6
キャンベルジークペアの狙いは、ジークによる長い詠唱を必要とする魔法攻撃だろう。キャンベルがロスヴィータとエルフリートの攻撃を両方とも受けた事から導き出した彼は、当たったらラッキーとでも言うかのような軽い攻撃をジークへと仕掛け始めた。
エルフリートのふざけた態度を諫めようと思ったロスヴィータは彼の戦い方に隠された狙いに気が付き、考えを改めた。
……エルフリートは騎士団で指導される方法を取らず、キャンベルの体力を徐々に削りつつジークの集中力を波立たせるつもりだ。
騎士団では、前衛を先に集中して叩く事が推奨されている。理由は簡単で、基本的に後衛への攻撃が当たりにくいのと、前衛がいなくなれば後衛が簡単に瓦解してしまう事が多いからである。
特に、この国の騎士団は魔法騎士がそこそこいて、前衛として活躍できる人材も少なくはない。戦争において、前衛を少ない時間で排除するだけの能力に自信があるという事も大きい。
大規模な魔法を発動させる為の詠唱を途絶えさせる為に攻撃するよりも、総崩しを試みる方が楽なのだ。一般的な仮想敵国と同じような組み合わせとなっているキャンベルとジークへの対応は、キャンベルを二人で攻め落とすというのが正しい。
普通の騎士であれば、そうするはずだ。だが、エルフリートはそれを選択しなかった。
――まあ、後衛が手の届く位置にいるしな。
ロスヴィータはキャンベルの片腕を相手取りながら、器用にも左手に剣を持ち替えたエルフリートと共に攻めた。
キャンベルの成長ぶりはすごい。ロスヴィータは汗がにじみ出てくるのを感じながら防がれて競り合う剣を引いた。相変わらずジークを狙うエルフリートの攻撃をいなし、ロスヴィータの剣を受ける。
だが、ジークの詠唱は長い。何をしようとしているのか不安に思うほどだ。
これほど長い詠唱ならば、大技になるはずだ。相手の攻撃威力は分からない。
たぶん、エルフリートがどうにかしてくれると思う。浮かんできた不安に気が付かなかったふりをしてロスヴィータはエルフリートの剣を受けた直後のキャンベルの足下を狙った。
足蹴が決まるか決まらないかといった瞬間、キャンベルが一歩下がった。避けられたと思うがままに剣を振り上げる。不安定なまま剣を受け止めた彼は少しよろめいてジークに支えられた。
ジークがこちらを見つめている。
来る! ロスヴィータは感覚だけで飛びずさった。エルフリートも何かを感じたらしいがロスヴィータよりもキャンベルに近い位置で止まる。
「我が眷属よ、その炎をまといて進撃せよ」
玲瓏とよく響く声がジークの口から発せられ、その指先から火の玉と言うには大きな業火が生まれた。その炎はキャンベルを巻き込んで吹き出した。
「勇敢なる熊の名を持つ女神よ、我らが小熊を守れ!」
「あっつぅっ!?」
魔法の炎は完全魔法耐性を持つキャンベルを燃やしはしなかったが、熱で苦しめた。エルフリートはそんな彼と自分の間にクエレブレのブレスを見事防いでみせた保護膜を生み出し身を守る。
放射され続ける火炎はひたすらキャンベルを熱し、エルフリートの保護膜に吸収されていく。不思議な光景、いや、普通ではない光景にロスヴィータは戦意を喪失してしまいそうだ。
「仲間を巻き込むとは、恐ろしい」
「ロス、完全には熱を遮断できないから暑いよ?」
エルフリートに近付けば、確かに熱気が強く感じられる。
本来ならばのんびりと会話をしている場合ではないが、魔法師の片割れが炎の熱さに身悶えている今、炎が消えるまでは待っているしかない。
ロスヴィータたちですら焼けそうなほどの熱を感じるという事は、キャンベルの方はもっとすさまじいだろう。どう転んでも魔法が彼を憂き目に合わせる運命らしい。魔法嫌いの宿命だろうか。
「……キャンベルの為にも、炎が終わったら一気に終わらせよう」
「そうだね」
それにしても威力はすごい。エルフリートがいなかったら医務室直行コースだった。「親切なジークさん」が作り出す魔法とは思えない。これは「手段を選ばないジークさん」の間違いではないだろうか。
「うぐぁ……あっついぃぃ……!!」
ロスヴィータは熱いと悶え苦しむキャンベルを火炎越しに見ながら、同情の視線を送る。
熱いだけなのだから逃げれば良いのに……と思ったが、キャンベルが叫びながらも剣を構えている姿から、ジークを守るという強い意志を感じる。すさまじい根性だ。
騎士らしいと思えば良いのか、ただの被虐趣味的なものと思えば良いのか悩むところである。……いや、これは手段を選ばぬ相手を相棒にしてしまっただけか。
でもキャンベルはジークが親切だと思い込んでいるようだしな。時折エルフリートと顔を見合せつつ、火炎を見守る事数分。
「勝者、ロスヴィータエルフリーデペア」
火炎が消える頃には、キャンベルの精神力も燃え尽きていた。戦闘不能な彼を放置し、キャンベルの首筋に剣をあてるだけで勝者が確定。
そうしてキャンベルの新しい一面を知り、彼の不憫さに同情する試合は無事に終了するのだった。
華麗な戦闘を見せるはずだったのだが……そう思ったのはロスヴィータだけではないだろう。
2024.6.30 一部加筆修正




