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ペンの我らと剣の彼ら  作者: サイシ
2/4

新人の自分と激務の彼女

 膨大な数の要求書、直ぐにインク切れを起こすペン、書きにくい紙、要求書の読みにくい文字、これらを総合して自分の隣の要求書をすべて依頼書に書き起こせる自信はなかった、ただし、こういったものは形式を決めれば思いのほか早くかけるものだ

 題名、依頼者名、これは普通にに早く書ける、問題は依頼内容と報酬計算、これをいかに簡略化できるかがカギだろう、まず依頼内容である、普通にやればどのような依頼かを書く、どこに行き、何を倒し、どうするか、しかしこれを普通に書けば文字数は多くなる、それであれば


①場所を書く

②討伐依頼か護衛依頼かを書く

③討伐対象を書く


 ~であり、や、凶暴な~のような文字を一切使わず簡潔に、簡単に、一目見てわかる程度まで文章をまとめれば仕事量はぐんと減るだろう、ここの掲示板の依頼書は色々書きすぎなのだ、それを踏まえれば


依頼者・ヨーゼス   商路確保依頼・小型・12級冒険者以上


          場所 セイドウの森西

        討伐内容 セイドウゴブリンの完全殲滅

        討伐対象 セイドウゴブリン他商路を妨害する魔物


 報酬銀貨70枚、包帯、馬車手当あり



 文章はこれほど短くなる、この組合の従来の依頼書であればこの中間の文章の文字数が倍程度であった、しかしそれほど文章を長くする理由などないのだ、それであれば簡単である、こちゃこちゃした要求書の内容の要点をまとめるだけでよいのだ、おそらくはこれが読解スキルのレベル差なのだろう

 あとは報酬計算である、簡単な数字のの報酬はいいが、中には金額が複雑なものも多くある、それらの計算、暗算で追いつかなくなったときどうすればいいか迷うだろう、もちろん鞄の電卓使えばよいのだが電卓が壊れたらのことも考えると、、、金ためてそろばん作ってもらうほかない


 文字の大きさは少し大きめにしたほうが読みやすく、A4の紙に見合った雰囲気になるだろう、インクはすぐ切れてイライラしないようにインクの位置をなるべく近くに、少々手間だが疲れてきたとき、めちゃくちゃにならないよう線も使ったほうがいい、銅貨、金貨の報酬も混ざる場合があるから報酬は括弧をつけたほうがいいのだろう、それらをまとめると


依頼者・ヨーゼス      商路確保依頼・小型・12級冒険者以上要求

         ――――――――――――――――――――――――――――

             場所 セイドウの森西南


           討伐内容 セイドウゴブリンの完全殲滅


           討伐対象 セイドウゴブリン他商路を妨害する全て


 報酬内容 【銅貨】0枚【銀貨】70枚【金貨】0枚



 こちらの方が書きやすい、あとはこの書き方で問題がないかを確認し、確認終了後問題がなければこの形式で量産していきたい

 自分は早速隣のエリスさんに確認をとる、エリスさんは依頼書を見た後、少し考え込んでから口を開く


「あ、ああ、すごい簡潔だね、いいよ~、依頼書は10枚ごとに掲示板に張り付けるようにしてね~、ため込むと掲示板に張り切れなくなるから」

「あ、わかりました、ではこれで仕事続けますね」


 あとは隣の要求書をすべて書き起こすだけである、この調子であれば今日中と言わず2時間ほどですべての業務を終えられるだろう、これならば前の世界の業務より圧倒的に楽である






―――・・・




 と思っていた時期が私にもありました、紙の摩天楼は厚さを増してゆく、最初百枚だったのが今では200枚、10枚ごとに張り付けては書き、また貼り付けてを繰り返していくうちに気が狂いそうになってきた、先程までは100枚であった要求書が200枚に、そしていま追加されて300枚になった


「やめるなよ?逃げたら殺す」


 隣からはどすの利いた声が聞こえてくる、確かにこの仕事量、この人数で逃げられた時の絶望感は半端ではないだろう、唯一の救いはこれを休みなく三日三晩やれというわけでもないらしく、室内中央に置かれた砂時計、これが落ち切ったらそこで業務は終了だそうだ、言い方を変えれば砂時計が終わる前に仕事を消化しきらなければ明日へ持ち越しか残業となってしまう

 ブラック企業とまではいかずとも、きつい職場ではある、何といっても業務内容が単純で過密、少しずつ頭の中が蕩けてしまいそうだ


 少ししてまた依頼書を貼り付けに行く、席を立ち上がり依頼書を貼り付けるため事務室を後にする、事務室の外は活気にあふれる冒険者血が酒を飲み交わしている、これを見るた疲れが増幅した

 本日何回目かもう忘れてしまった貼り付け、しかしまあ、掲示板には前回貼り付けた依頼書のほぼすべてがしっかりなくなっているから凄いものだ、冒険者業がどれだけ活気にあふれているかがよくわかる


「あ、お、お兄さんお疲れ様です、、」


 そこには魔法使いと思わしき少女が立っていた『い、いつの間に!?』と思ったが自分が疲れて視野が狭くなっていただけだろう、白髪に白い魔法服、薄い青の混ざった白いとんがり帽子、見た目は12歳ほどのすごく若い容姿で、目は透き通るような青い目であった、彼女の手には自分がいつか書いた依頼書【貨物支援依頼】という護衛依頼書を手に握っている、依頼遂行のサインがあることから依頼を終えてきたところであろう


「あ、貴女もお疲れ様でございます。」

「事務官の人って凄く大変だそうです、、よね、私にはできません」

「いえいえ、私は命を張れないので、貴女の仕事には尊敬します」


 彼女は少し笑うと後ろの仲間に呼ばれこの場を後にした、こういった言葉を駆けられるとやる気も出るというもので、少々の活力をもらい部屋に戻ろうとした、その時である


「あ、そこのお兄ちゃん!、葡萄酒持っていくか?」


 自分を呼び止めたのは目にクマを作った冒険者向け食堂の料理人であった、彼もまた大変なのだろう、笑顔に心が籠っていない


「あ、でも仕事中ですしお酒は」

「ああ、低純度のほうの葡萄酒だよ、流石に仕事中の事務官に高純度の葡萄酒渡さねえさ、持ってきな」


 そういって渡されたのは紫色の、いわばワインである、しかし匂いは酒の匂いがほとんどしない、いわばぶどうジュースのようである、そういえば昔のヨーロッパ諸国では水がそのままでは飲めないがゆえに葡萄酒や蜂蜜酒が主な飲料だったと聞いたことがある、もしやこの世界もそうなのであろうか


≪ゴク、ゴク、、ゴク》


 その場で葡萄酒を一気飲みすると、やはりアルコール臭さはほとんどなかった、イメージとしては美味しくないワインに美味しくないぶどうジュースを大量にぶち込んだ味である、とわいえ飲めないほど不味いわけでもない、個人的には水道水よりは好きだ


「お兄さんいい飲みっぷりだね、がんばってな」


 そういわれてさらに活力が湧き、かなり疲労を回復して自分はようやく事務室に戻った、すでに事務室内の砂時計は半分どころか残り4分の1ほどまで砂が落ち、要求書の増加量もかなり減っていた、その証拠に先ほどまで掲示板に貼って戻ると30枚は増えていた要求書が4枚ほどしか増えてなかった

 席に座ると仕事の終わりが見え、少々目に輝きが戻ってきてエリスさんが口元を上げながら依頼書を意気揚々とまでいかずとも、少々機嫌よさそうに依頼書を作っていた


「やっと要求書の数も減ってきましたね」

「ああ、君が入ってきてくれたおかげだよ、君がいなきゃ私の仕事は倍で、とてもじゃないが残業は逃れられなかったからね、数年ぶりに定時で上がれる」


 悲惨な話の跡、二人は黙々と依頼書を作っては張って、作っては張ってを繰り返す、そして砂時計が落ち切った時には要求書は一枚も机の上に置かれていなかった


――・・・


 仕事時間終了と同時にミョルニさんが事務室に入ってきた、ミョルニさんは何やら少し生臭く、鎧の隙間には赤い液体が付いていた、恐らくは仕事帰りなのだろう。

 ミョルニさんの手には麻袋がいくつも握られており、それを見たみんなは疲れながらも歓喜の声を上げた、恐らくは給料だろう、そういえば【一日銀貨40枚】と書いてあった記憶がある、この世界では給金は日払いなのだろう、ミョルニさんは各自の机に麻袋を置いてった、麻袋からは幸せな銀貨の音がする


「はい、最後にカオル君、君は入会報酬含め銀貨360枚だ、これからもよろしくお願いするよ」

「ありがとうございます」


 ミョルニさんはそう言って袋を自分に渡すと自分とエリスさんの机をみて少々驚いた表情を見せた後、表情をゆるめてエリスさんに話しかけた


「どうだいエリス、新人君の働きは」

「文句なしですよ、入会当日に私の仕事半分請け負ってちゃんと終わらせましたし、お陰様で数年ぶりにまともに仕事終わりましたよ」

「それは良かった、エリスには仕事が偏りすぎていたからね」


 そういってミョルニさんはまた事務室を後にした、自分はこのあと、、、どこにけばよいのだろうか、衣食住は確保してくれると聞いてはいたがそういえばそれについて全く聞いていなかった


「あ、エリスさん、衣食住保障って求人に書いてあったんですが」

「あ、そうね、食事は事務官ならロビーの食堂使い放題よ、食事付き合ってくれるなら食事後の帰宅がてら案内するわよ」

「では食事一緒させてもらいます」


 自分たちはそういって事務室を後にした、相変わらず組合内は騒がしいが、昼間の騒がしさとは打って変わり、比較的明るいというか、平和的であった、恐らく仕事終わりだからであろう、掲示板の依頼書はほぼ全てなくなっており冒険者たちは昼間とは違い本当の酒をがぶ飲みしていた

 エリスさんは食堂付近の席に座り、先ほど葡萄酒をくれた男の人を呼び寄せて早速注文をし始めた


「カオル嫌いなものは?」

「えっと、基本はありませんが」

「じゃあ、えっと、飛竜の唐揚げ二つ、コラッタスープ二つ、ライ麦パン4つ、蜂蜜酒の低純度2つ、あとそうね、適当にフルーツこしらえて」


 適当にエリスさんが自分の分まで注文した、個人的にはこの世界の食べ物なんてわかるわけもないのでそちらのほうが助かる、そして料理人は注文を受け、顔を上げた後目を見開いて固まった


「え、エリス!?お前が定時上がり!?、な、な、なにがあったんだ、さぼりか!?」

「ちゃうわぼけ、そこの新人カオル君が仕事半分請け負ってくれたから終わったのよ」

「え、あれ貼り付けしてただけじゃないんだ」

「よく掲示板見てみなさいよ、書き方二種類になってるじゃない」


 料理人は掲示板を見た後に唖然とした顔でこちらを見て、そのあと驚いた表情で自分に話しかける

「凄いじゃないか、えっとカオル君だっけ、俺の名前はシャフ・シーザ、君のフルネームは?」

「自分はトウドウ・カオルといいます、今後もよろしくお願いします。」


 自分の名前を聞いたシャフは注文をメモしたのちに厨房に下がった、料理の来るまでの間暇なので周囲を見渡すことにした、組合内のロビーでは武器の手入れ、食事、道具の整理など色々なことをしている、特にこの時間になって急増したのは道具の整理である、冒険者たちが持っている革の鞄の中には小瓶に入った回復薬からナイフまで色々なものが無駄なく入っている、みんな同じ規格のウェスタンポーチのような鞄を持っていることから察するに、冒険者の鞄といえばあれなのであろう

 周囲を見渡した後、正面を向きなおすと目の前にはエリスさんがまるで机に伏して寝る学生のように机に伏していた、それを見ていると自分もだんだんと眠たくなってきた


 どんどん目蓋が重くなっていく、次第に景色が暗くなってきて、そして自分も最後には寝てしまった。

近々更新できると思います。宜しくお願い致します。

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