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イジメ×イジメ  作者: クールホーク
8/11

第八話

ダン、ダンッ!


エレベーター内に響く、エレベーターのドアを叩く音。

女子中学生の悲鳴、泣き声。


「お、押見さんっ! 落ち着いて! 」

私は必死に押見さんを止める。

しかし、押見さんはエレベーターを叩くのをやめない。


途端に静かになった。

ホッと息を吐いたのもつかの間。


押見さんは膝を地面につき、泣き崩れた。

私は知らない。押見さんの過去を。


**


「じゃあ蛾雷、お姉ちゃんはボランティア活動に行くからね〜。一人でちゃんとお留守番してるんだよ」

蛾雷の姉、蟆雷ばらいはそういうと、雪が絶え間なくしんしんと振り続ける中、家を出て行った。


蟆雷は雪の除雪をするのだ。

家にいても暇なだけだから、ということで。


押見家には母も父もいない。

二人とも死んでいるから。


「うん。気をつけてね」

お姉ちゃんの背中にそう言った。

私はその時気付いていたんだ。

なにか、嫌な予感がすることを。



怖いぐらい静まり返った家の中で、静かに本を開く。

私のお気に入りの本だ。

昔、それもかなり昔、お母さんが買ってくれた絵本。


もう七歳だというのに、絵本を読むなんてどうなのだろうか。

まぁいいや。面白いし。


しかし、無音というのはとてもそわそわする。

ふとテレビをつけてみると、ニュースで変なのをやってた。


「えー、次のニュースです。

昨日、三時半ごろ、観覧車が止まるという事故がありました。

その観覧車の中には、七歳の子供もいたということで、〇〇遊園地は、より設備に気を……」


え、七歳……。私と同い年。

怖かっただろうなぁ。


そんなことを考えながら、絵本に目をやろうとした。


「速報速報! 変えて変えて」

ん? 何事?

思わずテレビから聞こえてきたその声に反応してしまう。


「え、マジッ!? また!?

あ、すみませんでした。

速報です。


今日、茨城県、節谷ふしや市で、

除雪作業をしていた

『押見蟆雷』さんがエレベーターに閉じ込められ……。

死亡しました。

凍死と見られます」


私の頭の中を、たくさんの言葉が横切る。


ーここ、節谷市だよね……ー

ー押見蟆雷って私の姉ー

ーエレベーターに閉じ込められて、

死……亡? 死んだの? ー


っえ?


途端にインターホンのなる音がする。

確認しに行くと、そこには警察が三人ほど立っていた。


「押見蟆雷さんのお宅ですか?

えっと、ちょっと話したいことがあるので、お母様かお父様か、来てもらってもよろしいでしょうか」


きっと違う、きっと違う!


頭の中でさっきのニュースを否定しながら、家の外に出る。


警察がいた。


「あれ? お母さんは? 」

警察は何も知らない。

何もわかってない。

うちには親はいません。


そんなことを言ったら、どんな顔をするだろうか。


「うちに、親はいません」

警察は、たいして驚いてなかった。

「んーと、何時に帰ってくるの? 」

あ、『今はいない』って、勘違いしてるのか。


ちゃんと……言わないと……。

「親はっ……。死……」

言おうとしたら、声が出なかった。

呼吸がしづらい。

視界が歪んでいく。グラグラしてる。


頬をほんのり熱い液体が流れていく。

ここは寒すぎて火傷しそうなほど冷たい雪が降り続いている。


だから水でも熱く感じる。

これは何?


目をギュッと思い切りつぶるとたくさん水が溢れ出てくる。

視界がくっきりしたと思ったら、

またぼやける。


真っ白な雪に水が垂れ落ち、

その部分だけほんのり濃い色になってる。


あの時テレビなんて見なきゃ、

こんな涙は出てこなかったのかな……?


どっちにしろ知らされるんだから、意味はないか……。


無理。否定はできない。

「親は……死……んで……ます……。

おね……え……ちゃん……もっ!

死……んだ……。知ってる……! 」


私はもう一人。

押見蛾雷は、一人で生きていかなきゃならない。


もうっ……。助けてくれる人はいないんだ。そうなんだよ。

おばあちゃんとおじいちゃんは、二人とも病気で死んでる。


お姉ちゃんだけが、私の唯一の支えだった。そんなお姉ちゃんが……死んだ。


茶髪の髪をクシャリとさせる。

黒色のカラコンが、取れそうになる。


も……や! もうやだ!


「だ、大丈夫!?

もう、お姉ちゃんのこと……知ってたの? ゴメンね。日本の技術が低いあまりに……」


うるさい……。

うるさい!


「関係ない人は黙って!

なんて言おうと生き返んないの!

お姉ちゃんはもう死んでるの!

部外者は黙ってよっ! 」


思い切り叫ぶ。

大人はいつだってそうだ。

不都合なことは、なんでも謝ればいいとでも思ってるの?


もうやだ……。

お姉ちゃんが家から出る時、

『気をつけてね』なんて言った私に言ってやりたい。


気をつけてね、じゃないよ!

行かないでって、止めてっ!


そう、思い切り怒鳴ってやりたい。

けど、どんなに泣き叫んでも過去には戻らない。



大人たちは帰った。

騒々しい大人たちは。


もう私は笑えない。

笑わせてくれる人も、誰もいない。

みんな敵。味方はいない。


お父さんもお母さんも死んだ。

お姉ちゃんも……。


おばあちゃんもおじいちゃんも。


ダメだ。

私だけはヘラヘラできない。

お父さんは私の頼みごとをヘラヘラ聞いて死んだ。


お母さんも私なんかと一緒に料理をして、だから死んだ。


お姉ちゃんも、地域の活動にヘラヘラヘラヘラして参加して、で、死んだ。


世の中は、無表情で、ヘラヘラしないで、都合の悪いことはやんない。


そうやってた方が生きやすい。


私は決めた。

私はもう、冷たい人間になろう。


**


「イヤっ! 出して! ここから出して! 早く! 」


押見さん、どうしちゃったの!?

いつもの押見さんらしくない!


「落ち着いてよ!

大丈夫! 世の中こんなことで死にはしないよ! 」

「じゃあなんでお姉ちゃんは死んだの! 」


お姉ちゃん……?

押見さんに、お姉ちゃんなんていたの?


「なんでよ……。

なんであの日お姉ちゃんは死んだの!? なんで閉じ込められたの!?

なんで……。なんでよ……」


押見さんから話は全て聞いた。

そんな悲しい過去があったなんて。


私はその時、自分では気づいていなかった。もう、感情をコントロールできていなかったということを。



押見さんがこうなったのはなぜ?


エレベーターが止まったから。


そのエレベーターを止めたのは誰?


おそらく聖神。


今私がするべきことは?


その聖神をぶっ飛ばす!


「押見さん、聖神を殺そう」


押見さんは目を丸くしてる。

自分でも何を言ってるのかわからない。なんでこんなことを言ってるのだろう。


聖神を殺しても何にもなんないのに。

なんで殺そうなんて?


「え? 」

「聖神を殺して、その周りのやつも殺そう。今までむかつくことをしてきたやつ、全員を殺そう。

殺して、殺して、殺しても足りなくなるぐらい。

まずはここから出ないと」


押見さんは眉間に皺を寄せる。

そして、ハッとした表情をした。

「そう……だね……。

困ったら、殺せばいいんだ」


ふと気づいた。

私に聖神を殺す力なんてないじゃん。

てか、殺すなんて物騒すぎるよ。


我に帰った私は、押見さんに言う。


「いや、でも、やっぱ殺すなんて物騒なこと、やめよう……」

「なんで? あなたが言ったんじゃない」


押見さんは、本気マジだった。

その押見さんの目は、カラコンをとった素振りを見せてないのに、赤色になっていた。


髪の毛の色も茶色だ。


押見さんは、この状態になると、

何かが変わる。


何かが……。


「ひとまずここから出る。

どうすればいいか?

扉を壊せばいいのよ」


押見さんは思い切り息を吸った。

そして、思い切り足でエレベーターの扉を蹴る。


エレベーターの扉は凹み、

ここから出られる状態になった。


押見……さん?


「運良くここは六階だわ。

早く出ましょう」

そう言うと、押見さんは足早にエレベーターを出て行った。


どうしちゃったのだろう。


押見さんは階段を駆け上がる。

相変わらず足が速い。


そんなことを考えながら私も負けじと押見さんについて行く。


あっという間に食堂に着いた。

聖神たちの方に目をやると、

聖神たちはギョッとした表情を私たちに見せた。


おそらく、『エレベーターに閉じ込めたはずが……。なんで!? 』

なぁんて思ってるのだろう。


押見さんはズンズンと聖神たちの方へ行く。

そして思い切り机を叩く。

その行動に、聖神たちはかなりビックリしている。


「ふざけないで!

なんであんなことしたわけ? 」


押見さんは怒鳴りつけながらそう言う。すると聖神は、初めは動揺していたが、しばらく経つと冷静さを取り戻した。


「あなたがイジメのターゲットだからに決まってるでしょう」


聖神は、そう吐き捨てるように言う。

途端、押見さんは思い切り誰も座っていない椅子を蹴飛ばす。


「なんでそんなことするわけ……。

ふざけんじゃあないわよ!

意味もなくそんなことして!

人殺しをしかねないわよ、こんなクズ女! 死ねばいいのにっ!

お姉ちゃんを殺すような人は、死ねばいいのにっ! 」


私は押見さんを急いで落ち着かせに行く。

いつもの押見さんらしくない。

押見さんは、いつも冷静で、クールで、カッコよくて、乱暴な言葉なんて使わない。


そんな押見さんが好きだったのに!

こんなの押見さんじゃない!


「落ち着いて!

違うよ、聖神さんは蟆雷さんを殺してなんかない! 違う! 落ち着いて! 」


必死になだめる。

押見さんは目に涙を浮かべながら

聖神を睨みつけている。


その瞬間、突然押見さんがクラっとした。倒れそうになる押見さんを、急いで支える。


私の手に、私の腕に、押見さんの体重がかかる。

こんなに身長が高いのに、体重はあまりなさそうだ。


押見さんはそのまま意識を失ってしまった……。


**


押見さんが目を開く。

押見さんの目は黒色になっている。


えっ?


なんで黒色に……?

私はずっと押見さんのそばにいたから、カラコンをつけた瞬間なんてなかった。そう断言できる。


押見さんの頬にそっと手を当てる。

押見さんは元の押見さんに戻っていた。


私の手の上に押見さんは自分の手を重ねる。

そこからしばらくは二人とも、一言も喋らなかった。


「目……」

私がそう一言言うと、押見さんは私の顔を、その整った美しい顔で見つめる。


「私、カッとなると目が赤くなるの。

漫画みたいでしょう。

けど、ニューヨークに来た時に目を赤色に変えたでしょう。

あの、オシャレがなんちゃらって時。

あの時は、赤色がカラコンだったの。

けど、私は実際の目は黒と赤。

なんなんだろうね。

お父さんもお母さんも、お姉……ちゃんも……そんなんじゃないの……に」


ーお姉ちゃんー


その単語を口にした瞬間、

押見さんは目に涙を浮かべ、

同時に押見さんの目は、黒から赤に変わっていった。


私は押見さんを抱きしめる。

すると押見さんの目の色は、みるみるうちに黒に戻っていった。


「すごい。あなたに抱きしめられると、目の色が戻る。なんか、ずっと一緒にいたいな。あなたとは」


その言葉はとても嬉しかった。

心に直接響いた。


なんだか泣きそうになった。

押見さんとは、ずっと一緒にいたい。


その願いは、最終日には叶わぬものとなった。

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