日差し無き以前と明るい部屋
「お二方、料理ができましたぜ」
シャフの一言で目が覚めた、いつのまにか寝てしまった自分とエリスさんは二人して組合のロビーで寝てしまっていた、シャフの声でも起きないエリスさんの肩を軽くゆすると、彼女はうとうとした目を数回手首で擦ったのち、周囲軽く見渡した
「あ、ごめんね~、寝ちゃってた」
「ええ、あまりに寝心地が良さそうでしたの起すのが勿体なかったですよ」
二人とも目を覚ますとようやくシャフが料理を並べ始める、寝起きには厳しそうな揚げ物や、寝起きに優しいフルーツまで、バリエーションに富んだ料理の数々であるが、特別以前の世界と変わった見た目の物は特になかった、強いて言うのであればフルーツが林檎をみかんサイズにしたような、以前の世界では見なかった物であるというぐらいである
エリスさんは料理が並ぶと同時にフォークに手を付け、料理が並べ終わるころには唐揚げを口に入れていた、その食べっぷりを見ていると自分も手を付けざる負えなかった、空腹にはあらがえない、唐揚げを一つフォークに差し込み口に放り込む
≪シャク、、シャク≫
唐揚げの触感は思いのほかサクサクというよりもシャクシャクという触感で、熱い肉から零れ落ちる肉汁は凄く濃厚であった、味は癖があるが数を食べなければむしろ癖になる味である、味付けは塩で、肉はマグロの唐揚げと豚胸肉の唐揚げを足しで二で割ったような感覚である
次に手を付けたのはスープである、綺麗な葉野菜が入ったスープは爽やかな臭いで、見た目は綺麗で匂いもいい、口につける前の評価としては最高であった
≪ゴク≫
味付けは薄いという印象である、『質素』という言葉が似合う健康的な味付けで会った、そもそも日本人は塩分の取りすぎなのである、それに脂っこい唐揚げにはとてもマッチしており、二つの相性は抜群で箸が、もといフォークが止まらない
「美味しい?」
「ええ、すごく美味しいです」
エリスさんが笑顔で話しかけてくれた、しかしそんな優しい気づかいに対し自分の最初の感想はエリスさんの食器の様子であった、米粒というか、衣の欠片一つ残さづすでに食べきっていた、残るはフルーツのみである、未だ自分がパンに手を付けれてもいないのに彼女は自分の食べる速度を圧倒し全部食べ切っていた、驚きのあまり声が出そうになるぐらい驚いた。
かくゆう自分も美味しさのあまりパン一つ、スープ3分目を残しすでに平らげている時点であまり人のことも言えないであろうか、この美味しさならば無理もない
「そういえば君の部屋の話なんだけど、恐らくこの組合会館の最上階の開いてる部屋だと思うよ、事務員と組合長は基本最上階の4階だからね、他の事務官の人に合うようだったら話しておくといいよ」
「あ、ご説明ありがとうございます。」
「そう堅苦しくしなくてもいいよ~、仕事中ならわかるけど」
そういわれると弱る、昔から先輩や上司に『ラフにしてもいいよ』と言われると困ってしまうタイプの人間、それが自分なのだ、しかし彼女のいうことにも理が通っている、仕事中じゃないから断るのも不自然と言われると言い返せない
「い、、イリS」
「テトラでいいって!」
「て、、テトラさん」
彼女は少々呆れた笑顔の後、自分の食べ終わった食器を見て崩れた笑顔を普通の笑みに戻し、席を立ち上がると腰に手を当てた
「さて、じゃあ部屋案内するからついておいで」
「ありがとう」
自分は食器を少し整えると席を立ち上がった、そして騒がしい組合をかき分けて二階へ、二階は上級冒険者のロビーだそうで、より豪勢な装備をした冒険者たちが酒を飲み交わしていた、テーブルの上の食器も少し豪華だ、さらに上がって三階は二階とは違い吹き抜けではない独立した階層でギルド倉庫だそうだ、下の階とは違いかなり静かで、下の階の騒がしさ以外に音がしていない
そして四階、この組合会館最上階は、ビジネスホテルの内装のようであった、木造であることを除けば近代的な内装で、廊下の中央には休憩所があり飲み放題の葡萄酒も用意されている、自分は階段をから右の一番端の部屋だそうで、テトラさんの後ろをついていくと、自分の名前のプレートが掲げられたドアの前に着いた
「ここが君の部屋だよ、部屋は全部で14部屋、階段挟んで左が右が男、左が女で空かれているから、用があれば左のドアを探せば私の部屋もあるわ」
「案内ありがとう、今日は色々と感謝するよテトラさん」
自分がそういうと彼女は満足げな笑顔の後、『じゃあ明日もよろしく』と言い残して自分の部屋に帰った、自分も早速自室に入ると、自室はこの洋風な部屋にそぐわずまず靴置き場が用意されていた、まあ掃除する手間がかなり省けるしありがたい
内装はというと、ドアを開けただけでは内装は見えないようになっており、部屋の中に入るとそこには大きなテーブルが部屋の真ん中に置かれており、部屋左側には台所、右にはドアが二つある
≪ガチャ≫
当然ドアが気になるので、まずは手前のドアを開けるとそこはトイレであった、しかも水洗、案外近代的、しかも洋式、トイレットペーパーであろう紙も壁に掛けられた箱の中に入っている、掃除用具も完備されており何とも素敵なトイレである、落ち着く部屋には落ち着くトイレを、素晴らしい
続いて奥側は寝室であった、大きなベットに綺麗な照明、衣装棚に化粧台もある、化粧台も化粧台としてではなく物置として使えばよいだろう、非常にきれいな部屋である
部屋の総合評価は満点だ、一人暮らしにこれ以上の何を求めるのだろう、綺麗なトイレ、大きく収納性に優れた寝室、台所も見たところ何ら不便はなさそうだ、加えてリビングが大きい、リビング奥には大きな窓もあり日当たりも良好だろう
自分はこの世界にきて多くの物を失った、例えばインターネット、スマホ、ラノベ、ゲーム、電化製品、確かにこれらがないのは不便そうだ、しかしこの部屋なら得るものも多くある、夢であった観葉植物なんか育てて、ペットに猫とか、蛇なんかも飼ってみたい、友人を作れば部屋に呼びたい
以前の世界の部屋は、日当たり最悪、ペット不可、少しでも音を立てれば近隣住民の熱い壁ドンが、到底自分なんかでは植物のある部屋もペットのいる部屋も友人を呼べる部屋も持てなかった、しかしこの部屋は凄い、隣の部屋は空部屋、ペットも可と廊下に張り紙が、日当たりはさっきも述べたように良好、部屋だって広いし植物置いて、ペットを飼ってもまだ空間が余る
「なんだ、、、いい生活できそうだ」
確かに仕事は厳しかった、しかし以前の会社での激務とリストラの恐怖の二重のストレスに比べれば、確かに脳みそ蕩けそうな仕事ではあるが、良き先輩に加えてこの優遇、楽しもうと思えば楽しい生活を送ることは楽勝そうだ
後の問題は、、、衣服であった、服がない、今着ているスーツ以外服がないのだ、しかもこの部屋風呂がない、共同の風呂らしく部屋はさっき廊下で見かけたしまあそれはいい、しかし服がないのである
今から買いに行くにしてはもう夜も更けている、しかし明日着る下着がなかった、スーツは良い、以前も3日ぐらいなら選択せづ消臭スプレー使ってた、しかし下着とワイシャツは使いまわすのは無理だ
≪コンコン≫
「事務室所属、ロレアス・ガルナっす~、ミョルニさんから衣服の支給っすよ」
ドア向こうから男の声、ドアを開けるとそばかすの男、というより少年が立っていた、金髪を後ろで束ねたその少年は女装させれば金髪版赤毛のアンのようである
少年の手には自分の下着一式とスーツに似せて作られた服が用意されている、恐らくは特注だろう、サイズが見た目ではピッタリそうだから少し怖い
「あ、ありがとうございます、これからよろしくお願いします」
「そう堅苦しくしないでくらさいっすよ、プライベートでまで気を張ってたら疲れちゃいますよ」
「そうだな、自分はトウドウ・カオルって名前だ、カオルって呼んでくれ」
「自分はガルナでいいっすよ、どうですか、風呂でも浴びに行きましょう」
「あ、では一緒もらおうかな」
そうして自分は必要な衣服をもって部屋を出た、そして階段付近まだ戻り、階段となりにある休憩所の奥の脱衣所に入った、女湯と男湯は黒と白の扉に分けられており、男は黒だそうだ
脱衣所はまあ普通、ある意味面白みのない空間で、シャワールームは個室になっている、まあまあよく見る光景ではある。
「しかしカオルすごいっすよね、エリスさんよりスキル高いって話じゃないっすか」
「いやいや、そうはいってもそれしかできないからね」
衣服を脱いでいる最中の雑談はさらに弾む、この世界の衣服は脱ぎにくそうで、自分が衣服を脱ぎ終えた後も彼はいまだ服を脱いでいる最中であった
「いやそれでも凄いっすよ、読解、筆記、計算、作表なんて全部4以上だそうじゃないですか、事務に愛された男って感じでかっこいいっすよ」
「それでも一人じゃ何もできないからね、みんなには感謝しないと」
「そういうのなんかいいっすね、謙虚っていんでしたっけ」
そういっている間に二人とも衣服を脱ぎ終え、タオル片手にシャワールームに入った、シャワーは前の世界の物とは大きく異なり、完全固定式、目の前のレバーを下すとシャワーが高い位置からお湯を落とす、お湯の温度も固定だが、温い程度なので問題はない
降り注ぐお湯を一度止め、石鹸をタオルに染み込ませて体を洗う、そして頭も石鹸で、この世界には恐らくシャンプーはないのだろう、彼も石鹸しかもっていなかった、とわいえ自分は昔から頭も石鹸で洗う人種なのでその辺は問題なかった
体を洗い終え、再びシャワーで体を洗い流す、やはり寝る前のシャワーは気持ちがよく、さっぱりしたこの漢字は何度味わってもいいものだ
体を洗い終え、脱衣所に戻るとすでにガナルさんは服を着ていた、脱衣は遅いのに体を洗うのは早いようで、自分が衣服を着終えた後にはすでに部屋に帰ることができる状態であった、この世界の寝巻はだぼっとした薄い布の服で、着ると着心地が良く、同じものを着るガナルさんの姿は病院のパジャマみたいであった
「あ、髪乾かすっすか?」
「え、乾かせるの?」
そういうと彼は自分を大きな鏡の前の椅子に座らせ、自分の頭の上に手をかざした
「ファイアーエンチャント・ホットハンド」
彼がそういうとその手からはドライヤーほどの温風が吹き乱れる、魔法の力とは偉大だと身に染みた、その温かさは眠気を誘う、この世界にきてやりたいことといえば、魔法を覚えるなんて言うのももしかしたら楽しいかもしれない、夏場に冷たくなれる魔法なんかあれば人生少し楽しそうだ
「はい、終わりっす」
「うい、ありがとうね、じゃあお休み」
「おやすみなさいっす」
――・・
部屋に戻り、ベットに飛び込んだ、一日の疲れはベットに飛び込んだ瞬間重力に逆らわず自分をベットに縛り付け、起き上がるのもおっくうにさせる、そして次第に眠気がベットからスポンジに浸み込んだ水のように湧き出てくるのだ
『嗚呼、今日は疲れたが、楽しかった』という感情と共に、明日をひかえた自分の意識は次第に睡魔に飲み込まれた、スーツの洗濯は明日でもよいだろう、まだ衣服に余裕はあるのだから。
更新は2日後ほどになりそうです、よろしくお願いいたします。