表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イジメ×イジメ  作者: クールホーク
2/11

第二話

恐怖タイムの始まりだ。


現状のターゲットは、私の大好きな『押見おしみ 蛾雷がらい』さんだ。

イジメのリーダーは、『聖神ひじりかみ 姫奈ひめな』。


そして前ターゲットの『苗葉なえば 汰一たいち』さんの死は、

聖神財閥ひじりかみざいばつの権力でもみ消された。


人間なんて、やっぱり金なんだ。なんてか弱く、ダサいのだろう。


あ、申し遅れました。私、『香奈霧かなきり カレン』と申します。


押見さんのせいで他の女の子から睨まれる羽目になりましたが、

押見さんがすぐに、『他の子を巻き込んではダメね』と言い、

なんとかイジメのターゲットは避けられました。


イジメは本当に怖い。


特にこのクラスのイジメは、残酷だ。

集団イジメどころじゃない。先生にも、友達にも、

親にすら相談できない。


なぜ親にも相談できないのかって?


この前聖神が言ってたんだけど、

『親に相談したって無駄よ。だって押見さん。

あなたは親に一億で売られたんですもの』

とかって。


だからおそらく、

『一億円でもいくらでもあげるから、押見さんと遊んでもいいですか? 』

とかって言ったんだろう。なんて最低なの!


押見さんが異常にかわいそうになる。

なのに、自分がイジメられるのが怖くて、

押見さんにブスとか言っちゃって……。


本当にどうすればいいの?


自分が情けなくなる。

聖神も最低だけど、それ以上に、イジメられるのが怖くて、

一緒になって何かと言った私もかなり悪いと思う。

いや、悪い。


自分は一人っ子で、親もなくしてて、叔母さんの家に泊まらせてもらってる。

高校からは、頑張って一人暮らしをしようと思ってる。


いつまでも頼ってるわけにはいかないから。


って、ごめんなさい。いきなり変な話しちゃって笑


押見さんは好きだけど、押見さんのことを考えると、

自分のした最低なことが頭に蘇ってきて、心臓がズキンとする。


**


休み時間に入る。


押見さんのバックに目をやると、いろんなゴミが入っている。

マジもんの毛虫まで入っている。


私は虫とか結構好きだから、家にイモムシとか飼ってたりする。

だから、ああいう虫とかをどけることはできる。


けど、怖くて出来なかった。

イジメが異常に怖くて。


トイレに入る。壁に寄りかかりながら、一息つく。

私立の中学ってだけあって、トイレまでもが綺麗。


手が震える。どうすればいいんだろう。

助けたいけど、助けられない。


確か今度、ニューヨーク旅行があった気がする。

来週……だったかなぁ? そこで何か、変わるといいけど……。


息を深く吸って、トイレを出る。

思い切り息を吐いて、教室に戻る。


教室の入り口に立つなり、すぐに押見さんの方を見る。

と、入り口のところに、マライ・流星りゅうせい君がいた。


聖神の逆鱗に触れると……。考えただけでも恐ろしいから、

なるべく当たらないように教室内に入ろうとした。

すると突然、マライ君から驚きの言葉が出た。


「押見さんって、いいよね。僕、押見さんに、一目惚れしちゃった。

初……恋? ってヤツだよ」


そ、そんな……!? こ、こんなことが聖神に知られたら、

大激怒するよ。今までのイジメの数倍ひどくなる。


絶対に内緒にしないと!


教室にはまだ押見さんは戻ってきていなかった。

この休み時間の間、どこに行ってるんだろう。

校内を探し回ることにした。


食堂……。いない。

トイレ? 一階から五階まで、どこのトイレにもいない。

一度自分の教室に戻り、風に当たろうと身を乗り出す。


バラバラバラバラバラと、ヘリコプターの独特な音が聞こえてくる。

上をふっと向く。すると、かなり目を凝らさないと分からないけど、

屋上から、ブラーンと、足が垂れてきている。


まさか!


ドキドキとウキウキが混ざったような、不思議な気持ちで屋上までエレベーターで行く。


普段は屋上の鍵は開いていない。

あの垂れてる足でわかった。


あの靴下は一年生の靴下だった。


一年は青色。二年は夜空のような色をした紺色。三年は黒色の靴下。

あの靴下は青色だった。

そして、みんな黒色のスクールシューズだけど、押見さんだけ白いスクールシューズなのだ。

あのスクールシューズは白。

つまりあの人は押見さんだ!


そんなことを考えながら、全速力で屋上に続く二十四段の階段を上る。

この二十四という数は、中等部から高等部までの全クラスの数なのだ。


この学校に入る前、そんなことを校長が言っていた気がする。


いつもなら開かない屋上の扉。

それを恐る恐る引っ張ってみる。


ガチャッ!


少し低めの音を立てて、扉が開いた。

かなり重かった。

ドアノブのところは、長い間掃除をしていなかったのかな?

少しびていた。


ゆっくりと、押見さんの気分を害してしまわないように、押見さんの隣へ行く。


「気持ちいいね。春の風って」

春の風。この生暖かい風を好きって思ってる人も、

そんなに少なくないと思う。


私が押見さんにそう言うと、押見さんは不思議そうな顔をして、

「私に話しかけないほうがいいよって言ってのに」

といって、また街の方に目をやった。


私は押見さんの言葉を無視したわけじゃないけど、押見さんにまた話しかけた。


「押見さんは、なんで授業中も、いつも窓の方を見てるの? 」


誰をターゲットにするか、誰がターゲットにされるか、そんな緊迫した雰囲気の時でも、

ずっと外を眺めていた押見さんが、どことなくカッコよく、

そして少し悲しそうに見えた。


「この時期にね。お花見に行ってたの」

やっと私の質問に答えてくれた押見さんは、外の景色を眺めていた時と同じように、

少し悲しそうな顔で話し始めた。


「ずいぶん前にね、私がお母さんと一緒に料理をしてて、

お母さんがトイレに行ってる途中に、面白そうなテレビが始まったの。

うっかり火をつけっぱでテレビを見に行っちゃって……。

お母さんがその頃お腹に赤ちゃんを授かってて、あんまりバタバタ動けなかったから、

私だけでもって、私を逃がしてくれて、でもお母さんは……」


押見さんは、少し涙目っぽくなりながら、話を続けてくれた。

聞いといた私が、なんか泣きそうになってしまった。


「だから、お父さんと二人でお花見に行ったの。

私が行きたいってだだこねて。

いい席が取れなかったからっていって、

車をゆっくり走らせながら桜を見ることにしたの。

すごい楽しかった。

けど、帰りに信号無視の対向車とぶつかっちゃって、

私は幸い、お花見だったってことで、助手席じゃなくて後ろの席に座ってたから、

軽い怪我で済んだけど、お父さんはそのまま……ね?

ごめんね。こんなながったるいお話を聞いてもらっちゃって」


私はもうポロポロ泣いちゃった。

こういうのって、なんて言えばいいんだろう。

悩みに悩んだ。結果。


「わだじも、親が……いだいんだぁ」

泣きながら言ったから、変な感じになってしまった。

押見さんは、おねぇちゃんみたいな感じに、

優しく頭をポンポンとしてくれた。


一息ついて、もう一度言った。


「私も親がいなんだ。二人ともロンドンに旅行に行った時、

連続殺人犯にやられたの。ダサいよね」

ダサいなんて思ってない。


泣きそうなのを我慢するために言ってるだけ。


「泣いていいんじゃない? 」

押見さんが優しくそう言ってくれた。

思わず泣いてしまった。


そして三分後ぐらいに、ハッとした。

「そうだ! なんか聖神達が押見さんのスクールバックの中に

ゴミだの毛虫だの入れてたよ! 」

押見さんの方を見ると、押見さんはずっと街を見ていた。


「お、押見さん……? 」

どうしたんだろう。また何か思い出してるのかなぁ。


「あと五分で授業始まるよ。あと、『私に話しかけないほうがいいよ』」

今の、ちょっとだけ怖かった。

でもやばい! 早く行かないと!


**


ふう。間に合ったぁ。

移動しないから、ほとんどの子が教室で座っている。


みんながボソボソ言っている。

目をつぶって、耳の力だけを使う。


「押見来ないな」「ビビったんじゃねぇの」

ちがう。そんなことないって言いたいけど、勇気が出ない。

言いたいけど言えない。


すると一人の男子が息を切らしながら教室に入ってきた。

「自習だって! 」

自……習? なんで?


すると、聖神率いる人たちが、私の周りにわらわらと人が集まってきた。

な……に?


「あと少しで修学旅行ね。

最高のイジメができそうだわぁ。何言いたいかわかるぅ?

押見さんに関係するなにか、イジメのネタにできそうなの教えてちょうだい。

もし言わないのなら……。次のターゲットはあなたよ」


なんで私!?

怖すぎる。何かある? あの親の死のこと……ダメ!

あんなこと、絶対言っちゃ!

そうだ! 押見さんを好きって言ってた人の名前は……。


「マライ君! 」

あ……。しまった。すっかり忘れてた。

聖神はマライ君のことを好きなんだった!


まるで、「はぁ? 」とでも言ってるような顔をしている。

突然自分の好きな人の名前を言われたら、(しかも自分よりも格下のひとに)

うざって思うよね。やばい。言わざるをえない!


「が、押見……さんのことが好き……なんだって」

聖神は目を大きく見開いて、今にも人一人殺してしまいそうな顔になった。

そして数秒立つと、いつもと同じ顔になって、

ニッコリと笑い、


「ありがとう、香奈霧さん。あなたを情報屋のトップに命じるわ」

じょ、情報屋ぁ?


周りから拍手が巻き起こる。

『おめでとー』と、みんなが口を揃えて言う。


ありがと……って、ちがーう! なんで言っちゃったの!?

ダメだよ! めっちゃ怒ってたもん! 聖神あいつだと、何をしでかすかわかんないよ!


**


家に着く。

家に入るなり、ベットにバフンと飛び込む。


自分の言った言葉を思い出す。

思い出した途端に、無性にイライラしてきた。


聖神にも、自分にも。

すごい後悔している。

後悔するぐらいならやんなって話だけど……。


おそらく押見さんへのイジメは、相変わらずこのまま同じ感じに続くだろう。

しかし、問題は修学旅行からだ。


毎日似たような日々だと、時間なんてあっという間に過ぎる。


ああ。私は何を言ってしまったのだろう。

最低だ。

最悪だ。


もう嫌だ。私なんて、自殺しないと、ダメな存在なのかな……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ