20 懐かしい思い出
ご無沙汰し過ぎて申し訳ないなと、思いつつ…(`・ω・´)へへ
ーー次の日。
「ひっ!」
朝早くに目が覚めたクリューは、小さな悲鳴を上げた。
何故なら、クリューの枕元で正座したミクリが覗き込んでいたからである。
目を開けた時に、眼前に人の顔がある恐怖。ミクリと生活していると、心臓がいくつあっても足りない。
「……何してるのかな?」
「パパのかおをみてた」
「えっと、何故に?」
「うんうんいってたから」
「……」
それって、魘されていたって事だよね? 見てないで起こしてくれないかな。
クリューは苦笑いも出なかった。
「パパ、かおからシルでてる」
「"汗"って言って」
汗も汁も字は似てはいるけど、身体から汁を出すのは人間じゃないから。
事実、魘されていたのだろう。スゴい寝汗を掻いていた。
クリューはガウンの袖で汗を拭いながら、ゆっくりと起き上がった。
もう少しゆっくりしていたいけど、ミクリに何されるか分からない。もう起きた方が安心だ。
そうクリューが考えながら、バスルームに向かうとその背に可愛い声がした。
「ミクリ、ミソシルがのみたい」
「……」
何故、この会話の後で味噌汁を飲みたくなる。
ミクリの頭の中の構造を、1度見てみたいものである。
◇ ◇ ◇
着替えが済めば、いつもの様に、冒険者ギルド併設の食堂に来ていた。
朝早くから、新規依頼が貼られる事もあるから、ギルドは賑わっているようだ。
クリューはその争奪戦に加わる予定がないので、横目に食堂へと向かった。
「クリューさん。おっはぁ〜!」
「ミクリちゃん、おはよう」
先に朝食を食べていたポールが、クリューの姿を見つけると手を振っていた。
その隣には、珍しくアンナもいる。
訊けばソロ同士で気が合うのか、会えばたまに一緒に食事を摂っているとか。
「ミクリちゃん、プリンセスマンゴーのジュースがあるよ?」
店員のマリアが、ミクリを見た途端に勧めた。
プリンセスマンゴーって、名前を聞いただけでも高級そうだ。
お金を持っていれば、年齢など関係ないらしい。値段が高い物を勧めるマリアはエゲツない。
「もらう」
「ありがとうございます!! ミクリお嬢様!!」
金銭感覚が壊れているミクリが考えもなしで即答すれば、マリアは上機嫌で厨房へすっ飛んで行った。汚い大人が、ここにいる。
どういう教育をしているんだと、クリューはカウンターの隅で朝食を摂るギルドマスターを見た。
幼子にあり得ないくらいエゲツない。そこは大人が止めるべきではないかと。だが、目を逸らされた。
「イイんすか?」
止めないクリューもクリューではないのかと思いながら、ポールが言う。
確かに、カラーコブラを売ったお金がある。だけど、こんな使い道でいいのかと親代わりのクリューに訊きたくなったのだ。
「良くはナイ。だけど、稼いだのはミクリだし。計画性を教えたいけど、どう説明したものかと」
「「確かに」」
ポールとアンナは苦笑いしていた。
自分で稼いだと言われたら何も言えない。
だが、計画性と言ってもまだ意味が分からないだろう。
クリューの苦悩など微塵も理解していないミクリは、お高いジュースをゴクゴクと飲んだり、金糸鳥の目玉焼きにカブりついていた。
美味しそうにニコニコと食べるミクリは、とにかく可愛い。
……が、朝食の値段は可愛くない。
金銭感覚はすでに崩壊しているが、まだ戻せる余地はある。クリューはお小遣い制にするべきではと、本気で考えていた。
そんなクリューの視線に気付き、ミクリはニコリと笑うと、さらなる爆弾発言を投下した。
「パパ」
「うん?」
「ミクリ。ケルベロスのシタがたべたい」
ーーブフーーーーッ!!
今日も今日とて、冒険者達の口から色んなモノが噴き出していた。
ミクリの言動には慣れたつもりだったけど、"つもり"だった。
ケルベロスのシタとは、おそらく舌の事だろう。牛タンならぬ犬タンという事か。
「さっとヒであぶると、コリッとしてジューシー。だけど、1ばんはデミグラスソースでコトコトにたタンシチュー。くちのなかでホロリととけるケルベロスのシタは、はんにちにてもアジがこくておいしい」
「「「……」」」
一同生唾をゴクリと飲んでいた。
どうしてミクリは、そんなに表現が上手いのか。食べた事のない者達でも、想像で涎が垂れてしまうくらいに、表現が豊かである。
「クリュー。ケルベロスの討伐ーー」
「出来るか!」
その話を聞いていたギルドマスターが、涎を拭くような素振りを見せながらクリューに無茶振りをしてきた。
依頼されたって無理だ。倒した事はあるが、それは現役時代の話であって、今は倒せるか倒せないか、正直なところ分からない。
ケルベロスなんかと対峙したのは、何年前か覚えていないくらい前だったし、その時の様に身体が動く訳がないのだ。
身体は鈍らない程度に鍛えてはいるが、魔物と戦う機会はほとんどなかった。
ついこの間、ワイバーンを倒した時だってあれはほぼミクリの力だし、倒したと胸を張って言えないのだ。そんなクリューが簡単に倒せる訳がなかった。
「パパ、めいきゅうにいけばいっぱいいる」
「迷宮って……」
ダンジョンの事だよね?
もしかしなくてもミクリさん。お母さんと潜った事があるんだね?
クリューはココにいないミクリの母ミリーナを思い出していた。父は知らないが、紛れもなくミリーナの娘だなと。
「この辺にあるダンジョンっていって真っ先に浮かぶのは、"悪魔の穴グラ"だよな」
行くなんて言ったつもりはないのだが、ポールが顎をひと撫でしていた。
悪魔の穴グラならクリューでも知っている。
別名"冒険者の墓場"と呼ばれているダンジョンだ。
出来てから数十年以上経つのだが、まだ誰も攻略した者がいない。途中で断念したとしても、まさに満身創痍で無事に帰って来れない超高難易度。
さらにエゲツないのが、このダンジョンは変化系の為、入る度に環境も魔物も変わる。トラップまで変わるのだから、先にチャレンジした者の情報が、全く役に立たないのである。
クリューも若かりし頃に組んでいた仲間と入った事があったが、ミリーナの「もう飽きた」の一言で、強制終了した覚えがあるダンジョンだった。
割と余力があったのにも関わらず、ダンジョン生活に疲れたミリーナがエステに行きたくなったと我儘を言い始め、挙げ句「飽きた」だ。
せっかく踏破も見えてきたのに終了とか、唖然と憤りしかなかったよね。
仲間もクリューも当然の如く文句を言ったが、最凶のミリーナを相手にはクリュー達なんて無力だった。反論しようものなら、ミクリ十八番の【硬直】を母ミリーナにかけられ、力技の瞬間移動で地上に帰還。
まぁ、あそこで1人勝手に離脱されても困るけど、あまりにも身勝手過ぎる。
初踏破を期待していたギルドマスターや市長達が、その訳の分からない理由に唖然としていたのが懐かしいなと、クリューは安い朝食セットを頬張るのであった。




