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久しぶりの町歩きという名のお忍びデートはとても充実していた。エルフリートはロスヴィータにエスコートをしてもらいながら嬉しそうに彼女へすり寄った。
「今日はすっごく楽しかったぁ」
「本当に良い一日だったな」
「うん!」
お揃いのリボンを買ったり、露天で買った飲み物をエルフリートが魔法で適度に冷やして一緒に飲んだり、小物を買ったり。途中でレオンハルトとエルフリーデの二人組に遭遇するというおもしろい出来事もあった。
見た目は男二人の親友同士、中身はエルフリートの妹とエルフリートの親友だ。偶然にも雑貨屋で遭遇した二組は、互いを見て笑い合った。
エルフリーデが、エルフリートが期待する以上にエルフリート役をうまくこなしていてくれてとても頼もしいと感じたし、親友と自分の妹が仲良くしているのは純粋に嬉しかった。
「レオってば、すごく変な顔してた」
「レオン」
「あっ、しまった。レオンってば」
「ふふ……気をつけてくれよ?」
エルフリーデの時はレオン、エルフリートの時はレオ。――ううん、ややこしい。去年の方が間違えなかったのに。どうやらエルフリートは気がゆるんでいるらしい。
気のゆるみは一番の敵なのに。むむ、と唇を尖らせればロスヴィータがその唇を人差し指でむにっとつついた。エルフリートのふっくらとした唇が沈み込む。
「エルフリーデが彼をレオと呼べる仲になれば楽だが……そうなるとエルフリーデは私だけの妖精さんではなくなってしまうから困る」
「え? 私が楽になる為だけに二人をくっつけるなんて、さすがにそんな非道な事はしないよ?」
ロスヴィータの突拍子もない言葉にエルフリートは目を見開いた。エルフリーデとレオンハルトの関係は絶妙である。エルフリーデからすれば兄の親友、レオンハルトからすれば友人の妹だ。
親友同士にランクアップするより、婚約者に仕立て上げた方が真実味が増す。だが、それはある意味二人の将来を決めてしまう可能性も秘めている。
ロスヴィータを守る数年間の為だけに勝手をするわけにはいかない。まあ、確かにちょっとは思ったけどね。……親友なら妹を任せても良いかなって。
「フリーデがよく分かっていない事がよく分かった」
「えええ?」
話がいまいちかみ合ってなかったみたい。しかしロスヴィータはその齟齬を訂正する気はないらしく、首を横に振って笑う。
「いや、良いんだ。あなたがこの瞬間、私だけの妖精さんなのは事実だから」
「ロスが王子様すぎてつらい。かっこよすぎて、何を話してたかもう分かんない」
勝手に完結されちゃうのは何か嫌なんだけど。エルフリートはそう思いながらも至近距離で流し目をされたら他の事を考えられなくなってしまった。
夕闇のせいでほの暗く色づいた新緑がこちらを覗く。元々の色味が歩くたびにちらちらと光る。煌びやかな金糸も好きだが、エルフリートは何よりもこの碧眼がお気に入りである。うっとりと、何時間だって見ていられる。
エルフリート自慢の婚約者は、とても凛々しくてかっこいい。一部の人間が男装する彼女を変人扱いしたりするが、似合う姿で生活する事のどこが変なのか説明して欲しいくらいだ。それに、そんな事を言ってくる人間に限って、自分自身と身につける物が見合ってなかったりするものだ。
直接エルフリートの耳に入るような失態をしたら、ぜひとも論破して跪かせてやりたいと思っているエルフリートだったが、残念ながらそういった人間とはまだ巡り会えていない。
汚い言葉を聞きたいとは思わないから、それはそれで良いんだろうけど。
……それにしてもかっこいいなぁ。エルフリートは脱線していた思考を元に戻した。
見た目だけではなく、中身だって王子様気質な彼女は、いつだってエルフリートの幸せそのものだ。
このままずっと、こうして一緒にいられたら良い。エルフリートはいつか女装が似合わなくなってしまう時がきてしまうだろうけれど、それまでは。こうして幸せな時間を重ねたい。
「フリーデ」
「なぁに? 私の王子様」
「また、二人で出かけよう。馬で遠乗りに出るのも良いな。完全に二人きりになれる」
「贅沢すぎる。嬉しい」
ロスヴィータの腕に巻き付けば、彼女は目がつぶれてしまうのではないかとエルフリートが本気で心配になるほどに輝いた笑みを返した。
「次にゆっくりできるのはいつかなぁ」
「御前試合が終わってからじゃないか? 我々は優勝を目指すのだから、休んでいる暇なんてないぞ」
「ふふ、そうだね」
早く御前試合の日にならないかな。そこで頑張って優勝してロスヴィータと遠乗りする。エルフリートの『やることリスト』は常にいっぱいだ。少ししか残っていない隙間に遠乗りを加えた。
エルフリートが遠乗りに行くならどこが良いだろうかと真剣に悩んでいる姿をロスヴィータが穏やかに見つめる。その光景はどこからどう見ても恋人同士の姿だった。
2024.6.29 一部加筆修正




