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妖精と王子様のへんてこタンゴ(へんてこワルツ2)  作者: 魚野れん
戻ってきた“エルフリーデ”とやってきた“エルフリート”
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 久しぶりの光景だなあ……なんてね。

 エルフリートは再び女装姿で寮を見上げていた。休暇をもぎ取って来たというロスヴィータは早々に王都へと戻っていった。その後を追うようにして荷造りをしたエルフリートは所定の手続きの後、カルケレニクス領から飛び出した――と、言いたいところだが。

 少々準備をする事になってしまい、ロスヴィータが王都へ戻ってからこれまでに一月近く経ってしまっていた。


 領主の仕事引継関連は問題じゃなかったんだけどねぇ。


 馬車の中、隣に座っていた少女を思い出す。自分そっくりの妹、本物のエルフリーデはエルフリートの姿をしていた。彼女はしばらく王都の屋敷で過ごすのである。エルフリートとして。

 確かにエルフリーデはエルフリートの身代わりになれるくらいにそっくりだ。それもそのはず、エルフリートがエルフリーデをまねている間、エルフリーデはエルフリートのまねをする事もあったのだから。


 二人が互いに似るようにして過ごす内に、本当にそっくりになってしまった。本気で女装したエルフリートがエルフリーデと並んでも、本気で男装したエルフリーデがエルフリートと並んでも、かなり親しい人間でなければ見分けがつかないだろう。それくらいに似ていた。

 エルフリート不在の一年間、来客の際にはエルフリーデが代わりにこなしていたが何事もなかったと言えば想像しやすいだろう。

 そんな彼女の準備もあり、そこそこの日数が必要となってしまったのであった。

 

 エルフリートの姿のまま屋敷へと向かうエルフリーデと別れたエルフリートは、エルフリーデの姿で騎士団寮へと戻ってきたわけであるが。部屋は前回とは異なり、ロスヴィータと同じく管理職側の部屋になる。

 ……というか、隣の部屋なんだよね。エルフリートは馴染みのある方向へと進む途中でこれから夜勤らしい騎士とすれ違う。

 親しげな声かけに笑顔で応酬していたが、管理職の部屋が近づくと一気に人気がなくなった。これもいつもの事だ。既に懐かしい気持ちになっていたが、目的の場所へとたどり着いてしまい、気分は引っ込んだ。

 さて、副団長の部屋はどんな感じかな――っと。


「遅かったじゃないか、フリーデ」

「ロス!」


 部屋に入るとロスヴィータがくつろいでいた。エルフリーデらしさを表現する為の雑貨類が入れられた木箱に囲まれているが、それすら彼女を凛々しく見せるオプションのようだ。

 正式に女性騎士団の副団長となったエルフリーデの任期は残り三年。その間にエルフリーデが男だと誰にも悟らせてはならない。三年間ともなれば、自室に誰かを呼ぶ事は多々あるだろう。

 社交的な性格の“彼女”ならば、誰も呼ばずに三年間を過ごす事などありえないのだから。特定の人間――正体を知っている数人――だけを呼ぶという手もあるけど、それじゃあちょっと不自然だもんね。


 寝室とバスルームつきの豪華な部屋は、役職持ちの特権らしい。前年を寮のシャワールームで緊張しながら過ごしたエルフリートからすれば、一番の僥倖である。

 シャワールーム……女性専用って場所を作ってもらったし、人数も少ないからかち合う事は滅多になかったけど、すごく気疲れしたんだよね。常に幻影まとってなきゃいけないのに、同性だからってバルティルデは少しも隠そうとしないんだもん。自分の視界に入れないようにするので大変だったんだ。

 しかも正体がばれてからも変わらないし。特に脱衣室は気まずすぎたよ。言われもないケチをつけられるよりはマシなんだろうけど、男としては色々複雑だったなあ。


「鍵の引き渡しを兼ねて、荷解きを手伝おうかと思って待っていたんだ」


 懐かしい思い出に浸っているエルフリートを気にせず、ロスヴィータがそう言いながら室内を案内し始めた。バスルームは豪華にもバスタブつきだ。ゆっくり肌が磨けそう。


「まあ、私の部屋と反転していると考えてくれ――って言ってもフリーデはリビングしか見た事なかったな」

「うん。わぁ……思ったよりも寝室広いね」


 ロスヴィータの部屋に入る時は打ち合わせをする時だったし、エルフリートが女性の寝室に入る非常識な人間でもない。

 ロスヴィータに促されるようにして入ったこの部屋は、セミダブルのベッドが一つにウォークインクローゼットがついている。小さめだけど机と椅子まで置いてある。


 この部屋だけで、近衛騎士の一人部屋に匹敵するのではないだろうか。

 完全に貴族向けの部屋である。ボリュームのあるドレスは収納できそうにないけど、男性貴族ならそこそこ妥協できるくらいの大きさがあるクローゼットが特にそれを物語っている。


「これでも狭め、だそうだ。“お貴族様”っぽくて、私はそういう考え方はあまり好きではないな」

「生活できれば、私はなんだって良いや」

「フリーデらしい」

「えへへ」


 誉められて嬉しくなったエルフリートはふにゃりと笑う。さっそくリビングへと戻った二人は荷解きを開始する。何もかもが女性物だから、見られてもぜんっぜん恥ずかしくないもんね。


「ある程度済んだら、フェーデとご飯だからね」

「ああ、分かっている」


 畳まれていた衣類のしわを伸ばしたらクローゼットにしまう。小物類はロスヴィータに適当に置いてもらい、後で整理する。

 エルフリートがロスヴィータが去った後の話をしている内に簡単な荷物整理は終わってしまうのだった。

2024.6.28 一部加筆修正

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