第一話
最悪だ。人生初の中学校生活初日一日目で熱を出すなんて。
絶対出遅れた。
今日は清々しいほどに晴れてるのに、
何で熱なんか……。
少なくとも、クラスの子の名前と顔を、セットで覚えないと。
『香奈霧 カレン』は、クラスの名簿を見た。
新しい顔に新しい名前をたくさん目にしたカレンは、どうしようもなく学校が楽しみになった。
「うわぁ。この人、美人だなぁ」
思わず口に出してしまう。そのぐらい美人な女の子が、一番最初に目にはいった。
「『押見 蛾雷』さんか……。
名前までキラキラだなぁ」
その人は、どことなくクールな雰囲気を漂わせている。
なんか、カッコいい!
**
よし! 体調も良くなったし、天気も良い!
最高だ!
私は昨日、心をリセットするために、髪をバッサリ切った。
真新しい制服の匂いを嗅ぐと、なんか気持ちがシャキッとする。
もう小学生の頃とは違うんだ。
少しでも遅れを取り戻すために、挨拶は元気良くするんだ!
**
「お、おはようございます! 」
いえた。周りの反応は……?
一瞬シンとなる。そして、数秒経つと、周りのいろんな子が、
「おはよう」と言ってくれた。
すごくホッとする。
良いクラスでよかった!
あれ?
カレンは、不思議に思った。
真ん中の列の、後ろから二番目の席。そこの席が、ポッカリと無いのだ。
机も、椅子も。あまりにも不自然すぎる。
「あそこの席……。どこにいったの? 」
後ろの席の子に聞いた。
後ろの席の子は、一瞬固まる。しかし、数秒後に、何事もなかったかのように、
「ん? もともとあの席に人なんていないよ?
このクラスが四十人クラスってことぐらい、知ってるでしょ? 」
四十人……? おかしいなぁ。クラス名簿で見たときは、
四十一人だったはずなんだけど……。
さては、この子、自分を数えてないな?
前の子にも聞く。
その子も一瞬、時間が止まったかのように固まる。
しかし、何事もなかったかのようにニッコリと笑い、
「昨日からあそこの席の子はいなくなったけど? 」
と言った。
背筋に冷や汗が垂れ落ちる。
ふ、二日で転校したのかなぁ? き、きっとそうだよね。
周りを見渡す。いないのは……。
苗葉さん。『苗葉 汰一』さんだ。
名前は少し男の子っぽいけど、れっきとした女の子だ。
少し不安になった。
隣の男子に聞いてみる。
「苗葉さんは? 苗葉さんはどこ!? 」
その男子は、当たり前のことをいうような顔をして、こう言った。
「あいつなら、この世に存在しないものとしてるんだけど笑」
目を丸くした。驚きすぎて。怖すぎて。
このクラスは異常だ。何かが……ヤバい!
このクラスでイジメが起きてる。
そんな事はすぐわかった。
こんな事は、漫画の世界とかでしか起きないと思ってた。
こんなところで三年間も、過ごせる気がしない。
頭がおかしくなりそう。
「出席を取ります」
カレンは口と手と足と……、全身をガクガクとさせている。
リーダー格の人は誰? せめてそんな人だけでもわかれば、
その子に害を与えないということができるから。
カレンはキョロキョロと周りを見渡す。
「……さん。香奈霧 カレンさん? 返事をしてください。カレンさん? 」
ハッとする。
みんなの視線が一気に私に注目する。
怖い。怖すぎるよ。
「は、はいぃ……」
周りから、どっと笑い声が聞こえる。
みんなが口々に、「は、はいぃ……」と言う。
私の真似をする。
嫌! 怖い! 消えたい!
「はいはい。静かに」
先生が言ったのかと思った。
いや、普通なら先生が言うのだ。しかし、声は幼い。
誰? 私を……助けてくれた?
「みんなのターゲットゎ〜、この子じゃなくってぇ、
汰一君……あ、汰一ちゃんでしょぉ〜笑
ごめぇん。男の子みたいな名前だからぁ、間違えて君をつけちゃったぁ笑笑」
みんなが笑う。大して面白い事は言ってないのに。
こいつがリーダーか。
そう確信できた。
こいつの名前を思い出す。
『聖神 姫奈』。
赤茶の髪が、いつもクルクルしてる。
パーマでもかけてんのかなぁ。
そんで、美人だ。私の三倍ぐらい。
けど、押見さんには劣る。
押見さんは本当に美人なんだから。
聖神さんと押見さんは美人。
けど、同じ美人でも性格があれじゃ、月とスッポンだ。
「苗葉さん」
先生が、健康観察のカードのようなものを見ながら、
苗葉さんの名前を言う。え? 先生は気付いてないの……?
「あ、苗葉さんはもうこの世に存在しないんでした〜笑」
は? この教師まで異常だ。
こんなクラス、見たことも聞いたこともない。
怖い。クラス全員から、先生にも頼れない状況でイジメなんて、
怖すぎるよ!
やっと普通の授業が始まる。
授業は普通だ。一限目は数学だ。男の教師が来る。
みんなは何事もなかったかのように学習に取り組む。
先生が廊下に出た。何の用だろうと思ったら、先生は黒板に、
『自習』と書いた。
まさか!?
みんなが自習をしている中、私はジッとドアの方を見つめる。
ガラリとドアの開く音がする。
机と椅子を大事そうに持った苗葉さんが入ってくる。
やっぱり。
あの男教師も気付いている。このクラスのイジメのことに。
わからない人もいると思うから、説明をする。
『自習』。廊下に出る先生。苗葉さん。。。
先生は廊下に出て、苗葉さんがくることに気付く。
自習と書くことによって、生徒は皆自分で学習することになる。
そして今、先生が教室を出る。
生徒たちは、今、この場で、自由となったのだ。
集団イジメの始まりだ。
苗葉さんが入ってくるなり、聖神さんが立ち上がる。
他の生徒も立ち上がる。
苗葉さんのところへ歩いていく。
苗葉さんの顔がみるみる青くなっていく。
ガタンッ!
大きな音がする。見ると、苗葉さんのものと思われる机が凹んでいる。
蹴られたりしたのだろうか。
怖い。怖すぎる。
あれ? 一人、立っていない人がいる。
その人は窓越しで外の景色を見ている。
顔が見えない。
その人をジッと見てみる。
その人と目があった。
その人を見るなり、目を大きく見開いてしまう。
押見さんだ。
私が慌てて目を逸らそうとする。
しかしそれはそれでどうなの……?
〜脳内プチ会議〜
香奈霧 カレン①が会議長だ。
「議題は、『押見さんと目をそらすか、そらさないか』ですわよ! 」
①は、周りを見渡す。
すると、②が手を挙げた。
「はーい! 目をそらさないほうがいいと思いま〜す。
目をそらしたら、感じが悪いからでーす! 」
元気よく②は発言をする。
すると、③が手を挙げた。
「私もその意見に賛成です。
第一印象が感じの悪い人なんて、最低だからです」
真面目な顔をして、③が言う。
①が腕を組む。
そして、大きな声で言った。
「判定を下しますわ!
『目をそらさずに見る! 』ですわよ」
ジッと押見さんを見つめる。
すると押見さんは、軽くニコッと笑い、再び外に目を向けた。
うわぁ。美人な人って、みんな性格最低だと思ってたけど、
押見さんは、性格もいいし、美人なんだなぁ。
すごいや。
それよりも苗葉さん! なんであんな目に……?
遊び疲れたなぁという顔をして、みんなが一斉に戻ってきた。
隣の男子に、なんで苗葉さんがいじめられているのかを聞いてみる。
すると男子は、少し深刻な顔をしてこう言った。
「リーダー格の女、姫の好きな人、『マライ・流星』と
たくさん話してたんよ。苗葉は」
マライ・流星……。
お父さんが社長で、ハーフなんだ。
お父さんが韓国の人、お母さんがアメリカ。
産まれは日本。
そんで、かなりのキラキラネーム。
顔はイケメンで、優しい。
女子に結構人気なんだ。
けどあんまりマライ君の話を聞かないなぁと思っていたけど……。
そういうことか。
可哀想。
でも最低だ。
あの聖神野郎は。
ていうか、なんで姫……なの?
あ、名前が姫奈だからか。
キモいなぁ。
**
休み時間。
押見さんと仲良くなろう。
イジメとか興味ないしみたいな人だったからね。
「お、押見さん! 」
思い切って話してみる。
外の景色を眺めていた押見さんは、
どことなく悲しそうな顔をしてこっちに振り向く。
そして、私を見るなり、
「私に話しかけないほうがいいよ」
と言い、少しフッと笑って再び窓の方に顔を向けた。
どうしたんだろう。
なんか無視されたみたいで、なんとなく悲しい。
その途端、私の元に、聖神率いる女子たち十数人が集まってきた。
ゾッとした。普段人から注目して見られるってことがなかったから、
一段とゾッとした感覚がきた。
「ねえ」
話しかけられただけで、とても怖くなる。
あんな光景を見せつけられてから話しかけられるなんて、
もう怖すぎる。
「あのさ……。悪いことは言わないわぁ!
押見さんとは話さないほうがいいわよぉ」
へ? 押見さんとは話さないほうが……いい?
なんで? あんなにいい人なのに。
「なんか押見さんってね。やばい薬やってたり、
危ない人と絡んでたりするらしいよ。
だからうちらと仲良くなろ? 」
聖神の奴隷のような女がそういう。
もちろんこんなクソウザい奴らと仲良くなんてしたくない。
けど、刺激したらイジメのターゲットにされるに決まってる。
怖いけど、うんと言わざるをえない。
私はコクリと頷く。
押見さんをちらりと見る。
相変わらず押見さんは外を見ている。
横顔も美しいな。
聖神みたいに、メイクとかはしてないし、髪の色も地毛のままだし、
全然アブナイ人と絡んでなんかいなさそう。
「だってさぁ、あぁんな”ドブス”と絡んでたら、
絶対に香奈霧さんの可愛い顔がブスになっちゃうわよぉ〜」
押見さんがブスゥ!?
眼中崩壊してんじゃないの!? あんたのほうがよほどブスで性格クズだと
思うんですけど!
「ね? 香奈霧さんも、押見さん、どブスだと思うでしょぉ? 」
ここでいいえと言いたいけど、そんなこと言ったら絶対にターゲットにされちゃうよね。
ごめん! 押見さん!
「う、うん。そう……だね」
タジタジになってしまう。
けど、聖神は機嫌をよくしたらしい。
本当にこんなところで過ごせないよ。三年間も。
そういえば、苗葉さんは……?
一人で寂しく教科書をめくりながら、泣いている。
教科書をじっと見つめる。
そこには落書きと思えるものが見えた。
目を凝らして見てみる。
『死ね』『うざい』『どブス』『メス豚』
うわ! ひどい。ひどすぎるよぉ……!
いつかあの子、自殺しちゃうよ。
その私の読みは見事に的中した。
その子は三日後、自殺した。
なんかすごい怖かった。
「あーあ。自殺しちゃっだよぉ〜! なんでよぉお!
残念。『いじめられ役の子』が居なくなっちゃったぁ」
聖神の取り巻きの人たちの顔が青くなる。
というか、このクラス全員の顔が青くなる。
「つまんないなぁ。でもまぁ、最近ちょうど飽きてきてたところだしぃ、
もっと手応えある人に変えたいなぁ」
みんなの顔が真っ青になる。
もちろん私も。
聖神が周りを見渡す。
「男子ってのも面白そうよねぇ」
途端に男子の顔色がぐっと青に近づく。
いまにも死にそうな顔をしている人もいる。
「でもやっぱ、女子よねぇ」
男子の顔色が、普段の肌色に戻る。
その代わり、男子の顔色が、伝染病のように女子に移る。
女子の顔が真っ青だ。しかし、押見さんだけ、相変わらずボーッと
外を眺めている。
「よし! 決めたわぁ! 」
女子の顔が一斉に、一段と青くなる。
「押見さん。あなたに決定よ」
女子も男子も、みんな騒ぐ。
イエーイだの、ヒューヒューだの。
押見さんは相変わらず顔色を変えない。
鋭い目つきで、騒いでる人を睨みつけるだけだ。
一気にシーンとなる。
そして、重々しい雰囲気の中、授業が始まった。
「はい。この問題を……押見さん、答えてください」
さっきから集中的に押見さんが指されている。
その度に押見さんは、きちんと答えている。
先生も、少しイラつきながらも、負けじとたくさん指す。
「はぁ。−−−−−−−−−−−−ですね? 合ってますよね」
押見さんは、呆れながらもきちんと答えている。
すごい。
押見さんは、三日に一回の割合でしか学校に来ない。
なのに、さっきから全問正解だ。
しかも先生が問題を出した瞬間に答えている。
だから、考える暇なんてない……はずなのに……。
「な、なんなのよ! ムカつくわね! 」
先生もついにキレた。
周りの生徒たちも、ワーキャーワーキャー言っている。
突然押見さんは、ガタンと立ち上がる。
「先生、そんなに怒鳴ってると、顔にシワができて、余計ババくさくなるよ?
みんなも……。嫉妬しちゃって私に怒鳴るぐらいなら、
こうやって怒鳴ってる間にも勉強してれば? 香奈霧みたいに」
みんなは何も言わなくなった。
いや、何も言えなくなった。
一気に視線が私に注目する。
再び恐怖を覚える。
(なによ。ムカつくわねぇ)(香奈霧……なんなのよ)
お、押見さん!
こんなのに毎日耐えるなんて……。
怖すぎる。。。