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小さな騒ぎは、ロスヴィータたちがフリオウィードペアと戦っている時に発生した。彼女たちが不在という状態下でバルティルデはマロリー以下新人二名を引き連れ、現場の状況収拾に努めていた。
小規模爆発が騎士の控え室で発生したのである。爆発物は魔法具で作られていて、特殊な炎を生み出していた。
「マリン、延焼を防げ!」
「ルッカは消火! 一気に鎮火させろ」
「エイミーはそこにいる負傷者二人を救護室へ運べ!」
ルッカの補助魔法を受けたエイミーは両肩にそれぞれ一人ずつ乗せて走り去る。その姿を見送ってから、バルティルデは遠巻きに存在する野次馬を観察した。見知った顔も混ざっている。いずれも貴族で、身内に騎士がいる人間ばかりであった。問題なのは、見知らぬ中流階級の野次馬だ。
参加者は騎士だけの為、犠牲者も騎士だけだ。ここには騎士しかいないはずなのに、どうして一般市民の野次馬がいるのか。小さな騒ぎとはいえ、応援が来ないのも気になる。
まさか、他でも同じ事が起きているのだろうかと不安がよぎる。
バルティルデは気になる事が数多くあったが、動くのを我慢した。現場の最高責任者が場を離れて情報収集をするのは許される行為ではない。情報収集はエイミーに頼むべきであると分かっているのだ。
バルティルデがやきもきしている中、マロリーは結界を張ってすぐにルッカの補助へ加わった。彼女の動きは正確で、あっという間に炎を制御してしまう。
「ルッカ、こういう時は対極の性質で対応するよりも生み出された魔術そのものを乗っ取った方が早いわ」
「はい」
バルティルデは魔法に詳しくない為添削してやる事はできないが、マリンの指導は適切だと思われる。マロリーの制御下に置かれた炎は小さくなって彼女の手のひらの上でふよふよと浮いていた。
ついさっきまで緊迫した雰囲気を生み出していた存在とは思えないくらいに可愛らしい。
「ルッカ、私の手から炎の支配権を奪ってみて」
水を生み出していたルッカの手のひらにも同じような炎が生まれた。現場で勉強会をするなと言いたかったが、幸か不幸か応援はまだ来ない。野次馬からも室内での出来事は見えない。
次があった時にルッカが育っていた方が良いだろうと結論づけたバルティルデは、二人の特訓を後目に鎮火した部屋の検分を始めるのだった。
爆発物だったと思われる破片の位置を記録し、破損した備品の状態を確認する。小規模爆発の割に現場が酷い有様なのは魔法具による炎が原因だろう。
恐らく、爆発物を仕掛けたのは魔法具に込められた魔法の発動条件にする為である。バルティルデは、似て非なる魔法具でできた爆発物を戦場で見かけた事があった。
火薬を使った爆発物とは違い、天候や環境に左右されない。火薬は湿ってしまったらそれまでだが、魔法具であれば関係ない。
バルティルデが戦場で見かけた魔法具は地面に埋め込まれ、動物を関知すると爆発するような仕組みになっていた。
今回は完全室内という事もあり、火薬を使った爆発物を組み合わせたのだろう。火縄の燃えカスらしき痕跡も見つけた。安価に仕上げる為、このような仕組みにした可能性もある。
爆発物を再現する事で、いくつか分かる事がありそうだ。
「マリン」
「何?」
「その炎を分析しておいてくれ。魔法師の痕跡を知りたい」
「任せて」
ルッカと炎の主導権を奪い合う事で使い方を指導していた少女は二つ返事で頷いた。
簡単にルッカから炎を奪うとポケットから取り出したガラス容器にしまう。
封印された炎は不満そうに膨れ上がったものの、すぐにばらけて鱗粉に変化した。ガラス容器を振るとさらさらとした美しい紅の粉が舞った。
「魔法師団の方が得意だと思うから、彼らと並行して調べるわ」
「頼んだ」
すぐに立ち去るかと思われたマロリーは、じっとバルティルデを見つめる。
「どうした?」
「その爆発物、再現するんでしょう? 私にも手伝わせて――と言いたいところだけど、ルッカにやらせてみたらどうかしら。ルッカは魔法具づくりが趣味よ。きっと良い経け……じゃなかった、役に立つわ」
マロリーに推薦されたルッカは無言で腕に着けられた魔法具をじゃらじゃらと遊ばせた。彼女も乗り気なようである。バルティルデは頷いて見せ、最初の指示を出した。
「分かった。じゃあルッカ」
「はい」
「爆発物を構成していた物だけ、このハンカチの上に集めて」
バルティルデの言葉が終わらない内に、彼女がテーブルの上に広げたハンカチへとクズが集まり始めた。その様子を確かめたマロリーはバルティルデに容器を持った片手で挨拶をすると、魔法師団と共に証拠品の炎を分析するべく背を向けた。
ルッカは優秀で、すぐに爆発物の破片を集め終えた。どうやったのかと聞けば、魔法具特有の痕跡を目印として収集する簡単な魔法なのだと教えてくれた。ついでに魔法具の核となっていた宝石も見つけてくれた。幸運にも宝石は破壊されていない。
証拠隠滅の為に魔法が解放されたら破壊されるように仕組まれる事が多く、残っている事は稀だったりするのである。一つ証拠が増え、見えぬ相手を追いつめるのに一歩近づいた。
「復元はできそうか? まずは形だけで構わない」
「試してみます」
ひと欠片でも落ちないよう、丁寧にハンカチで包み込んだルッカはしっかりと頷いてみせる。見かけは派手だが中身は堅実、そんな彼女の事だ。この様子なら自信があるのだろうと踏んだバルティルデは小さく笑みを返した。
2024.7.6 一部加筆修正




