表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

何もかも、すべては賢人のせいだ。本当は違うけど。

 その日を境に、朝倉先輩からの連絡が途絶えた。冬休みが終わっても、先輩は学校へこなかった。


 家にも会いに行ったが、本人が会いたくないということで、門前払いを受けて、なしのつぶてだ。

 どうやら私の恋は、またしても始まる前に終わってしまったようだ。


 藤堂が三杯目のご飯をしゃもじですくっている姿を見て、姉が眉をひそめる。


「食べ過ぎじゃない。この前せっかく買ったワンピース、着られなくなるよ」

「もういいの。着ていくチャンス自体が消えたから」


 私は、いつもより多めの晩御飯を平らげると、イライラしながら部屋に戻った。文句の一つも言わないと気が済まない。


 ベッドに倒れ込むと、電話の向こうにいる賢人に向かって、八つ当たりをすることにした。


「賢人のせいだからね」


 私の体重が増えたのも、年明けの模試の成績が悪かったのも、何もかも、すべては賢人のせいだ。本当は違うけど。


「お友達とやらと行くはずだった、初詣はちゃんと終わっただろう。何が問題なんだ」


 賢人はわかっていて、とぼけるつもりのようだ。


「きっと朝倉先輩が、引きこもりになっちゃったのは、あの日、賢人が余計なこと言ったからでしょ」

「僕は事実を確認しただけだ」


「世の中にはいくら事実でも、言わないほうがいいことがあるの。一緒に謝りに行って」

「そんな必要はない。だいたい僕は、これから予定があって忙しいんだ。そっちに戻っている暇なんてない」


 どうやら切り札を出すしかなさそうだ。


「なら賢人が、我が家での会話を、勝手に録音していた件に関して、いくつかお聞きしたいことがあるのですが」

「……何の話だ」


「しらばっくれても無駄です。証拠はあがってるんですよ。前に賢人が、女子高生キャラのAIを作るために、サンプルが必要とか言ってたけど、まさか断りもなく私を実験台にしてたなんて」


「なんのことだか、さっぱりわからないな」


「ロールケーキの話、お姉ちゃんと私しか知らないはずだし、その話をしたのは賢人がいない場所なのに、おかしいと思って確認したら、お姉ちゃんは賢人には教えてないっていうし、まさかと思って調べたら出てきましたよ。賢人が送りつけてきた、猫型ペットロボの首輪から謎の装置が。今回わざわざ帰ってきたのも、野暮用があるって言ってたのも、これを取り付けるためだったんじゃないの」


 しばらく沈黙が続いた。さすがの賢人も動揺しているのかもしれない。……なんて思ったが、それは杞憂だったようだ。


「お前の推理は、破綻している。僕が猫型ペットロボを、お前に渡したのはいつだ」

「……年末だけど」


「ならロールケーキを食べたのは、いつだ」

「藤堂さんが、慰安旅行に行った時……」


 電話の向こうで、賢人が鼻で笑ったような声がした。


「もし仮に、僕がロールケーキの話を知っているのが、その盗聴器のせいだというのなら、旅行より前に、猫型ペットロボが家にいなければいけない」


「……あっ」


「だがそれはありえない。ここまでは、いくらバカなお前でもわかるよな」

「いちいちバカにしなくていいです」


「お前の論理を証明しようとしたら、その盗聴器が時空を超えて、過去の音声を収集できる、SFロマン装置でないとおかしいことになる。いくら僕の頭が良くても、そんなものは作れない」


「自分で頭が良いとかいうの、嫌な感じだからやめたほうがいいよ」

「事実を言っているだけだ。何の問題がある。少なくともお前よりは、頭が良いのは変えようのない真実だ」


「でも、ロールケーキの話は別としても、今回のこの謎装置が盗聴器っていうのは、変えようのない真実だと思うんですけど。だって私は『謎の装置』としか言ってないのに、賢人は『盗聴器』って言ったよね。それ自白と捉えてよろしいでしょうか」


 電話の向こうの賢人は沈黙した。さすがに物的証拠だけでなく、言質まで取ったのだ。もう言い逃れできないだろう。


「……研究のためだ。何の問題もない」

「問題あるよっ」


「赤の他人に頼むわけにもいかない。今時の女子高生の会話データが、どうしても欲しかったんだ。しょうがないだろう」

「だったら、前もって申告してから、データとればいいでしょ」


「それは無理だ。自然なデータが欲しいのに、意識されたら棒セリフになってしまう。小学校でお前がやった『赤ずきん』の演技ひどかったぞ」


「それ今関係ないでしょ。いろいろ大事なこと忘れてるくせに、なんでそんな、どうでもいいことは覚えてるのよ」


 しまったと思ったが、口に出してしまった言葉は取り消せない。


「……ごめん」


「悪いと思うなら、盗聴器は見なかったことにしてはもらえないだろうか。まだ研究が途中なんだ。多少演技くさくなるというリスクを犯しても、もう少しデータが必要だ」


 深く心を傷つけたかもしれないと、心配した私がバカだった。賢人もまた、タダの研究バカだったようだ。


「それとこれとは、話が別です」

「少しは技術の進歩に役立ててもらいたいという、気持ちはないのか」


「あるわけないでしょ。なんなら今すぐ警察に通報してもよろしいですか。家族の中にストーカーがいるって。きっとお姉ちゃんも泣くよ。大事な家族が警察に捕まったりしたら」


 電話の向こうにいる賢人が、再び沈黙している。しばらくしてから、ようやく決心したのか、押し殺したような声が聞こえてきた。


「わかったよ。今からそちらに帰る」


 賢人が変態シスコンだということは、重々承知していたが、まさかここまでとは。やっぱり賢人は頭は良いがバカだと思う。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ