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新人の善戦ぶりを見ながら順番待ちをしていたバルティルデとマロリーは、会場内の小さな違和感に首を傾げた。
「なあ、今の見えたか」
「ええ」
ナンパをする騎士に、おびえた様子を見せながらもついていく女性が二人の視界の隅に入っていた。二人が違和感を覚えたのは女性の方だった。
「男の方が誘導されていたよな」
「私、ちょっと見てくる。補助魔法を使えばすぐだから」
「分かった。任せるよ」
試合までは少し猶予がある。マロリーは二人が消えていった方向に足を向けた。
「あんたねえ、人間のくずなのよ!」
「ちょっと顔が良いからって! 私たちを弄ぶのもいい加減にして!!」
果たしてマロリーが見たものは………修羅場だった。二桁にもなる大人数の女性に壁際へ追いやられ、あろう事か騎士がタコ殴りにされている。
「うわぁっ、ごめっ、本当にごめんっ!」
「そんな気持ちがあんたに生まれていたなら、私たちはここにいないわっ」
これは、同時に全員とおつきあいしていたという事だろうか。マロリーは痴情のもつれには詳しくない為、痴情のもつれだろうという認識の他に状況を読みとる事はできなかった。
「さっきだって、ちょっと嫌がる私をむりやりナンパし続けてたじゃない」
「だって俺の好みだったんだ。こんなトラップだって知ってたらナンパしなかったさ!」
「あんたは女性の敵よ、敵!」
スカートがまくれるのも気にせず、彼女たちは騎士を足蹴にし続ける。おそらく全面的に男の方が悪いのだろうが、さすがに私的な制裁はまずい。
このままでは女性たちの方が悪者になってしまう。
「はい、そこまで」
すっと男の周囲に結界を張ってやる。逃げられたら困るから、移動不可型の結界にした。ある意味拘束したとも言う。
「あなたたち、犯罪者になりたくないなら、後で女性騎士団員である私に嘆願書を書いて持ってきてください。この騎士は、それまで勝手な動きをしないように拘留しておきますので」
「俺は被害者だっ」
「あなたの安全の為でもあるのよ。このまま蹴り殺されたいならどうぞ」
「ぐ……」
騎士ともあろう人間が情けない。この人数に遅れをとって一方的にされるがままとは。マロリーは男を上から見下ろすと立ち上がるように言った。
「はい。解散!」
腹に力を込めて発言をすれば、女性たちはちらちらと名残惜しそうに――まだ蹴り足りないらしい――男を振り返りながら去っていった。
「――さて、あなたはどこの隊所属かしら?」
魔法で作り出した縄で縛り上げながら、マロリーは男に問いかけた。
「バティ、お待たせ」
「どうだった?」
もうすぐ試合の順番、という所で何とか間に合ったマロリーをバルティルデがほっとしたような顔で出迎えた。
「痴情のもつれだったわ。騎士の素行が悪かったみたいだから、縛り上げて本人の上司に預けてきた。後で女性側からの嘆願書を受け取る事になったけど……あの男は自業自得ね」
「そうか」
「蹴り殺されそうになってた。心身ともに騎士にふさわしくなかった。なさけない」
入団できたのが不思議なくらいである。マロリーはため息を吐いた。
ぽん、と慰めるかのようにバルティルデに肩を撫でられる。
「ま、あんだけの人数がいりゃ、何人かはクズも紛れ込むさ」
「……それもそうね」
「それより順番みたいだ」
点呼の声が聞こえ、二人は試合へと赴いた。今回の相手は前衛同士のペアだ。仕事でも一緒になった事のない、全く知らない相手だった。二人の武器は共に長剣で、構えは一般的な騎士の構えである。
マロリーはレイピアを構え、バルティルデに目配せした。バルティルデは大剣を適当に構えて頷いてみせる。
試合開始の合図に合わせ、二人は動いた。初手必勝である。限られた狭い空間で何合も剣を交えようとするのは悪手だ。速度増加に筋力増強の補助魔法を重ね、マロリーとバルティルデはそれぞれの相手との距離を一気に詰めた。
女性騎士団員は人数が少ない為、誰が何を得意としているのかといった簡単な情報は知られている。魔法と剣を両方扱うと知られていたからか、マロリーの初撃は難なく防がれてしまう。
バルティルデの方は、初撃を正面から防ごうとした相手がそのまま場外すれすれに吹っ飛ばされていった。バルティルデの戦いは気にしなくて良いだろう。
「ふっ!」
相手は防いだ剣に体重をかけてマロリーを押し切ろうとする。その剣に弾き飛ばされればマロリーの負ける確率はぐんと上がってしまう。
それを見越しての動きである。
マロリーはそれに反抗するように見せかけ、さっと力を抜いて姿勢を下げた。剣に体重を乗せていた騎士の体は重心がずれて体勢が崩れてしまう。その瞬間、マロリーは地面に手を突いて回し蹴りを決めた。
左の手足を軸にして回転させた右足は、相手の脛にクリーンヒットした。バランスを崩して右半身から大地に激突した相手の腹部に右膝を乗せ、レイピアを首もとに突きつける。
「参りました」
マロリーが足をどけて彼を立ち上がらせている内にバルティルデが戻ってきていた。彼女は場外すれすれで耐えた騎士が体勢を立て直す前に一撃加えて反則負けにしてしまったようだ。
バルティルデの後ろで手がしびれてしまったらしい騎士が、腕をさすりながら気まずそうな顔をしている。
「ありがとうございました」
互いに握手を交わし、試合は終了。目標まであと六試合、まだまだ先は長い。
2024.6.30 一部加筆修正




