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イジメ×イジメ  作者: クールホーク
5/11

第五話

初めは観光だった。

ニューヨークで有名なものといえば……。


『自由の女神』である。

リバティー島(リバティ島? )ってところにあるんだよ〜。


見た瞬間、目を丸くしてしまった。

三十メートル以上ありそう……

いや、あるか。


かなり高かった。

知らず知らずのうち、「すごい……」

と言っていた。


修学旅行は、班で自由行動だ。

私は、

私、香奈霧カレンと、

押見さんと、

聖神イラッと、

聖神の仲間たちの、

計五人で組んだ。


やっぱり聖神が仕切っている。

別に誰が仕切ろうがいいんだけどね。


で、初めは自由の女神、そのあとは確か、ブルックリン・ブリッジ

(間違ってるかも……)ってところに行くらしい。


聞いたことないなぁ。

ブリッジだから、橋なのかな?


とにかく今は、聖神さんについて行くことしかできなそうだ。


ってか、かなり歩くなぁ。

なんで自由の女神から距離のあるそのなんちゃらブリッジに行かなきゃなんないの?


交通網使ってもこれだよ!


**


「ここよ! 」


そう聖神さんは言って、橋を指差した。


うわぁ……。

大きな橋だなぁ……。


その橋は、とんでもなく大きなものだった。

これを歩くのぉ……!?


考えただけでも倒れてしまいそうだ。

そんな私の気持ちなんか気にせず、

聖神は他の女子と話しながら

橋を渡る。


はぁっと大きくため息をつく。


その時、私の肩を、誰かがポンと叩いた。

ん? 後ろを振り返ると、外国人が私に話しかけている。


え? え?

な、何語!?


なにやら地図を持ちながら話している。道でも聞いてんの?


しどろもどろしてしまう。

私英語の点数だけは本当に悪いからなぁ……。わかんないよぉ〜……。


私があたふたしていると、

押見さんが私の前に立った。

そして、英語をペラペラ話している。


え、えぇ!? お、押見さん!

英語喋れんの!? しかも並みの外国人よりも上手い気がする……!


そしたら、その私に道を聞いてきた人は、OK(? )というと、どこかに行ってしまった。


「お、押見さん……。

今何語話したの? なんて言ったの? 」


いろんなことをいっぺんに聞く。

押見さんは、少し微笑んだ気がした。


「フランス語。

道を聞いてきたから、

『ゴメンなさい。私はニューヨークに三回しか来てないので、道を教えることはできません。すみません』

って言ったの」


さ、三回!?

そのことに驚いてしまう。

私は、驚きを隠せない表情で、

押見さんを尊敬の眼差しで見つめた。


その私を見た押見さんは、不思議そうな顔をしている。


私は外国に来たの初めてだよ、なんて言ったら、押見さんどんな顔するだろう。


そんなことを考えながら、私は小走りで聖神さんのところへ行った。

押見さんは、景色を眺めながら、歩いている。


私は押見さんのところに戻り、

『観光』ということで、景色を見ながら押見さんと並んで歩いた。


押見さんは本当にお姉さんみたいで、

身長が157センチメートルの私よりも、かなり身長が高い。


「押見さんは何センチなの? 身長は」

そう押見さんに聞いてみる。

素直に、好奇心で知りたかった。


見た目も中身も大人。

本当は中学生じゃないんじゃないかと思ってしまう。


「172」


どことなく冷たくて、どことなく優しい言い方のその言葉は、

暖かい五月下旬のその風に突き刺さるように響いた。


もうじき暑い季節かな?

そんなことをぼやっと考えながら、

押見さんをもう一度見る。


やっぱり身長高かったんだ。

学年女子では身長の高さ一位だもんね。


押見さんは、毎日清潔に洗われてるのであろうその黒色の髪を、サラッと宙に浮かせた。


「その……カ、カツラ……もさ、

洗ってるの? 毎日」

私は機嫌を損ねさせないように、

ゆっくりと聞いた。


押見さんはコクリと頷く。

やっぱり洗ってるんだ。

真面目だなぁ……。


押見さんって、なんだか手に届かない存在。いつか大物になりそう。

てかもう大物か。


私は少しでも押見さんの近くにいる存在になりたいな。


それが私の将来の夢かな。


私は押見さんがいることによって、

何かが変わった気がする。


ハッとしたら、橋を渡りきっていた。

聖神は、二つ結びにされた髪を、

くるくる手に巻き付け、もてあそんでいた。


今はなにしてるんだっけ……。

そう考えていると、聖神が突然大きな声を出した。


「あぁっ〜! 最悪! 財布がないんだけど〜! 今気づいた〜!

誰かにとられたかも〜!

え、まじ最悪なんだけど」


全然悲しそうな言い方に聞こえない。

金持ちは、金なんていくらでもあるんで、財布とかいりませんアピールか何か?


ムカつくなぁ……。


「あともう少しで集合時間だしぃ、

ちょっと先生に相談してみるっ! 」


聖神の友達の女も、うわぁ、かわいそーなんて言ってる。


なんなのマジで。

あんたがとられるのが悪いんじゃん。

いちいち騒がなくていいから……。


その時私は知らなかった。

押見さんの眉に、わずかに皺が寄ったということが。


**


集合場所に行くと、

ポツポツと人がいた。

聖神たちは、ついた瞬間に先生に話していた。

おそらくさっきのことだろう。


先生は、驚きの表情を浮かべる。

あれが押見さんだったら、

きっと何事もなかったかのように流されてしまっていたのだろう、なんて、失礼なことを考えてしまった。


みんなが集合したという確認が取れた時、先生は聖神の話をした。


「……聖神姫奈さんの財布がなくなったようです」


その言葉が先生の口から出た瞬間に、みんなが「えぇ〜!? 」

と声をあげた。


そりゃあ、クラスメイトの財布がなくなったら驚くかも知れないけれど、

おそらくあれが私とか押見さんだったら……。


考えるのはよそう。


「なので、聖神さんが行動した場所を、みんなで探してみましょう」

え、大ごとすぎやしない?


無くなったのは、個人の不注意でしょ。私たちを巻き込まないで欲しいな。


少しイライラしながら、みんなが立ち上がったので私も立ち上がろうとした時、押見さんが急に驚くことを言った。


「私のカバンに入ってました」

押見さんの方を見ると、押見さんは手にピンク色の、かなり派手な財布を持っていた。


へ?


なんで押見さんが?


色んな気持ちが横切る。

けれど、全部を脳内で否定する。


押見さんが奪うわけない。

押見さんが奪うわけない!


みんなはブーイングをする。

「押見〜! いくら金ないからって、金持ちから財布奪ってんじゃねぇよ」

「怖くなったから白状したのか?

だったらまず取るなよ〜」


みんながそういう。

私は否定したい。ちがう、押見さんは奪ってないって。


けど、こればっかりは根拠もなにもない。


押見さんが……奪ったの?


信じたくない、けど信じざるを得ない。


ぎゅっと目をつぶる。

違うと否定したい!


けど、目を瞑っても余計みんなの声が大きく聞こえてくるだけ。


違う! 違う! 否定したいのにっ!


押見さんの方を見る。

押見さんは、ピンク色のド派手な財布を聖神に渡す。


「謝ってよ! 」

聖神が大きな声で言う。

みんなも、そうだーと騒ぎ立てる。


押見さんは本当に小さな声で、

「ゴメン」

そう、確かにそう言った。


聖神の口角が上がる。


「違う! 」

私は気づいたら叫んでいた。

みんなが一斉に静かになる。


サッと血の気が引くのを感じる。

みんなの視線は私に集中する。


そして、ボソボソと話し声が聞こえてくる。

ーは? なに言ってんの? ー

ー空気読めよー

ーなにを根拠で言ってんの? ー


体が震える。


ギュッと服の端を握りしめる。

唇を噛みしめる。


そんなことをしても、震えは止まらない。みんなの声がより大きく聞こえる。


いやだっ……。怖い。イジメられる……!


聖神は、口を開く。

「次のターゲットは、あなたよ! 」

目が丸くなる。


終わった。もう人生の終わりだ。

私は押見さんみたいになれない。


苗葉さんみたいに、自殺をすることになるんだ。


そして自殺もなかったことにされるんだ。もう無理だ……。絶望しか感じない。


押見さんの方を見る。

押見さんは、ふっと笑う。


あの笑いはなに……?

バカにしてる笑い?

そうだよね。きっとそうに違いない。


もう無理なんだ。

私はもう、私の人生はもう、

ここで終わりなんだ。


「私が寝てないとでも思った? 」

押見さんの声が、みんなの笑い声の中響く。


寝てない……?


どういうこと?


スッと押見さんの方を見る。

押見さんは真っ直ぐに聖神を見つめている。


「飛行機の中で、あなたが私のカバンにあなた自身の財布を入れたの、

私が見てないとでも思った?

『押見蛾雷が聖神姫奈の財布を奪った』っていう罪をつくりたいのならば、もっと頭を使いなさいよ、

この低脳が」


押見さんは聖神を見ながら、ふっと鼻で笑った。あれは間違いなく聖神をけなしている笑いなのだろう。


そして、押見さんは私を見ると、ニコッと、口角をしっかりあげて笑ってくれた。


胸から何かがこみ上げてくる。


安心と、喜びと、嬉しさ。


「タッ、ターゲットは、押見よ! 」

集合場所に響く聖神の声。


みんなの歓声。

嬉しいけど、やっぱり悲しい。


押見さんに対して申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。


けど、私は何か清々しい感じもする。

あの時言った、『違う! 』という言葉は、私の勇気の塊だ。


私はまだ、頑張れる!


ギュッと拳を握りしめ、

私は押見さんを見ながら、満面の笑みを見せた。


押見さんはなんだか、私を見ながら

笑ってくれた気がする。

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