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「勝者! 女性騎士団団長ロスヴィータ・女性騎士団副団長エルフリーデペアの反則負けにより、騎士団総長ヘンドリクス・騎士団副総長ケリー!」
会場は大いにざわついた。それもそうだ。まだ誰も剣を交わらせる事なく決着がついてしまったのだから。
開始直後にエルフリートの放った魔法は、会場内の誰に危害を加える事はなかったが反則扱いになった。何が起きたのか分かっているのは、一部の騎士や魔法に詳しい人間と犯人だけであろう。
徹夜して解析をしたマロリーと爆発物の復元をしたルッカのおかげで、エルフリートは昨晩考えていた魔法を実行する事に決めたのだった。実行すれば、手間暇かけて構築してあったはずの会場内の結界は全て吹き飛んでしまう。
責任を被るのがエルフリートだけで済むよう、誰にも話さなかった。
「ロス、ごめんね。優勝逃しちゃった」
ぽかんとする衆目と同じく驚いた様子で後ろに振り返った彼女は、天を仰いで残念そうにため息を吐く婚約者を見て苦笑した。
「状況がよく飲み込めていないのだが、これは私の案が実現したのか?」
「まあ、そんなとこ……」
ロスヴィータは破顔した。その気配に逆に驚けば、彼女は優しくエルフリートを抱きしめた。
「優勝より、犯人完封の方が嬉しいぞ」
「……やられたな。だが、見事だった」
「これはある意味勝ち逃げというやつだね。話を通しておいてくれれば、一網打尽も夢ではなかったのに。それだけが残念だよ。
あぁ、勘の働く優秀な部下が挙動不審な人間を捕まえておいてくれるともっと助かるんだけど。……それは望みすぎかな」
握手を求めてくる総長はエルフリートが何をしたのか全て分かっているらしく、笑顔である。そのすぐ後ろに控える副総長はエルフリートの行為が中途半端だった事を嘆いている。
そっか、一網打尽かぁ……。ケリーの嘆きはもっともだとエルフリートは思う。エルフリートは人命優先しか考えていなかった。次の芽を刈り取る事も考えるべきだった。
上に立つ人間として、まだまだ未熟なのだと思い知らされた。
決勝戦だけを応援しに現れていた“エルフリート”が、ちょっと落ち込んだ様子をみせる妹の頭を軽く叩いて苦笑したのは、控え室に戻ってきた時である。誰から聞いたのか、エルフリーデは事情を知っていた。
機密なんだけど誰が教えたのかな。心当たりは……まあ、うん。どうせ共有するし、そういう事だよね。
「あんな大技、失敗したらどうするんだ」
「お兄さまだって、きっと同じ事をしたはずです」
「それは、まあ、そうするかもしれないね」
エルフリートほどではないが、エルフリーデも魔法はかなり使える方である。エルフリートの時よりは控えめだったものの、彼女が生まれた時も似たような現象が起きたのだから。
名前が似てしまったのもそのせいだった。今となってはとても便利で良いなとしか思わないけど。
「何はともあれ、問題が起きなくて良かったよ」
「お兄さまったら」
親愛のキスを額に一つ。エルフリートは“兄”の行動にうっとりと笑んだ。
「ロスも、何にも巻き込まれなくて良かった」
「はは、結局私は何もしなかったよ」
ロスヴィータには頬へ一つ。婚約者同士であれば当然のふれあいで、本来ならばエルフリートがするべき行動だ。
ううん……見た目はもう本当に“エルフリートとロスヴィータ”だから第三者目線で自分たちの姿が見れるのは役得なのかな? でも、あれは妹だしなぁ。
お似合いの二人を見ながら複雑な気持ちになるエルフリートであった。
結局、機転の利く優秀な部下――ブライス隊の面々――が数人を確保してくれたが、実行犯として行動させられた下っ端であった。詳しい事は聞かされていない、金で動くただのならず者だったのだ。
主犯級の人間は一人も捕らえる事ができなかった。が、彼らの目論見は防ぎきった。決勝戦が少々味気ない結果に終わってしまったが、それは許容範囲内だろう。
ロスヴィータの「一合でも良いから剣を交わしたかった」という愚痴にはエルフリートも同意したい所だったが、ぶち壊したのは自分である為何も言えなかった。
会場内の結界を破壊して反則負けになったという事実は、「エルフリーデが気合いを入れすぎてしまった為」という不名誉として民衆へ伝えられた。勝手に行動した罰はそれで相殺される形として処理された。
爆発物の分析や復元を行ったマロリーとルッカは、こっそりと表彰された。功労者であるエルフリートは勝手に行動した罰と相殺された為、表彰はなしだ。
いくつかの不名誉と報償の辞退だけでエルフリートの処罰が済んだのは、存外に軽い処分であった。それだけ功労が大きかったとも言える。
そうしてもっと気軽に楽しめるイベントであったはずの御前試合は、色々な事が複雑に絡み合ってよく分からない内に終わってしまったのだった。
2024.7.6 一部加筆修正




