無職の自分とペンの彼ら プロローグ
気が付けばそこは異世界であった、何を言っているかわからないかもしれないがそこは異世界であったのである、石でできた街並みはあたかも中世ヨーロッパのようで、街をあるく人々の格好は「一狩り行こうぜ!?」のあのゲームの街のようであった。
自分の名前は藤堂 香、腕にはチープナシオの時計、時刻は6時15分、5時40分に帰社、6時に会社すぐ近くのミス・揚げパンというドーナッツ屋で大好きなココナッツチョコレートのドーナッツを買って家で食べようと歩いていた、で、6時から6時15分の間の記憶がなく、6時15分には意味の分からない世界に迷い込んでいた
異世界である、そう確信したのは魔法使いがいたからでも、ましてや街が日本の街じゃないという理由でもなかった、今の自分にはとあることが思い出せないのだ、漢字、ひらがな、英語、ローマ字などが一切、完全に思い出せないのである、代わりに目の前に並ぶ看板の文字が理解できてしまう、おそらくだが書くこともできてしまうだろう、自分の名前が正しく思い出せないし、好きな子のあの漢字が思い出せない、自分の夢見たヒーローをカタカナで書くことももはや叶わない
しかしそれ以上の混乱はない、こういった場合もう少し混乱するものかと思っていたが、先ほど気が付いた文字の変化以外には思いのほか混乱することもなく、自分は周囲を見渡した、ここで最初に思ったことは〔どうやって生活していこう〕という感情であった
自分の勤めていた会社は実のところ倒産が危ぶまれていた、それ故に常日頃から明日からどうやって生活していこうかといつも考えていたものである、近日ついたその癖が労をこうしたというのであろうか、混乱好奇心などの感情よりも生活を案ずるようになっていた
周囲には魔物退治、商人護衛、色々な求人の張り紙が掲げられている、しかし自分が周囲の男たちのように剣を片手に戦うことなんてできない、というか日本人の7割は剣を持って振り回すことも叶わないだろう、無論、魔法だって使えない、いろんな意味で自分は魔法使いであるが、本当に魔法が使えるなら魔法使いになんてなっちゃいない。
他には鍛冶屋手伝い募集、ただし金属スキル取得者に限る、料理人募集、料理レベル3以上とか、もちろんそんなことスキルとやらを理解するまでもなく出来ない、しかし、スキルとやらを理解せねば就職は厳しそうなのが現状であった。
「す、、、スキルオープン」
色々とち狂って片手を前に出して童心を思い出しながらなんかそれっぽいことをやってみた、こんな厨二くさい真似をしたのはいつぶりだろうか、恥ずかしくてしにそうであ、、、
『スキル・筆記、レベル5 スキル・算術、レベル6、スキル・作表、レベル4、スキル・交渉術、レベル2 スキル・読解、レベル6、スキル・礼術、レベル2』
な、、、なんというチートスキル!!、というほどでもなかった、というかこのスキルどう考えても自分の元々持ち合わせていたものである、これ事務員ならだれでも持ち合わせている能力なのだ、特に交渉術のレベルが生々しい、礼術は、、、まあこの世界の礼儀作法など知りもしないし仕方ないだろう。
ともあれ自分が鎧を着て野原を駆け回ることは出来ないようである、周囲を見渡してもこのスキルの求人はほぼない、商人手伝い募集には交渉術のレベルが不足気味、いかんせんとも求人に見合う人材にはなれなかった
「お?」
思わず声を上げた、というもの見た先の冒険者組合「青の集い」の壁には『聖術魔術師募集』、『クレセイダー募集』、などの求人の中、自分にお似合いの張り紙を見つけたのである
—―冒険者組合事務員募集、筆記、算術、作表、読解、全てレベル3以上 募集、一日銀貨40枚報酬、衣食住保障、契約期間5年、再契約あり、緊急募集により契約成立時銀貨320枚を差し上げます—―
これを逃すわけにもいかない、自分はさっそく木造の大きな建物めがけて歩き、大きな扉を開けた、中にはいかつい冒険者、可憐な魔導士たちが酒を飲みかわし、巨大な仕事掲示板と思われる仕事内容の書かれた紙の張り出された掲示板の前には冒険者たちが群がっていた
「おいおい、兄ちゃんこんなひょろひょろ、杖無し、魔導書なし、弓無しで何しに来たんだ~、ここは商人組合じゃねえぞ?」
一人の中年の冒険者が自分に絡んできた、たしかにスーツ姿の自分はこの場には不釣り合いだろう、自分でもそう思う、しかし自分は冒険者ではなく事務員になりに来たのだ、ここで引くわけにはいかない
「えっと、事務員募集をみて、、、」
その瞬間、吹き抜けになっている二階から金色の髪の毛にきれいな白い鎧を着た女性が二階から飛び降りてきた、女性の要旨は『クール』という言葉を体現したかのように美しく格好良かった。
「じ、事務官募集を見てきたって!?、本当か!?、こ、こっち、こっちだ!!」
俺はその女性に手を引かれ、半ば強引に建物の奥の部屋に連れ込まれた、連れ込まれた先は目の下にクマを作った人たちがペンを片手に仕事をしている、自分の会社のオフィスそっくりの事務室であった。
さらにその奥、会社でいうと部長が座っていそうな少し豪華な椅子のある場所まで行き、その目の前に椅子を置かれるとその椅子に自分は座らさせられた。
「さて面接だ、面接だ!!」
「は、はあ」
自分に差し出されたのは白紙の紙であった、それを手に取ると紙には青白く自分のスキルが浮かび上がる、それを見た瞬間その女性は一言。
「はい合格!、予想以上の人材だ!」
「あ、あの、せ、説明とかお願いします、業務内容とか」
そういうと女性は少し息を整えた後、数枚の資料を自分に手渡し先程の興奮した状態とは打って変わって落ち着いた感じで説明を開始した
「我々青の集いは主に3つの財源で成り立っている、1つは商人向けの『人材派遣』商路確保、商人護衛において金をもらい、その金の4割が組合の資金になる、2つ目は『魔物の販売』生け捕りにしろ鱗などにしろ、魔物を討伐してもらいそれを分解して売るなりペット販売するなりし、その販売金額の一部が組合の資金になる、最後に青の集いの冒険者向けの食糧販売、防具販売など『組合員向けの商品販売』まずこの組合の実態について分かったかな?」
「はい」
「次に君の仕事は、あの掲示板に張り出されていた依頼書、あれの作成と貼り付け、商人からの依頼の受付、冒険者たちの功績の資料化、収入、支出の表作成、これらが仕事になる、現在事務官は7人、その中で文字をかける事務官は4人、計算できるのは3人だ、作表できるのは1人、きつい労働になるだろうが、、その、よろしく頼む」
辛そうだ、しかしこの機会を失うわけにいかず、自分は首を縦に振った、そして後ろを振り向くとそこには死んだ目を輝かせた事務官たちが希望に満ちた目でこちらを眺めている。
「おっと、最後に私の自己紹介だね、私はクリスティーナ・ミョルニ、君の名前は?」
「自分は、、、トウドウ・カオルといいます、宜しくお願い致します。」
「では、君への業務説明は、、、あの赤い髪の毛のツインテールの女の子、あれが教えてくれる、この事務室唯一の作表計算全部できる、君と同じ高級事務員だ」
自分はミョルニさんに言われるがままに事務室の壁側の、紙の摩天楼に囲まれたツインテールの子の元までいった、その子は非常に可愛らしい要旨なのだが、目の下にはクマがぎっしり、加えて疲れからか目の焦点が合ってなかった、元気であれば「くぎゅううう」な声をしていそうである。
「あ、えっと、無理です、これ以上仕事できませんよミョルニさん」
「え、えっと、その仕事の説明を」
「仕事!???もう無理ですううううう、いにゃああああああ」
だいぶキテる、これは重症であった、高校時代名門大学に行こうとしていた同級生の後半に似ている。
「えっと、新しく入社しました、カオルと申します!、スキルは貴女と一緒で事務全般、業務説明をお願いします!!」
「え!、あ、ああごめんね~、え、作表できるの?」
「はい」
そういうと彼女は目を輝かせながら自分のジャケットの裾をつかんだ、よほど仕事過多だったのだろう、その手は振りほどけそうにないほどしっかりつかんでいた。
「君の仕事は作表が主になるよ、えっと、机の上にある「仕事内容要求書」これを二種類に分けるの、商人向けと討伐販売向けで分けて、次にえっと~、要求書には乱雑に書かれているけど、仕事内容と利益と受注者が書かれているから、紙の一番上に受注者と仕事内容の題名、紙中央に仕事内容、一番下に報酬と手当、を書く、要求書に書いてある利益、これの6割が報酬になるから計算してから報酬をかくように、最後に紙の裏に残り4割の金額を書いておいてね、これで依頼書作成の完成、討伐販売の場合、要求書に部位の値段書いてあるから、依頼書の報酬欄は部位ごとに並べていってその各値段、そしてそれの最終値段を書いてね、欠損あったら天引きするのに必須項目になるから、部位の値段からもしっかり4割引いて裏に書くことを忘れないようにお願いね」
大体は理解した、要求書を依頼書に変える仕事、それだけ聞けば十分だ、しかしここにきて疑問なことが一つあった、それは、、、
「自分の席はどこでしょうか」
「あ、ああ~、そうだね~、私の隣の席空いてるからそこでいいよ、これからよろしく頼むね~」
そういわれるがまま席に着くと、彼女はにこにこしながら自分の紙の摩天楼の5割を自分の机の上に置いた、そして一言
「私の名前はイリス・テトラ、君の名前は?」
「あ、トウドウ・カオルです」
「、、、やめるなよ?」
最後の「やめるなよ」の声はどすの利いた声で、うなずくことしかできなかった、そして早速仕事に取り掛かる、要求書の枚数はおよそ、、、百枚強はあるだろう、それに加えて書きにくいペンときたものだ、しかしこれも仕事だと自分は早速仕事に取り掛かった
近日中に1話は上げます、今後ともよろしくお願いいたします