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9 カラーコブラ



「どうした? すげぇ顔色だけど」

 いつもの冒険者ギルド併設の食堂に寄ったポールとアンナは、席に着くなりテーブルに突っ伏していた。

 満身創痍とは、この事なのかもしれない。

 それを見たギルドマスターが、苦笑いしながら声を掛けたのだ。



「燃え尽きた」

「死ぬかと思った」

 ポールとアンナは、死の恐怖を改めて知る1日となっていた。

 もう、2度とあんな目には合いたくない。

 自由に動けるって幸せだね?

「大袈裟な。ミクリちゃんは元気じゃねぇか」

 ギルマスは呆れて笑いをしていた。

 一緒に行った小さなミクリは、ピンピンしている上に楽しそうにしている。

 なのに、大の大人が揃いも揃って何を言っているのだと。

「「……」」

 化物チートと一緒にしないでくれと、2人は喉から出かかったが辛うじて飲み込んだ。

 一応、ミクリの前だから配慮したのである。



「クリューはどうしたよ?」

 一緒に行ったハズのクリューがいない事に、ギルマス達が気付いた。

 キョロキョロと辺りを確認するが、やはりいなかった。

「あぁ、クリューさんはーー」

「ウンコしにいった」




 ーーブフッ。




 ポールが応えようとしたら、それに被せる形でミクリの可愛い声が乗った。

 聞き耳を立てていた冒険者達は、もれなく食い物を吹き出していた。

「お前の父ちゃんは、良くウンコをするなぁ」

 ギルマス達は、腹を抱えて笑っていた。

 トイレはここにもあるのだから、絶対に違うと想像出来るが、ミクリの返答が面白くて仕方がないのだ。

「それがパパのしごと」




 ーーブフッ。




 先程耐えていた冒険者も、堪らずに噴き出した。

「そ……そりゃあ、大変な仕事だな」

 想像でもしたのか、ギルマスは笑い転けていた。

 そんな仕事があったとしたら、尻が悲惨な事になるだろう。



「あ、そうだ。みんなにイイものをみせてあげる」

 楽しそうにそう言うと、ミクリは椅子からよいしょと降りた。

「「イイもの?」」

 ギルマスだけでなく食事に来ていた冒険者からも、なんだなんだと声が上がる。

 食事の手を止めて、小さなミクリの手元を見ていた。

 木の実か石でも、採って来たのかな? と。



 皆が目を細めて見守る中、ミクリは鼻歌を奏でながら、空間魔法から何やら蠢くモノを取り出した。

「ヘビダンゴ」




 ーーブフーーーーッ!?




 冒険者達は、全員口の中のモノを盛大に噴き出した。




「ンギャーーッ!!」

 アンナは見た途端に、手に持っていたグラスを放り投げ、ものスゴいスピードでテーブルの上に飛び乗った。

「それ、アカンやつーーっ!?」

 ポールは目にも止まらぬ速さでミクリを抱え、同じく近くのテーブルに飛び乗った。

 そうなのだ。

 ミクリは木の実や石なんて可愛いモノではなく、獲りたてホヤホヤのカラーコブラのヘビダンゴを、ポイッと床に投げたのだ。

「「「!?」」」

 全員が一瞬、その蛇を見て時を止めた。

 ミクリが、生きた蛇を出すなんて思わなかったからだ。

 そのヘビダンゴは、ミクリの魔法など既に解けていた。

 なので、床に置いた途端にシャーシャー不気味な声を上げながら、アチラコチラと蠢いている。



「「な、なっ!?」」

「ヘ、ヘビダンゴって、マジで蛇じゃねぇか!?」

「し、しししかも、カ、カラーコブラだと??」

「皆、テーブルだ!! テーブルの上に乗れ!!」

 和やかだった食堂は、一変して緊張感漂う異様な空間となり変わった。

 ヘビダンゴなんて、可愛らしく言うものだから、皆はてっきり肉ダンゴの延長上のモノだと楽観視していた。

 なのに、目の前に出て来たのは、蛇の塊だった。



「「「イヤぁぁアアーーッ!?」」」

 厨房や食堂にいた従業員の女性達は、叫び声を上げてギルドへの扉へと一目散に逃げて行った。

 食堂は暖かいのか、蛇の塊はすぐに解けウネウネ、シャーシャーとしながら異様な速さで床を這って行く。

 


「テメェら、それでも冒険者か!! さっさと退治しやがれ!!」

 ギルマスはアチラコチラにいる蛇を指差し、冒険者全員に叫んだのだ。

 皆が皆、一斉にテーブルや椅子の上に飛び乗ったからだ。

 魔物を狩り獲る冒険者だろうがと、喝を入れた。

「退治だとーーっ!?」

「退治もへったくれもねぇんだよ!!」

「ギルマスこそ、とっとと逃げてんじゃねぇよ!!」

 冒険者達は、こぞって抗議を出した。

 ギルマスがカラーコブラを見た瞬間、誰よりも早くカウンターの上に飛び乗ったのである。

 指示する以前に、冒険者を守ってこそのギルドマスターだろうと、一斉にブーイングした。



「うるせぇ! 黙れ!! "緊急クエスト" を発令する!!」

「ふざけんなーーっ!! 何が緊急クエストだ!!」

「んな発令があるか!!」

「アホか!? アホなのか!?」

「黙れっつってんだろうが!! 冒険者が蛇ゴトキで逃げ回るんじゃねぇよ!!」

「「「蛇ゴトキって言うなら、お前が倒せよ!!」」」




 ギルマスと冒険者達は、揉めに揉めまくっていた。




「まだ、ある」

「「「出さなくてイイからーーっ!!」」」

 ミクリがさらに出す仕草をしたので、皆は一斉に叫び声を上げていた。

 ただでさえ、パニック状態なのに、これ以上増やされたら困ると叫んでいた。





 ◇◇◇




 そんな状況になっている事を知らないクリューは、金糸鳥とワイバーンの解体をして貰った後、トイレにいた。

 ミクリの言う通りであったのだ。



 しかし、解体場はギルドの裏。ギルド併設の食堂の近くにある。

 バタバタ、ザワザワとすれば、嫌でも耳に入ってきた。

 蛇がどうとか、カラーがどうとか。

 タイムリーな言葉に、クリューはピンと……いや、血の気が引いた。ミクリが何かしたに違いないと。




「出たくない」

 すでに用を足し終えたクリューは、開けようとしたトイレのドアを、再び閉めた。

「私ハ腹ヲ壊シテ出テコレナイ」

 ミクリのやらかした恐怖から、とりあえず逃げたいクリューなのであった。







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