後ろに流していて、背中の方で波立たせている。フリルとレースをふんだんに使ったワンピースは“愛らしい”を具現化したかのようだ。
「婚約したのに、お兄さまとはあまり会う時間が取れないでしょ? だからちょっと気になってたんだよね」
「話せているよ。フリーデこそレオンと良い雰囲気だったじゃないか」
女性同士がする一般的な雑談に慣れていないロスヴィータは、何と答えて良いのか分からず、逆に話を振り返した。彼女はそうなると予想がついていたのか、ころころと笑う。
「昔からカルケレニクスまで遊びに来てくれていて、気心知れた関係だもん。仲は良いよ。……もしかして、妬いてくれたの?」
好奇心を隠そうとしない、いつも通りの姿にロスヴィータは苦笑する。それは彼女の言い分を認めたも同然で、エルフリーデは両手を頬に当ててきゃあきゃあ嬉しそうにしている。
「んふふ、王子様に嫉妬してもらっちゃったぁー」
一人で勝手に楽しそうにしているのも、いつも通りすぎて不思議な感じがする。
「レオンはね、とっても優しいんだ。私のリッターも彼の事気に入ってるし」
「あの猫か」
「うん」
リッターはカルケレニクス領にあるエルフリーデたちの実家で飼っている猫だ。飼い主であるエルフリーデによく懐いており、それも彼女と片時も離れないのではないかというくらいであった。
彼女はそれを可愛らしいと許容していたが。
どことなくレオンハルトを思わせる色味をしていて、エルフリーデだけではなくレオンハルト本人も、とってもそっくりだと言っていた。
「レオンは良い人よ。さすがはフェーデの親友だね」
「で、どうなんだ?」
「一緒にいて楽な人、かな。私たち兄妹の良き理解者でもあるし」
ロスヴィータはなんだかはぐらかされている気がした。
「私の事は良いの。ロスの方こそ重要よ。婚約してるんだから。ね、フェーデはどう?」
結局話題が戻ってきてしまった。困った。何を言えば良いのか分からない。
「え、ああ。そうだな……私にはもったいないくらいの人だと思うな」
「何で?」
エルフリーデは可愛らしいく首を傾げた。手強い。ロスヴィータは気がつかれないようにそっと息を吐いた。
「理想が服を着て歩いているような人だからだ。完璧すぎる。まあ、今日は意外な一面も少しは見たが……」
エルフリートは見目麗しく、エルフの一族だと言われれば納得してしまいそうな容姿をしている。その上所作は貴族として完璧。かと言って中級以下の文化を否定せず、その文化圏では率先して馴染んでみせる。
理想の貴族を体現したかのような存在だ。
ロスヴィータはまだ直に目撃した事はないが、狩猟の腕もすばらしく、山岳訓練で遭難してしまった時には食いっぱぐれる事もなかった。魔法師としても実力者で、剣捌きも素晴らしい。
不足があるとはロスヴィータに思えなかった。
「それに至る原動力がとてもふざけたものだったとしても?」
「他人から見たらふざけているように見えるのかもしれないが、これだけ極めているんだ。本人は本気なはず。
それを情けない、とかふざけている、とか批判的に思う事こそ間違っていると私は思う」
エルフリーデはにっこりと笑んだ。ロスヴィータの原動力だって、他人からすれば馬鹿にされるようなものである。エルフリートが絵本に描かれた架空の人物に憧れてこうなったのは知っている。
ロスヴィータも同じだった。目指す方向性が王子様と妖精で微妙に違うくらいで。
エルフリーデは注文していた紅茶で唇を潤した。
「私、二人はとってもお似合いだと思ってるの。たったあれだけのきっかけで、ここまで本気になれる人間って滅多にいないよ。
気も合うみたいだし、それこそ将来は最強の夫婦になれると思うんだ」
「さ、最強の夫婦……」
彼女はいたって本気らしい。とても良い笑顔だ。
「フェーデはちょっと思い込み激しいところもあるけど、純粋で単純だしまともな感性を持ってるからそこら辺の男よりも良いと思う。ロスがフェーデの事を完璧人間って感じなくなる時がきても、嫌わないであげてね。ロスの事で真剣に行動した結果だと思うから」
「ああ。きっと私は彼を嫌いになる事はないと思うが、肝に銘じておこう」
ロスヴィータの返事にエルフリーデは満足そうに頷いた。
「で、ほとんど客観的な回答だったけどロス自身はどう思ってるの?」
「へ?」
彼女が頷いた時点でこの話題が終わると思っていたが、そうではないらしい。さらなる追求がロスヴィータを待っていた。
何を答えれば良いのだろうか。回答に窮してしまった。
「こういうところが好きー、とか、そういう主観的な感想に決まってるでしょ」
「えっ、あ、いや……そ、そうだな……私が男性装をするのを理解してくれたり、私よりも強いところとか、柔軟な考えを持っていて尊敬できるところとか、は、好ましいと、思っている。
あ、あと彼の趣味は私の趣味と通じるところがあるから幸せな気持ちになれるぞ」
はっきりと好きだと言えなかったし、言っている内に何を話しているのか分からなくなってしまった。結局何が言いたかったのかと聞かれれば、再び変な説明をする事になりそうだ。
だが、そんな拙い返事は殊の他彼女を喜ばせたらしく、満面の笑みを浮かべられてしまうのだった。
2021.10.30 誤字修正
2024.7.6 一部加筆修正




